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クリスマスプレゼントですが、悩みます
しおりを挟む病院の木々がイルミネーションで飾られた頃。
病棟のパソコンでカルテに記入していると、看護師長がやってきた。
「明後日のクリスマス会ですが、大丈夫ですか?」
「手品なら大丈夫よ。新ネタも用意しているし」
「助かります。子どもたちが喜びますので。あ、すみません」
他の看護師に呼ばれ、看護師長が立ち去る。
「クリスマスかぁ」
私の独り言に若い看護師が反応する。こっそり隣に来た。
「ゆずりん先生は、誰と過ごすんですか?」
キラキラ輝く目に、好奇心がこもった声。なにを期待しているの?
「柚鈴先生って呼びなさい。過ごすって?」
「クリスマスです。知っているんですよ?」
「な、なにを知っているの?」
若い看護師がぐいぐいと迫る。
「早く帰ろうとする日。あれ、デートなんでしょう?」
「違うって。そんなんじゃないわ」
「えー。でも、早く帰る日の先生は、とっても嬉しそうですよ?」
早く帰れるだけでも嬉しいのに、漫画の監修で、黒鷺の美味しいご飯が食べられるから……って、そんなの言えない!
「そ、そりゃあ、早く帰れるのは嬉しいもの」
「だから、そうじゃなくて!」
若い看護師がプリプリと怒る。でも、怒り方が可愛らしい。
「もう! じゃあ、プレゼントとかあげないんですか?」
「プレゼント……」
いつもの料理のお礼に、プレゼントの一つぐらいあげてもいいかも。
私は若い看護師を見た。これぐらいの年齢だと、なにが欲しいのだろう……
「あなたなら、どんなプレゼントがほしい?」
「私ですか? 私なら、バックか、靴か……あ、コートもいいな。あれ? 先生、プレゼントをあげる相手は女性です?」
「あ……」
根本的なところを間違えていた。どうしよう……でも、男子大学生の欲しい物なんて知らないし。
考え込む私に若い看護師がニヤリと笑う。
「やっぱり彼氏じゃないですかぁ」
「だから、そういうのじゃないのよ」
「またまたぁ」
私の否定は否定され続けた。くすん。
※
昼食。病院の食堂で蕎麦を食べる。そこにカレーがのったトレイを持った蒼井がやってきた。
「ここ、いいか?」
「どうぞ」
私の前に蒼井が座る。
その顔は心なしか疲れているようで、イケメンが三割減……になることもなく、カッコいい。ため息を吐く姿も、色気と哀愁が漂い、絵になっている。
「お疲れ?」
「あぁ。どこも人手が足りなくて、あっちこっちから呼ばれてさ」
「モテモテじゃない」
「風邪の診察要員で呼ばれても嬉しくない。オレの専門は形成だ」
「あー、外来は人がいないからねぇ」
この忙しさで徐々に風邪をひく職員も増えている。それは医師も例外ではない。
担当医でなくてもいい風邪の診察に引っ張り出される。
「世間はクリスマスだの、正月だので、賑わっているのにな。ま、毎年のことだけど」
「私たちには無縁の行事よ。あ、そういえば、蒼井先生はクリスマスプレゼントに何をもらったら嬉しい?」
「無縁の行事って言っておきながら、その質問かよ?」
呆れた視線が飛んでくる。無縁の行事だけど、今年は関係があるんだから仕方ない。それに、この相談なら、蒼井以上に最適な人を私は知らない。だって……
「蒼井先生は毎年クリスマスに貢がれているでしょ?」
「だから、言葉のチョイス!」
なんか叫んでいるけど、とりあえず無視。
「たくさん貢がれているから、参考になるかなって。嬉しかったものとか、印象に残っているものとか」
「その前に、貢ぐというのをやめないか?」
「なんで? 事実でしょ?」
私が首を傾げると、蒼井が盛大にため息を吐いた。
「ほんと、そういうところだからな。見た目は良いのに、モテないのは。えっと、クリスマスプレゼントの話だったか。貰って嬉しかったのは……好みのものを貰った時だな。で、印象に残っているのは……」
「どうかした?」
蒼井のカレーを食べる手が止まる。先ほどとは違う、ナニかを吐き出すような深いため息。
「食べ物だな……昔、手作り菓子をもらったら、その中に髪の毛が……それ以来、手作りの菓子は食べられなくなった」
「そんなこと、本当にあるの!?」
背筋に悪寒が走る。それは、怖い! トラウマになる! 手作りお菓子が食べられない!
「マジなんだよ……あれには、参った」
「モテる人は大変ね。あ」
外来からの呼び出しコール音。
私は急いで蕎麦を食べ終え、立ち上がった。
「ちなみに、どんな物だったら貰ってもいいと思う?」
「無難なのは、財布とかキーケースとかじゃないか?」
「そう。ありがとう」
「色は赤がいいな」
赤い財布を持った黒鷺の姿が頭に浮かぶ。
「んー、なんかイメージと違うなぁ」
「オレって赤は似合わない?」
「いつから、蒼井先生にあげるクリスマスプレゼントの話に……って、のんびりしてる場合じゃなかったわ」
私は急いで食器を返すと、外来へ走った。
(明日は休みだし、プレゼントを買いに行こうかな)
目の前の休日に気分が上がり……かけて、外来の受付の光景に足が止まる。
(午後一番でこの人数……何時に終わるんだろう……)
「いや、いや、いや。大丈夫! いつものこと!」
私は気合いを入れて診察室に入った。
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