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身体に毒

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 オレは殴られた頬っぺを摩りながら戻る。

 「どういうことだ!?何故貴様は壁の中に入れるのだ!?」

 「え!?壁の中って・・・本来はここは何がある部屋だったのですか!?」

 「恒興!答えよ!ここはなんだったのだ!?」

 「は、はい!何もありませんでした!急に戸が現れ此奴が現れるようになりました!」

 「わけが分からぬ!貴様はこの向こうが見えるのか!?」

 「え!?あ、はい!オレの家が見えます!というか部屋が見えます!」

 「チッ。貴様も見ておれ!」

 信長さんがそう言うと壁に体当たりしだした。向こうに部屋が見えるが入れる様子はない。小さく見えるばあちゃんの写真が笑ってるように見えるだけだ。

 「どういうことでしょう・・・物怪でしょうか?」

 「恒興!此奴が物怪に見えるか!?小便漏らしだぞ!?」

 ここで思い出して欲しくない事を言われました。どうもありがとうございました。

 「えっと・・・オレは明日仕事があるのでそろそろ・・・」

 「仕事だと?何の仕事だ!畑か?商いか?」

 「え!?あ、まぁ商い・・・ですかね!?」

 「何を売っているのだ!貴様の形(なり)では奪われてしまうのではないのか?大小持たずに大丈夫なのか?」

 「すいません。本当にもう夜中なので詳しくは明日また来ますのでかまいませんか?明日終われば2日休みなのでお酒でも持ってきますので勘弁してください」

 「お館様!此奴に毒を盛られるやもーー」

 「黙れ!ワシは此奴が気になる!何が何でも此奴の世界を見てみたい!方法はあるはずだ!他にも聞きたい事が山程ある!貴様!名はなんと申す?」

 「合田武蔵と申します」

 「ほう?良い名前ではないか!名前負けせずに励め!臨時で貴様を俸禄にて召し抱えよう。相伴衆じゃ!」

 なんか勝手に雇われた件。これ税金関係は大丈夫なのか!?お母さんに聞いてみないといけない!

 「相伴衆?が何かは分かりませんが・・・とりあえずその横にあるカップラーメン食べてください。蓋を開けて湯を注いで3分待ったら食べれますので。では失礼します」

 「ま、待てッ!!」

 そう聞こえたがさすがに夜中3時近くなっているためオレは聞こえないフリをして帰る事にした。不思議な事だらけだ。ってか明日のバイト地獄じゃん!!


 次の日目覚ましでちゃんと起きる。今までならブッチしたりしてたが今回は真面目に働こうと思っている。ってかそれにしても2人とも貫禄ありすぎだろ!?あの時代って西暦何年だよ!?見た目は40歳くらいに見えたよな・・・

 検索かけてみるか。織田信長40歳と・・・1573年・・・もし歳が合っているなら三方ヶ原の戦いの翌年で武田信玄が亡くなった年か。これも今日の夜にでも聞いてみようかな。

 「うん!武蔵君!おはよう!」

 「あっ、田中さんおはようございます!」

 「頬っぺどうしたんだ?喧嘩でもしたのかな?」

 「え!?あっ、いや転んだだけです!なんでもありません」

 「そうか。それならいいんだが。俺は若い頃喧嘩に明け暮れてたんだ。警察にも何回もお世話になった。ここら辺では喧嘩屋の田中と恐れられてたんだぜ?」

 「え!?そうなんですか!?今とは全然違う感じですか!?」

 「え?あぁ、まぁな。昔20人に囲まれた事があったんだ。けど追い返したぜ?」

 「どうやってですか!?鉄パイプとかですか!?」

 「いや?道具を使うのは弱い奴がする事だ。俺はな・・・この拳でな?ははは!喧嘩はいかんよ!喧嘩は!ははは!」

 絶対に嘘だな。最後まで信じてたが田中さんは優しすぎる。本物は池田さんや織田さんの事を言うんだろう。オレには分かる。あの2人は絶対に人を殺った事がある人達だ。


 この日も沙汰なく仕事をこなして一日が終わった。帰りに母ちゃんに電話をする。

 「もしもし?母ちゃん?オレだけどばあちゃんのトイレが戦国時代に繋がってるんだよ」

 『は!?あんた何言ってんの?』

 「いや言葉のままなんだけど・・・」

 『はぁ~・・・だから私は一人暮らしなんてさせたくなかったのよ。ゲームのやりすぎは脳が現実と区別ができなくなってなんちゃらってワイドショーで言ってたのよ!?早くあなたは帰りなさい!?』

 ヤバイ!オレの女の子ライフが迎える前に終焉になってしまう!

