225 / 243
混乱とクリスの答え
それは、クリスの微かな気持ちの変化でした
しおりを挟む
部屋に戻ったクリスは、着替えの服を取ろうとして手を止めた。
ミレナの言葉通り今日の昼頃にカイが来るなら、そのままオークニーに戻る可能性がある。最近は女性物の服を着ていたが……
「男物の服にしておくか」
以前なら迷うことなく着ていた男性用の服。それなのに今は手に取ることを躊躇う。
この服装を見た時、ルドがどんな顔をするか……
「いや、いや、いや! 犬は関係ない!」
クリスは補正下着で胸の膨らみを押さえると、ケリーマ王国の男性用の伝統衣装を着た。
「少し暑いが滝を見に行った時は平気だったし、大丈夫だろう」
クリスが食堂に入ると立ちあがったルドが笑顔で迎えた。まるで数年ぶりに再開したような喜びようで。
「師匠!」
「……さっき会ったばかりだろ」
クリスが呆れた表情を作りながら椅子に座る。しかし、内心ではホッとしていた。着ている服など関係なくルドが犬のように懐いてくる。
ニコニコと正面に座っているルドにクリスが顔を逸らす。こんなに真っ直ぐ見られ続けたら、それはそれで辛い。
気まずいクリスは早々に食事を切り上げた。部屋へ戻り、ベッドに倒れる。
「なんなんだ、犬は……あそこまで見てくることないだろ」
クリスが根を上げて愚痴る。荷物をまとめるため、部屋にいたラミラが笑った。
「一時はどうなるかと思いましたが、落ち着いて良かったです」
「あれのどこが落ち着いたんだ? 悪化だろ」
「いえ、いえ。クリス様一筋に落ち着いて良かったです」
クリスの顔が真っ赤になる。
「ひ、一筋!?」
「クリス様が第四王子と王都を散策されている間、いろいろな女性使用人と楽しそうに会話をしていましたから」
「それは犬ではなく、犬の中にいたボルケーノだ」
ムッとした表情で言い返したクリスにラミラがますます嬉しそうに笑う。
「クリス様も犬のことを意識しているようで、よろしいことです」
「……」
「どうかされました?」
「いや、なんでもない。休むから何かあったら言ってくれ」
クリスは目を閉じた。
いつの間にか寝落ちしていたクリスはノックの音で目が覚めた。部屋に入ってきたカリストが報告をする。
「クリス様、カイ様が到着されました」
「……そうか」
寝ぼけながら頭をかく。クリスが体を起こしたが、カリストはドア付近に立ったまま動かない。いつもなら背後に立ち、髪を鼈甲の櫛で梳くのに。
そこでクリスは鼈甲の櫛をルドが持っていることを思い出した。
「やはり櫛はおまえが持っているべきだ。それか、同じ櫛を作れ」
「あれは特別な櫛ですので、簡単には作れません」
「なら、犬から取り返して来い」
寝起きで超絶不機嫌なクリスの要望にカリストが肩をすくめる。
「クリス様が説得してください」
「渡したのは、おまえだろ」
「まだ、命が惜しいので」
「取り返す気がないだけだろ」
カリストが優雅に微笑む。そこにドタバタと足音が響いた。
「クリスティ!」
大声とともにドアが開く。白髪の老人が部屋に飛び込んできてクリスに抱きついた。
「大丈夫だったか? 怪我してないか? ちゃんと食ってるか?」
「……そっちこそ、長距離を運転してきたのに大丈夫か?」
「オレはこれぐらい平気だ。それより!」
カイが体を離してクリスの全身を見る。
「大変だったようだが、無事でなによりだ」
「どこまで聞いている?」
「ほとんど聞いてないぞ」
「は?」
「とにかくクリスティが大変なことになっているから、急いで迎えに行ってくれ、と第三皇子に言われたんだ」
「セルティめ……」
クリスが額を押さえて俯くと、カイが豪快に笑った。
「詳しい話は帰りにセスナの中で聞くさ。いくらでも時間はあるからな」
「そうする」
「で、腹が減ったんだが」
カリストが、すかさず応える。
「カイ様の昼食も準備しております」
「さすが、カリスト。よし、飯を食いに行こうぜ」
「あー、先に行っていてくれ」
カイがクリスの髪を見る。
「髪の色を変える時間ぐらい待ってるぞ。ほら、カリスト。早く変えてやれ」
カリストは微笑んだまま動かない。その様子にカイが首を傾げる。
「どうした? 何かあったのか?」
「いや、それが……」
クリスが頭を抱えているとノックの音が響いた。
「師匠、カイ殿が到着されたと聞いたのですが……」
ルドの声にクリスが素早くドアに飛びつく。少しだけドアを開け、隙間から廊下を覗いた。
ドアの前に立っているルドをジロリと睨む。
「櫛を渡せ」
「嫌です」
ルドが良い笑顔で拒否する。
「渡せ」
「嫌です」
「いいから、渡せ」
「いやです」
クリスは櫛を取り返すことに必死になっており、カイが近づいていることに気が付いていなかった。
「お、番犬じゃないか。元気してたか?」
「お久しぶりです」
クリスが少ししか開けていなかったドアをカイが大きく開ける。
「あ、ちょっ……」
「こんなところで立ち話もなんだ。入れ」
「おい、ここは私の部屋……」
「失礼します」
ルドがスタスタと入る。その動きにカイが首を傾げた。
「あれ? なんか変わったか?」
「いろいろありましたので」
「おう、大変だったみたいだな。なにも聞いてないが」
「聞いてないのに、ここまで来たのですか?」
「そうなんだ。とにかく迎えに行けって、一方的に言われてよ」
盛り上がる二人をクリスが呆然と眺める。そこにカイがクリスに声をかけた。
「おい、さっさと髪の色を変えろよ。飯を食いに行けないだろ」
「あ、そうですね」
ルドが懐から鼈甲の櫛を取り出す。
「ん? なんで、その櫛を番犬が持っているんだ?」
「それは……」
説明をしようとしたルドを遮るようにクリスがカイの前に出る。
「なんでもない! さっさと変えろ!」
「はい。では、座ってください」
クリスが渋々ソファーに座る。その後ろにルドが立ち、丁寧に櫛を梳かしていく。
その光景を眺めながらカイは口角を上げると、横目でカリストに訊ねた。
「ふうん。いろいろあったみたいだな?」
「はい。いろいろとありました」
「で、あれが結果か?」
「はい」
なにかを堪えるように神妙な顔をしているクリス。その後ろでは愛おしそうに髪を一房ずつ、丁寧に櫛を通していくルド。
「カルラが見たら、狂喜乱舞する光景だな」
「これから毎日見られる予定です」
カイが驚いた顔でカリストの方を向く。
「櫛を番犬にやったのか!?」
「はい」
「なにがあっても手放さなかったのに、そんな簡単に!?」
「まあ、あの二人でしたらいいかと」
カイがもう一度二人に視線を向けた。穏やかな空気が二人を包んでいる。
「……まあ、いいか」
「そういうことです」
カイはどこか嬉しそうに二人を見つめた。
ミレナの言葉通り今日の昼頃にカイが来るなら、そのままオークニーに戻る可能性がある。最近は女性物の服を着ていたが……
「男物の服にしておくか」
以前なら迷うことなく着ていた男性用の服。それなのに今は手に取ることを躊躇う。
この服装を見た時、ルドがどんな顔をするか……
「いや、いや、いや! 犬は関係ない!」
クリスは補正下着で胸の膨らみを押さえると、ケリーマ王国の男性用の伝統衣装を着た。
「少し暑いが滝を見に行った時は平気だったし、大丈夫だろう」
クリスが食堂に入ると立ちあがったルドが笑顔で迎えた。まるで数年ぶりに再開したような喜びようで。
「師匠!」
「……さっき会ったばかりだろ」
クリスが呆れた表情を作りながら椅子に座る。しかし、内心ではホッとしていた。着ている服など関係なくルドが犬のように懐いてくる。
ニコニコと正面に座っているルドにクリスが顔を逸らす。こんなに真っ直ぐ見られ続けたら、それはそれで辛い。
気まずいクリスは早々に食事を切り上げた。部屋へ戻り、ベッドに倒れる。
「なんなんだ、犬は……あそこまで見てくることないだろ」
クリスが根を上げて愚痴る。荷物をまとめるため、部屋にいたラミラが笑った。
「一時はどうなるかと思いましたが、落ち着いて良かったです」
「あれのどこが落ち着いたんだ? 悪化だろ」
「いえ、いえ。クリス様一筋に落ち着いて良かったです」
クリスの顔が真っ赤になる。
「ひ、一筋!?」
「クリス様が第四王子と王都を散策されている間、いろいろな女性使用人と楽しそうに会話をしていましたから」
「それは犬ではなく、犬の中にいたボルケーノだ」
ムッとした表情で言い返したクリスにラミラがますます嬉しそうに笑う。
「クリス様も犬のことを意識しているようで、よろしいことです」
「……」
「どうかされました?」
「いや、なんでもない。休むから何かあったら言ってくれ」
クリスは目を閉じた。
いつの間にか寝落ちしていたクリスはノックの音で目が覚めた。部屋に入ってきたカリストが報告をする。
「クリス様、カイ様が到着されました」
「……そうか」
寝ぼけながら頭をかく。クリスが体を起こしたが、カリストはドア付近に立ったまま動かない。いつもなら背後に立ち、髪を鼈甲の櫛で梳くのに。
そこでクリスは鼈甲の櫛をルドが持っていることを思い出した。
「やはり櫛はおまえが持っているべきだ。それか、同じ櫛を作れ」
「あれは特別な櫛ですので、簡単には作れません」
「なら、犬から取り返して来い」
寝起きで超絶不機嫌なクリスの要望にカリストが肩をすくめる。
「クリス様が説得してください」
「渡したのは、おまえだろ」
「まだ、命が惜しいので」
「取り返す気がないだけだろ」
カリストが優雅に微笑む。そこにドタバタと足音が響いた。
「クリスティ!」
大声とともにドアが開く。白髪の老人が部屋に飛び込んできてクリスに抱きついた。
「大丈夫だったか? 怪我してないか? ちゃんと食ってるか?」
「……そっちこそ、長距離を運転してきたのに大丈夫か?」
「オレはこれぐらい平気だ。それより!」
カイが体を離してクリスの全身を見る。
「大変だったようだが、無事でなによりだ」
「どこまで聞いている?」
「ほとんど聞いてないぞ」
「は?」
「とにかくクリスティが大変なことになっているから、急いで迎えに行ってくれ、と第三皇子に言われたんだ」
「セルティめ……」
クリスが額を押さえて俯くと、カイが豪快に笑った。
「詳しい話は帰りにセスナの中で聞くさ。いくらでも時間はあるからな」
「そうする」
「で、腹が減ったんだが」
カリストが、すかさず応える。
「カイ様の昼食も準備しております」
「さすが、カリスト。よし、飯を食いに行こうぜ」
「あー、先に行っていてくれ」
カイがクリスの髪を見る。
「髪の色を変える時間ぐらい待ってるぞ。ほら、カリスト。早く変えてやれ」
カリストは微笑んだまま動かない。その様子にカイが首を傾げる。
「どうした? 何かあったのか?」
「いや、それが……」
クリスが頭を抱えているとノックの音が響いた。
「師匠、カイ殿が到着されたと聞いたのですが……」
ルドの声にクリスが素早くドアに飛びつく。少しだけドアを開け、隙間から廊下を覗いた。
ドアの前に立っているルドをジロリと睨む。
「櫛を渡せ」
「嫌です」
ルドが良い笑顔で拒否する。
「渡せ」
「嫌です」
「いいから、渡せ」
「いやです」
クリスは櫛を取り返すことに必死になっており、カイが近づいていることに気が付いていなかった。
「お、番犬じゃないか。元気してたか?」
「お久しぶりです」
クリスが少ししか開けていなかったドアをカイが大きく開ける。
「あ、ちょっ……」
「こんなところで立ち話もなんだ。入れ」
「おい、ここは私の部屋……」
「失礼します」
ルドがスタスタと入る。その動きにカイが首を傾げた。
「あれ? なんか変わったか?」
「いろいろありましたので」
「おう、大変だったみたいだな。なにも聞いてないが」
「聞いてないのに、ここまで来たのですか?」
「そうなんだ。とにかく迎えに行けって、一方的に言われてよ」
盛り上がる二人をクリスが呆然と眺める。そこにカイがクリスに声をかけた。
