54 / 63
突然ですが、ドナドナされました
しおりを挟む対抗戦当日の朝。俺は緊張や不安というよりも対抗戦に出るのが嫌すぎてゲロりそうになっていた。心の底からドタキャンしたい。誰か代役で出て欲しい。俺には無理。この学園の貧弱生物ですよ?? 人間が亜人に勝てないのは常識だと思うんだけど、華薇先生を見てるとそうでも無いかもと思い込んぢゃうのかな…ここの生徒も先生たちも。
「「はぁ・・・帰りたい」」
俺と妹華の叶わぬ願いの言葉が重なる。こういう所は兄妹だなとしみじみ思う。然し、今更とやかく言ってもどうしようもない。ここに来た時点で帰るという選択肢は無くなっている。今あるのは『敗北』と『降参』のどちらかの選択肢のみ。俺的にはすぐさま降参したいところなんだが、タッグマッチともなるとペアが同意しなければ無効になってしまう。最悪な事に俺のペアは陽汰先輩である為、降参の選択肢は元から排除されているに決まっている。結局、俺に残された選択肢は『勝利』と『敗北』のどちらか。正直、怪我する前に安全に敗北したい。まぁ、無理だと思うが。
「さて、そろそろ開会式だ。行こうか」
陽汰先輩が舞台の袖から、俺達に声をかける。どうやら対抗戦の前に出場メンバーの発表がもうそろ始まるらしい。俺達が席を立つとそのタイミングで、舞台から司会者の声が響き始める。
「今日は待ちに待った一年に一度の対抗戦!!今年も生徒会チームと風紀委員会チームが互いの全てをかけて火花を散らす!!では、先ずは生徒会チームの紹介です!!」
それを合図に壁に貼り付けられたモニターに生徒会のメンバーが映し出されていく。
「先鋒! 生徒会会計・青柳シェロぉぉおお!!そして、彼女のパートナーはなんと!妹絶対主義お兄様!青柳ユウぅぅうううう!!」
どうやら先鋒から大将へという順番で舞台に出ていくらしい。
「よし、行くか。シェロ」
「・・・足だけは引っ張らないでくださいね」
ユウ先輩がシェロさんを肩に座らせて舞台へと緊張もなく堂々と出ていく。歓声が湧き、その後も次々とメンバー紹介が行われ、大将の番が来た。
「お待たせしまた!最後は我らが生徒会長!!誰よりも正義感が強く生徒だけでなく教師からも熱い信頼を寄せられし男!!聖桐陽汰ぁぁあ!!」
そう紹介が終えると先程まで以上の歓声が響き渡る。本当に陽汰先輩は大人気らしい。そんな人の後に俺の紹介とか辛すぎる。
「彼のパートナーは、先程紹介した久慈宮妹華さんのお兄さんであり、華薇先生の下僕で有名な二年生!!久慈宮兄太ぁぁあ!!」
・・・・?? 華薇先生の下僕?俺ってそんな風に思われてたのか…。
「みんな、今日は応援よろしく頼むよ」
「・・・・」
陽汰先輩は舞台に出て、司会者からマイクを受け取ったあと、そう声掛けをする。既に生徒達の大半が生徒会チームに寄っていることだろう。
「それでは、次は風紀委員会チームの紹介を始めます!先鋒!! 全男子の心をへし折ってきた氷結女王こと雪柳結七ぁぁあ!!」
その紹介と共に現れたのは、俺の中学時代の後輩だ。枝毛ひとつない美しい白髪と凛とした表情は、慈愛園の男子共の心を撃ち抜くには十分だろう。
「そして次はパートナー・・・・」
次々と風紀委員メンバーが紹介されていく中で、副将で魔宙先輩の名前があがった。それに関しては俺以外にも生徒会メンバーや観客も驚いていた。風紀委員長なら大将戦に出ると思っていた。然し、順番を決めるルールに、大将は必ず生徒会長と風紀委員長のみとは記載されていなかった。という事は、アイツが大将戦に出るというわけだ。
「まさかまさかの風紀委員長が副将との事で驚きですが、気になる大将はコイツだぁぁあああ!!風紀委員会の番犬!天風狗兎ぅぅううう!!」
その紹介と共に、天風が姿を現し、舞台に既に立っていた俺に敵意のこもった視線を向けてくる。勿論、目を合わせることはしない。こんなめんどい奴の相手をするほど俺も暇ではない。というか単純に関わりたくないだけだったりする。
「ふんっ。僕の事を無視するとは相変わらず君は舐めているようだね、久慈宮兄太」
司会者からマイクを奪い取り、そう声をかけてくる。まさかマイクを使用しての発言とは、観客から変に注目されてしまうじゃないか。予想通り観客がざわめき始める。
「はははっ!随分と躾のなってない番犬だね。でも、兄太君には役不足だと思うよ、淫魔風紀委員長」
「あら、そちらこそウチの番犬を舐めてると痛い目を見るわよ、ガリ勉君」
バチバチと陽汰先輩と魔宙先輩が火花を散らす。正直、俺を巻き込まないで欲しいし、役不足なのはこっちだと思うんですが。
「ふんっ。大将戦を楽しみにしているんだな、久慈宮兄太」
「・・・帰りたい」
弱音を吐く俺にそう言葉を吐き捨てて、天風がマイクを司会者に返す。
「とても盛り上がっていますが、まずは先鋒戦!! 出場選手以外は舞台裏での待機をお願いします!」
司会者の進行で、舞台には先鋒戦に出場するメンバーだけが残る。
「では先鋒戦!生徒会チームからは青柳兄妹!!そして風紀委員会チームからは雪柳姉妹!! そして気になる最初の種目は--」
巨大なモニターにルーレットが映し出され、数回まわった後に、針がとある部分で止まる。
「第一種目!!互いの嘘を見抜け!その名も【ブラフゲーム】!!」
司会者が種目名をそう声高らかに告げた。
「ブラフゲーム・・・余裕ですね」
「俺たち、青柳兄妹に負けはねえ!」
余裕満々な青柳兄妹と、
「足を引っ張らないでね、八宵」
「 そっちこそ足引っ張んなよ、クソ姉貴」
仲の悪そうな雪柳結七と雪柳八宵。
「それでは第一種目【ブラフゲーム】開幕です!!」
司会者の合図により、対抗戦が始まった。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる