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(10)撹乱
しおりを挟むゴクリ、と彼らの喉の音が聞こえてくる。
(うっ……あいつらの目、気持ち悪い。でも注意をこっちに向けないと! もっと何か気を逸らせることないかな……ナターシャ様、ナターシャ様、何とぞいい案を……!)
「よ、よし……俺が緩めてやろう」
「お、おい、気をつけろよ?!」
「大丈夫だって。ドラゴンの動きさえ封じる魔道具だぞ?」
人知れず葛藤しているうちに、男の一人がニヤニヤとした笑いを浮かべながら近づいてきていた。
(ひっ……嫌だ! 気持ち悪い!)
思わず仰け反りたくなるのを必死に堪えた。
彼じゃないその手が、マーゴの服に伸ばされる。
彼じゃないその顔が、近づいてくる。
込み上げる嫌悪感。
(堪えろ、私! でも、やっぱりこんな奴に触られるなんて嫌だ……! お願い、早く! 早くして!)
プチップチッとボタンを外される毎に、心許なく広がっていく襟元。
男の指先が肌を掠める度に、肌が粟立ちそうになるのを気合いで抑え込む。
「拳姫もこうなると可愛いもんだな」
「だなぁ」
「近くに寄ったらわかるけど、案外そそる身体つきだぜ? どうせ殺しちまうんだから、その前に味見ぐらいしてもかまわねぇか?」
「いいんじゃねぇか? けどよぉ。魔獣封じが効いてるから大事なとこが締まんねぇかもな!」
「違いねぇ! ひゃっひゃっひゃっ!」
男たちの下卑た笑い声が響き渡ったその瞬間。
――ゴスッ!!!
「がぁっ!」
鈍い音がして、少女を人質に取っていた男が、ゆっくりと前のめりに崩れ落ちた。
背後に立っていたのは、ボロボロになったルシウスだった。
人質を取られて動けなくなったのは彼も同じはずだ。
マーゴと違い、動けないうちに一方的な暴行を受けたのだろう。彼の顔のあちこちが腫れ、傷になり、口の端からは血が流れ出ている。
立っているのもやっとのようで、かなりふらついていた。
「逃げろっ! 逃げて衛兵を呼んできてくれ!」
掠れた声で叫ぶルシウス。
「だ、誰か助けてぇぇ――っ!!!」
肩を押されて我に返った少女は、悲鳴をあげながら一目散に、路地の出口へ向けて走り出した。
「なっ……! お前っ!! まだ生きてたのか?!」
「だから油断するなって言っただろう!?」
「おい!逃すなっ!!」
「行かせるか!」
追いかけようとした男に、ルシウスが身体をぶつけて阻止する。そのままどうっと一緒に地面へ倒れ込んだ。
(よかった……!)
少女が無事に逃げおおせたのを確認したマーゴは、内心でホッと息をつく。
そう。
ジリジリと地面を這うようにして、男の背後に近づいていたルシウスに気づいたマーゴが、彼らの注意を逸らすために一芝居打ったのだ。
「くそっ! じゃあこの女もグルってことか?!」
マーゴの胸元に手を伸ばしていた男は、そのまま彼女の胸ぐらを掴みあげた。
「この野郎!」
そして、彼女を殴ろうと少し腕を引いた、その瞬間を狙う。
「喰らえ、必殺石頭!!!」
――ゴキッ!!!!
カウンターで、勢いよく頭突きを喰らわせたのだった。
ごりっと、男の鼻の骨が折れる感触がして。
男は大きく後ろにのけぞるようにして倒れた。
その反動でマーゴも放り出されて、地面に頭と身体を強かに打ちつける。
「くそっ! 何で、動けるんだよ?! 魔獣封じ用の枷だぞ!! 化け物か?!」
「知らねぇよ! こうなったら、とっとと殺すぞ!!」
「おい、こっちの男もやっちまうぞ」
「死ねぇぇぇ――――っ!!!!」
男たちがほぼ同時に剣を振り上げた瞬間――
銀色の光が、まるで真昼の流星群のように降り注いだ。
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