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(6)閃光の蒼き流星
しおりを挟む考え事ばかりしていたマーゴは、いつの間にか道の真ん中で立ち止まっていたらしい。
「綺麗なお姉さん、美味しいプップルの実はいかが?」
気がつくとおさげの少女が、俯くマーゴのことを覗き込んでいた。
「あ、ありがとう?」
差し出された赤い果実を手にすると、少女は満面の笑みで手を出した。
「プップル一つ、300オウルだよっ!」
「ふふ……ちゃっかりしてるのね。じゃあこれ」
「毎度あり~!」
リオンに渡された皮袋から、銀貨を出して手に載せてやると、彼女は親がやってるらしき店へと戻っていった。
戻ってきた娘に気がついた親が、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でている。
きっと、ああして売り子もどきをしながら、彼女なりに親のお手伝いをしているのだろう。
親のいないマーゴは、少しだけ複雑な気持ちでその光景を眺めた。
少し多めに渡したから、残りはあの少女のお小遣いにでもなればいいな、と思いつつ、爽やかな芳香を放つその果実に歯を立てた。
プツッと赤い皮を突き破ると黄色い果肉が見え、同時にじゅわ~と果汁が口の中に溢れ出す。
甘酸っぱい果汁を味わいながら、可愛らしい赤い実をシャリシャリと噛んでいると、さっきの胸のチクチクが少しだけマシになっていくような気がした。
(まぁ、とにかく。あの街も長く居過ぎたし、そろそろ旅に出てもいい頃なのかもね。リオンがついてくるのか、ここに残るのかは本人に任せよう)
そう決めてマーゴが歩き出すと、ポンっと肩が叩かれた。
「……えっ? あんた誰?」
そこに立っていたのはマーゴの知らない男だった。
いや。見たことくらいはあるかもしれない。
「ああっ! えーっと……?」
「ルシウスだよ、ルシウス! 閃光の蒼き流星! ルシウス!」
「……人違いだったみたい。やっぱり覚えがないわ、ごめんなさい。じゃ」
そんな妙ちくりんな二つ名を持つ人は、マーゴの知り合いにはいない。
軽くあしらって立ち去ろうとしたが……
「なぁ、あんた拳姫マーゴだろ?」
なおも話しかけてくる男、ルシウス。彼のメンタルは強めのようだ。
顔が赤いから酔っているのかもしれない。
そうでなければ、知らず殺気をだだ漏れさせているマーゴに、こんなふうに絡めない。
「近くで見ると美人だなぁ」
「あら、ありがと」
褒め言葉は素直に受け取っておくことにする。
別にマーゴだって、誰でも彼でも喧嘩を売ってる訳ではない。
「なぁ、ちょっと俺に付き合えよ」
「……悪いわね。私、酔っ払いは嫌いなの。ナンパは素面の時にお願いできるかしら?」
「リオンだっけ? あの魔術オタクの……あいつに置いてかれたんだろ? さっきちょこっと聞こえちゃったんだよねぇ」
「……だから何?」
マーゴの声が低くなる。
それに気づかない彼はなおも続けた。
「王女様の降嫁先候補なんだろ? まぁ、あんな奴が選ばれる訳ないけどさ」
「はぁ? あんたにリオンの何がわかるのよ? むしろリオンを選ばない理由なんてないじゃない。ちょっと性格が悪いだけで、戦闘は強いし、面倒見もいいし、顔だってあんたの何十倍もいいんだから」
「おいおい~! 俺っちも顔にはちっとばかし自信があるんだけどなぁ? それにしても、捨てられたかもしれないってのに、よくあんな奴の肩が持てるもんだ」
「捨てられた訳じゃないったら!」
「優秀な魔術師様だもんな? 王女様に選ばれないわけがないんだろ? あいつが王女様と結婚したり、王様に気に入られて国専魔術師なんかになったら、当然あんたとのパーティーは解消なんじゃねぇの?」
このルシウスとやら。不躾すぎるが、微妙に痛いところをついてくる。
マーゴはムッとして、口を尖らせた。
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