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ご主人様との再会
しおりを挟む混乱している私の前に息を切らした魔女が現れる。
「まったく手を煩わせて。やっと出てきたかい」
青年が私を守るように片腕で強く体を寄せた。目の前を長い黒髪が揺れ、バラの香りが全身を包む。
(この感じ……セシルさんと同じような……)
美青年に抱きしめられ、甘ったるそうなシチュエーション。でも、実際は空気がビリビリで超不穏な殺気が満ちて。
戸惑う私を置いて、青年が魔女に話しかける。
「毎度、毎度、人の城に不法侵入しないでもらえます?」
「あんたが出てこないのが悪いんだよ!」
「だからって、こんな霧まで発生させて。魔力の無駄使いって言葉知ってます?」
「うるさい男だね!」
耳障りな金切り声が響く。魔女がこちらに木の杖を向けた。
「グダグダ言わずに、おまえの血をよこしな!」
「断ります」
青年がキッパリと魔女の言葉を蹴る。凛とした涼やかな声。状況を忘れて聞き惚れてしまいそう。
「なら、その人間の娘がどうなってもいいんだね!」
鋭く睨みつけられ、その迫力に私の体がすくんだ。青年の右目にあるモノクルのチェーンが心細く音をたてる。
「手は出させませんよ」
「この霧の中で、その強がりもいつまで続くかな!」
魔女が杖を私たちに向けた。青年が私の体を抱えて横へ飛ぶ。すると、先程までいた場所の土が弾けた。
「ふぇぇ……」
思わず声が漏れた私に青年が微笑む。
「心配しないで。これを持っていてください」
そう渡されたのは金色の鍵。私がもっている主の部屋の鍵と同じ。
「あの……」
質問しようとした時には青年の姿は薄くなっていた。
「え!?」
驚きとともに手を伸ばせば、青年の体が霧にとけて消える。
「チッ、どこだい!? 魔力封じの霧の中じゃあ、魔法も使えないから逃げられないだろ!」
周囲を見渡す魔女に青年の声がどこからともなく木霊する。
「霧は私の本質の一つでもあるのでね。魔力が封じられていても問題ありません」
暗い霧の空に穴があき、一本の光の道が降り注いできた。
「なんだい? 眩しいだけ……って、あ!」
一羽のカラスが急降下して魔女の三角帽子を奪い去った。日光を遮る帽子がなくなり、日差しが魔女の白い顔を照らす。
「それを返っ、あぁぁ!」
魔女が顔を押さえて叫んだ。指の隙間から白い陶器の欠片のようなモノがポロポロと落ちる。その先には深いシワとシミに染まった皮膚が。これが本当の魔女の顔なのだろう。
苦悩する魔女の周囲から霧が消えていく。
爽やかな秋風が霧を遠くへ運び、景色が現れた。ここは、屋敷の裏庭と森の境目。遠くに屋敷の屋根が見える。
「さて。これから、どうなさいますか?」
聞き慣れた声。私の前に霧が集まり形を成していく。襟足だけ長く伸びた白髪。それを結ぶ赤いリボン。細い糸のような目に、右目にかけたモノクル。
「セシルさん!」
「ケガはありませんか?」
セシルさんが軽く微笑みながら私の前に立つ。急に恥ずかしくなった私は視線を伏せて頷いた。
「は、はい。大丈夫です」
「それは良かった」
ぽんほんと頭をなでられて沸騰直前のようになる。頭がクラクラして真っ直ぐ立っていられない。
顔が真っ赤になっているであろう私は、それを隠すように両手で頬をおおった。
そこに存在を忘れかけていた魔女の呻き声が響く。
「わ、私の顔をよくも! おまえなんか猫になっちまえ!」
魔女が杖を振り下ろす。
「セシルさっ!」
私はとっさにセシルさんの前に両手を広げて飛び出した。
「キャッ!」
「ミア! ミア!?」
セシルさんの声が遠くなる。全身が痺れ、私は意識を失った。
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