 「いや何でもないよ!実はそういう漫画を見つけてね!?教えてあげようと思っただけだよ!明日の休みはしんどいから帰らないけど来週には帰るから!大丈夫だから!」

 『本当に?大丈夫なの!?お母さん心配だよ!?』

 「大丈夫だから!じゃあね!?切るよ!?」

 母ちゃんが若い頃はこんな事なかったはずだ。だが何で戦国時代にトイレが繋がるんだろうか。

 「答えてもらいたい!!ばあちゃんよ!!」

 「・・・・・・・・」

 心なしかばあちゃんの顔が引き攣ってるように見える。オタクな孫でごめんな。オレはこんな風になっちまった。あれもこれも彼女ができないせいなんだ。里志君のせいなんだ。

 あっ、頭の良い里志君に聞いてみようか。

 「もしもし?里志君?今いい?」

 『おう!どうした?』

 「実は聞きたい事があるんだけど、もしもな?もし、戦国時代に行ったとして織田信長や偉い人に会えばなんて呼ぶのが普通なんだ?」

 『面白い事聞くんだね?そうだな・・・まあまず信長なら織田様と呼べば間違いないと思うけどどうしたの?』

 「いやなんとなく気になってね?織田上総介平朝臣信長・・・」

 『え?武蔵君って歴史得意だっけ?中々知ってる人居ないと思うよ?』

 「この意味って分かる?」

 『古代の日本は、名前に「氏姓制度」が採用されていたんだよ。端折るけど、俺は源ほにゃららだ!とか我こそは平ほにゃららだ!ってね?要は自分のルーツを名前に入れ、官職を組み込んだって事だよ』

 「なら映画やドラマで見る信長様ッ!って呼ぶ事なんかは・・・」

 『あぁ!あんな言い方すれば家族や目上の人達なら許されるだろうけど他人なら斬首になってもおかしくないだろうね。それにしても今から歴史の勉強してるの?里志?誰と話してるの?』

 「あっ、悪い。彼女と居たんだな!また連絡するよ!ありがとう!」

 『いやごめんごめん!実は同棲する事になったんだ!武蔵君に会ってみたいって言ってるから今度夏休みにでも帰省する時に紹介するよ!じゃあな!』

 「分かったよ!仲良くな?バイバイ!」

 はぁ~・・・・里志・・・オレのライフは0だよ・・・。電話でもイチャイチャしやがって!こうなれば早く彼女を見つけないといけない!



 「お館様?湯を注ぐと申しておりましたがどのようにして注ぐのでしょうか?蓋とはどれでしょうか?」

 「そんなのワシが知るか!食い物に興味はないがどんな味なのかは気になる!器に移して湯を注いでも良いだろう。適当に器に移せ」

 「はっ。二つありますゆえ、一ついただいても?」

 「構わん。許す!」

 「はっ。ありがたき幸せ」


 「それでさんぷんまつと言っていたがさんぷんまつとはなんじゃ?」

 「さあ・・・新しい松の木でしょうか!?」

 「まぁ良い。湯を注ぎ食えと言っていたから食えば良いの・・・・」

 「お館様!?まさか!?毒!?お吐き出しください!!誰ぞある!毒を盛られた!医者を呼べ!!」

 「恒興!静まれッ!!何ともない!だがこれは貴様には少々毒である!よって、ワシが片付けておく!下がって良いぞ!」

 「・・・・・お館様?」

 ジュルジュルジュル~

 「なんじゃ?」

 「一口・・・ワシも食べてよろしいですね?」

 「いやいかん!これは毒じゃ!ワシに任せておけ!」

 「池田様!?大丈夫でしょうか!?」

 「あぁ。蘭丸すまん。なんでもない」

 「うん?なにやら良い匂いがしてますな?新手のうどんですか?某も食べてみとうございます!」

 「蘭丸!近うよれ!熱いからゆっくり食え!」

 「・・・・おやかたさま・・・」

 「チッ。一口だけぞ?味わって食うが良い」

 「なんと!?これは・・・」

 「お館様ッッ!!ご無事でしょうか!?」

 「チッ。恒興が叫ぶから集まってきたではないか!なんでもない!皆下がれ!」

 「御無事でなによりですが・・・池田殿?それはなんですかな?」

 「明智殿これは・・・新手のうどんです!明智殿のような京に明るい者が食べる物ではございませぬ」

 「ほうほう。ですがワシですらその隅にある入れ物は見た事がありませんな?お館様に何かあるといけませぬからな?ワシとてお館様を思う気持ちは同じ。是非味見をば。そして明日以降いつでも作れるようにしておきませんとな?」

 くそ!明智めが!そう言われ断れば先が見えぬ者とワシが見られてしまうではないか!頭のキレる奴が!

 「ふん。光秀!一口ぞ!食え!」

 「では失礼をば・・・お館様・・これをどこで・・・うどんに在らず。様々な味がしよります。ゴホッゴホッ・・・少し辛うございますがこれぞお館様好みの味では!?」

 「京生活が長かったからこれを辛いと感じるか。ワシはこのくらいで良い。これはとある者から貰った。明日、皆を集めよ。いや・・・何でもない。後日みんなに紹介致す。下がれ」

 はぁ~・・・頭のキレる明智なら明日は必ず登城してお館様から離れぬであろう。このような美味い物があるとは・・・。それに確か酒も持ってくると言っておったな・・・あんな小便漏らしに期待してしまう自分が情けなし。
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