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お飾り妻の真実
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ドォォオン!
街の一角で爆発音がした。伯父がその方角を見て顔を青くする。
「私の屋敷から煙が!?」
そこに自分の名を呼ぶ声がした。
「陛下!」
一つにまとめた柔らかな金髪が宙を舞う。紫水晶の瞳が鋭く光り、大剣が空を斬った。それだけで、私を拘束していた枷とギロチンが崩れ落ちる。
トンッ。
軽い音とともに、騎士服に身を包んだ豊満な体が舞い降りた。細腕には似合わない大剣を肩に担ぎ、凛と顔をあげた少女が宣言する。
「我が陛下を奪還に参った」
鮮やかな花飾りから質素な髪ゴムへ。可愛いドレスから騎士服へ。ヒールからブーツへ。ティーカップから大剣へ。可愛いをすべて置いてきた少女。
その姿を私は唖然と見上げた。
「き、貴様は!?」
気高い紫の瞳が悠然とこたえる。
「私は皇帝の妻。私の命運は夫とともにある」
少女が大剣の切っ先を伯父の喉元へ突きつけた。
「兵よ! 少しでも動けば、此奴の首を刎ねる!」
響き渡った声に、兵は困惑するのみ。
一方で、首に剣を突き付けられた伯父が吠える。
「何を偉そうに! 皇帝から渡された国の金を私利私欲で浪費したくせに!」
「これが浪費と言うならば、そうなるな」
少女が空いている手を空へ掲げる。
すると、裏路地から飛び出した女騎士団が混乱している兵へ剣をかまえた。
「どういうことだ!?」
「与えられた金は、すべて女騎士団へ投資した。形だけだった女騎士団を鍛え直し、武器も揃えた。戦で女は使えないと軽視していた殿方たちは気付きもしなかったがな」
「なっ!?」
「あと、そなたが横領した金銭に比べれば、私の浪費など微々たるもの」
「茶会をしているだけの女ではなかったのか!?」
伯父の問いに少女がフッと笑う。
「ただの茶会に、なんの意味がある? 定期的に開いた茶会は情報収集のため。反乱を起こす気配がある貴族の令嬢を集め、親や家の動向を探っていたが、この反乱を企てている中心人物だけが不明だった」
「だが、これからどうするのだ? こいつを連れて、この国から逃げられると思っているのか?」
「逃げる? まさか」
そこに早駆けの馬が近づいてきた。
「伝令! 隣国の軍が帝都を包囲しております!」
騎士からの報告に伯父の顔が青くなる。
「なっ!?」
「父に援軍を頼んでいたが、到着したようだな」
「まさ、か……」
反乱が失敗したことを悟り、崩れ落ちた伯父が恨めしげに私を睨む。
「貴様がこんな計画を……会話もほとんどない仮面夫婦という報告は誤りだったのか!」
その言葉に私は軽く笑いながら、魔力を使いきり重くなった体を立ち上がらせた。
「いや、誤りではない。ここ数年、会話らしい会話はなかった」
「ならば、どうやって……手紙か!? いや、手紙のやり取りもなかったはず」
私は皇帝の仮面を捨て、少女の腰を引き寄せた。
忌み子として捨てられた自分を育てた公爵の末娘。じゃじゃ馬すぎて公爵も匙を投げたほど。
「やっと、私に触れたな。言いつけ通り、可愛いを演じたぞ」
腕の中で悠然と微笑む妻。その笑みに頬が緩む……が、カッコよすぎて少し悔しい。
「あぁ。おまえはオレのことを知り尽くした、最高にカッコいい女だ」
そう言ってオレは男前な言葉を紡ぐ口を唇で塞いだ。
街の一角で爆発音がした。伯父がその方角を見て顔を青くする。
「私の屋敷から煙が!?」
そこに自分の名を呼ぶ声がした。
「陛下!」
一つにまとめた柔らかな金髪が宙を舞う。紫水晶の瞳が鋭く光り、大剣が空を斬った。それだけで、私を拘束していた枷とギロチンが崩れ落ちる。
トンッ。
軽い音とともに、騎士服に身を包んだ豊満な体が舞い降りた。細腕には似合わない大剣を肩に担ぎ、凛と顔をあげた少女が宣言する。
「我が陛下を奪還に参った」
鮮やかな花飾りから質素な髪ゴムへ。可愛いドレスから騎士服へ。ヒールからブーツへ。ティーカップから大剣へ。可愛いをすべて置いてきた少女。
その姿を私は唖然と見上げた。
「き、貴様は!?」
気高い紫の瞳が悠然とこたえる。
「私は皇帝の妻。私の命運は夫とともにある」
少女が大剣の切っ先を伯父の喉元へ突きつけた。
「兵よ! 少しでも動けば、此奴の首を刎ねる!」
響き渡った声に、兵は困惑するのみ。
一方で、首に剣を突き付けられた伯父が吠える。
「何を偉そうに! 皇帝から渡された国の金を私利私欲で浪費したくせに!」
「これが浪費と言うならば、そうなるな」
少女が空いている手を空へ掲げる。
すると、裏路地から飛び出した女騎士団が混乱している兵へ剣をかまえた。
「どういうことだ!?」
「与えられた金は、すべて女騎士団へ投資した。形だけだった女騎士団を鍛え直し、武器も揃えた。戦で女は使えないと軽視していた殿方たちは気付きもしなかったがな」
「なっ!?」
「あと、そなたが横領した金銭に比べれば、私の浪費など微々たるもの」
「茶会をしているだけの女ではなかったのか!?」
伯父の問いに少女がフッと笑う。
「ただの茶会に、なんの意味がある? 定期的に開いた茶会は情報収集のため。反乱を起こす気配がある貴族の令嬢を集め、親や家の動向を探っていたが、この反乱を企てている中心人物だけが不明だった」
「だが、これからどうするのだ? こいつを連れて、この国から逃げられると思っているのか?」
「逃げる? まさか」
そこに早駆けの馬が近づいてきた。
「伝令! 隣国の軍が帝都を包囲しております!」
騎士からの報告に伯父の顔が青くなる。
「なっ!?」
「父に援軍を頼んでいたが、到着したようだな」
「まさ、か……」
反乱が失敗したことを悟り、崩れ落ちた伯父が恨めしげに私を睨む。
「貴様がこんな計画を……会話もほとんどない仮面夫婦という報告は誤りだったのか!」
その言葉に私は軽く笑いながら、魔力を使いきり重くなった体を立ち上がらせた。
「いや、誤りではない。ここ数年、会話らしい会話はなかった」
「ならば、どうやって……手紙か!? いや、手紙のやり取りもなかったはず」
私は皇帝の仮面を捨て、少女の腰を引き寄せた。
忌み子として捨てられた自分を育てた公爵の末娘。じゃじゃ馬すぎて公爵も匙を投げたほど。
「やっと、私に触れたな。言いつけ通り、可愛いを演じたぞ」
腕の中で悠然と微笑む妻。その笑みに頬が緩む……が、カッコよすぎて少し悔しい。
「あぁ。おまえはオレのことを知り尽くした、最高にカッコいい女だ」
そう言ってオレは男前な言葉を紡ぐ口を唇で塞いだ。
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