【完結】女医ですが、論文と引きかえに漫画の監修をしたら、年下大学生に胃袋をつかまれていました

文字の大きさ
上 下
45 / 63

久しぶりですが、シャワーができました

しおりを挟む

 柔らかいベッドに肌触りがいい毛布。落ち着く匂いに包まれて、極上の微睡みを堪能する。

 いつまでも寝ていたい…………寝てい……寝て!?


「私、いつの間に寝て!?」


 飛び起きると、そこは知らないベッドの上だった。


「あ、起きましたか」


 黒鷺が椅子ごと体をこちらに向けると、背伸びをした。


「そろそろ夕飯にしましょうか」

「え? もう、そんな時間!? 私、いつから寝てた!?」

「えっと……二時間ほど、でしょうか。医学書を読みだしたら舟をこぎ始めて、寝るならベッドで寝てくださいと言ったら、僕のベッドに直行して寝ました」


 記憶にない。たぶん寝ぼけていたんだ。

 私は慌ててベッドから下りた。


「ごめんなさい! 仕事をしている隣で寝て! しかも、黒鷺君のベッドで!」

「別にいいですよ。夕飯の準備をしてきますから、もう少し寝ててください」

「いや、いや、いや! 起きる! 起きます!」

「……そうですか」


(なぜ、そこで少し残念そうな顔をする!? それより黒鷺君のベッドで熟睡していたなんて! 穴があったら入りたい!)

 私は羞恥で沸騰しそうな顔を押さえ、リビングに逃げた。

 一方の黒鷺はいつも通りキッチンに立ち、夕食の準備をする。


「作り置きなので、簡単なものですが……」


 そう言って出てきたのはカレー。あとは冷凍野菜を電子レンジで温めてドレッシングをかけたサラダ。
 カレーのスパイシーな香りが食欲をそそる。さっきまでの羞恥心はどこに行ったかって? 穴に入ってます。


「美味しそう! いっただっきまーす」

「どうぞ」


 大きめに切られた、じゃがいも、ニンジン、お肉のゴロゴロカレー。家庭の手作りカレーって感じで、お店で食べるのとは、また一味違う。

 ホクッとした、じゃがいも。噛むと甘味が溢れる、ニンジン。サイコロお肉は噛み応え十分の旨味十分。


「おいしい! あとは、ビールがあれば完璧なんだけどなぁ……」

「ダメです」


 黒鷺がジロリと睨む。


「わかってますよ。ちょっと言ってみただけですぅ」

「怪我が治るまで禁酒ですからね」


 こればっかりは仕方ない。私は素直に返事をしながらも、少しだけ抵抗してみた。


「じゃあ、ノンアルビールは?」

「…………買いに行く時間がないので、ネットで注文しておきます」

「やった! ありがとう!」


 穏やかに会話をしながら、私はカレーを完食した。


「ふぅ、食べた。食べた」

「おかわりします?」

「ううん。大丈夫」


 お腹いっぱいの幸せ。いつもより少なめの量だったけど、今の私にはこれぐらいが丁度いい。

 さて、次は。


「シャワーぐらいしたいな」


 昨日はお風呂に入っていないし、髪を洗いたい。でも……

 私は両手を見た。右腕は傷が深いから濡れないようにしないと。


「ラップを巻きます?」


 キッチンで食器を片付けていた黒鷺がラップを片手にやってきた。すごく良いタイミング。


「どうして分かったの!?」

「そんな顔で手を見ていたら分かりますよ。ラップを巻くのを手伝いましょうか?」

「うん、お願い」


 自分で、しかも左手だと上手く巻けない自信がある。私は右腕の袖を捲って黒鷺の前に出した。


「このまま巻いたら服が脱げなくなりません?」

「あ……」


 ラップを巻いて腕が太くなったら、袖が抜けなくなる。あ、そうだ。


「ちょっと、待って」

「えっ!? 待ってください! なにを!?」

「上着を脱いでから腕にラップを巻けば、解決でしょ? だから、上着を脱ごうとしたんだけど」


 服を脱ぐ前に、黒鷺が私の手を押さえた。顔はしっかり後ろを向いている。


「あの、ですね。一応、言っておきますが、僕は男です」

「うん。女の子ではないね」


 こんなに体格がいい女子はそうそういない。と、考えていたら盛大にため息を吐かれた。なんで?


「男の前で簡単に服を脱がないでください」

「でも、脱がないとはラップ巻けないし」

「……誰の前でも、簡単に服を脱ぐのですか?」


 私は首を傾げた。


「だって、必要なことでしょ?」

「必要でも、もう少し恥じらいを持ってください!」

「恥じらっても結局は脱ぐんだから、それなら恥じらうだけ無駄じゃない?」

「あぁ、もう分かりました! 脱がずに待ってください!」


 黒鷺がこちらを見ずに洗面所へ行き、すぐにバスタオルを持ってきた。なんか行動が荒いなぁ。


「服を脱いだらバスタオルこれを体に巻いてください!」

「あ、そうすれば良かったんだ」


 私は突き付けられたバスタオルを受け取った。黒鷺が後ろを向く。


「できたら言ってください。ラップを巻きますから」

「はーい。できたよ」


 上着を脱いだ私は、バスタオルを上半身に巻いた状態で、黒鷺に右腕を出した。
 黒鷺がなにか言いたげに口を歪めたままラップを右腕に巻いていく。


「これ、シャワーから出たら、外してもらわないといけないよね?」


 黒鷺の手が止まる。少しの間の後、返事があった。


「シャワーが終わったら呼んでください。外しますので」

「でも、外すぐらいなら自分で出来るかな」

「それで傷を覆っている被覆材まで取れたら、どうするんですか?」


 私はラップが巻かれた手を見た。これだけ巻いていれば水は入らないだろう。ただ、片手で外すのは難しそう。


「……外すのも、お願いします」

「わかりました」


 黒鷺が背中を向けてブツブツと呟く。


「まったく……人のベッドで寝て、気を許してるのかと思ったら、男として見ていなかっただけなんて……」

「なに?」


 黒鷺が恨めしそうに振り返る。恨めしいというより、不満顔かも。


「なんでもありません」

「そう? じゃあ、シャワーしてくる!」


 黒鷺の機嫌より、今はシャワー! 私は意気揚々と浴室に入った。


※※


 一日ぶりのシャワーは気持ち良かった。生き返るって、こういうことなんだね!

 タオルで体を拭いてパジャマのズボンを履く。


「さて、どうしようかな」


 私は右腕を見た。これだけ頑丈に巻かれていると自分では外せないし、肌着の袖が通らない。


「外してもらうしかないか」


 私は脱衣所から出ようとして、ふと鏡が目に入った。
 上半身はバッチリ裸。見慣れた姿。そこそこ胸があって、お腹も適度に引っ込んではいる。けど、ミーアほどのナイスバディではない。

 そこに黒鷺の言葉を思い出す。


『一応、言っておきますが、僕は男です』


 黒鷺なら、きっと筋肉が適度についていて立派な体格なんだろう。男の子だし……男の……


「…………」


 なんか急に恥ずかしくなってきた。とりあえず隠せるだけ隠そう。あ、袖だけ通さずに、着れる服は着ておけばいいんだ。

 こうして私は右腕を通さずに、下着と肌着とパジャマを着た。それから、胸にバスタオルを巻いて浴室を出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...