「おい、さっさと髪の色を変えろよ。飯を食いに行けないだろ」
「あ、そうですね」
ルドが懐から鼈甲の櫛を取り出す。
「ん? なんで、その櫛を番犬が持っているんだ?」
「それは……」
説明をしようとしたルドを遮るようにクリスがカイの前に出る。
「なんでもない! さっさと変えろ!」
「はい。では、座ってください」
クリスが渋々ソファーに座る。その後ろにルドが立ち、丁寧に櫛を梳かしていく。
その光景を眺めながらカイは口角を上げると、横目でカリストに訊ねた。
「ふうん。いろいろあったみたいだな?」
「はい。いろいろとありました」
「で、あれが結果か?」
「はい」
なにかを堪えるように神妙な顔をしているクリス。その後ろでは愛おしそうに髪を一房ずつ、丁寧に櫛を通していくルド。
「カルラが見たら、狂喜乱舞する光景だな」
「これから毎日見られる予定です」
カイが驚いた顔でカリストの方を向く。
「櫛を番犬にやったのか!?」
「はい」
「なにがあっても手放さなかったのに、そんな簡単に!?」
「まあ、あの二人でしたらいいかと」
カイがもう一度二人に視線を向けた。穏やかな空気が二人を包んでいる。
「……まあ、いいか」
「そういうことです」
カイはどこか嬉しそうに二人を見つめた。
0
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【本編完結・R18】旦那様、子作りいたしましょう~悪評高きバツイチ侯爵は仔猫系令嬢に翻弄される~
とらやよい
恋愛
悪評高き侯爵の再婚相手に大抜擢されたのは多産家系の子爵令嬢エメリだった。
侯爵家の跡取りを産むため、子を産む道具として嫁いだエメリ。
お互い興味のない相手との政略結婚だったが……元来、生真面目な二人は子作りという目標に向け奮闘することに。
子作りという目標達成の為、二人は事件に立ち向かい距離は縮まったように思えたが…次第に互いの本心が見えずに苦しみ、すれ違うように……。
まだ恋を知らないエメリと外見と内面のギャップが激しい不器用で可愛い男ジョアキンの恋の物語。
❀第16回恋愛小説大賞に参加中です。
***補足説明***
R-18作品です。苦手な方はご注意ください。
R-18を含む話には※を付けてあります。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
妾の子として虐げられていた私が、爵位を継いだお兄様から溺愛されるだけ
下菊みこと
恋愛
エレオノール・セヴランは公爵令嬢。しかし妾の子で、母は幼い頃に亡くなった。それ以降誰からも愛されることなく別邸に閉じ込められた彼女は、しかしいつか政略結婚をさせるためだけに生かされていた。病弱なので外には出さないとの嘘で別邸に押込められた彼女だが、その間当然良い家に嫁がせるため充分な教育を受けた。しかし少しでも失敗するとすぐに、傷が見えないよう背中に鞭や杖が飛んでくる。恐怖しかなかった。また、母に似て可愛らしい顔立ちだったため見た目も磨き上げられた。だが、ちょっとでも家庭教師が付けた傷以外に傷が出来ると罵倒される。苦痛だった。
そんな中で、セヴラン公爵が亡くなった。幼い頃に可愛がってくれた兄が爵位を継いだらしい。あの兄は、自分のことを覚えていてくれるだろうか。一目でいいから、政略結婚でここから離れる前に会いたい。あの頃妾の子であった自分を可愛がってくれたことを感謝していると伝えたい。そう願っていたエレオノールに、いつも虐めてくるメイドが顔色を悪くしながら言った。
「お兄様がお呼びです」
ここから、エレオノールの物語は始まる。これは、本来なら恵まれた生まれのはずなのにかなり不遇な少女が、今度こそ周囲の人々に恵まれて幸せを掴むお話。または、そんな彼女を溺愛する周囲の人々のお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる