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(2)竜退治
しおりを挟む今では知らない者がいないマーゴとリオンだが。
最初彼らは、流しの冒険者だった。
ある時、ふらりとどこからか現れてこの街に居着いたのだ。
二人して冒険者ギルドに登録した後も、大体いつも二人一組で行動していた。
聞けば同郷の幼なじみで、腐れ縁な仲らしい。
気の向くままに、国から国へ、街から街へと渡り歩いているそうだ。
彼らがこの街に来て、もう三年は経つだろうか。
拳に覚えのある女冒険者マーゴは『拳姫』と呼ばれるようになり。
魔術オタクのような男冒険者リオンは『豪雷の魔術師』と呼ばれるようになった。
そんなある日。
「「悪魔竜?!」」
時間にして昼食前。
少し閑散としてきたギルドに、二人の素っ頓狂な声が響き渡った。
「はい。どこからかやってきて居着いたみたいで。東の街は既に魔気にやられて廃墟になってしまっています」
悪魔竜というのは、名前の通り悪魔のような姿をした竜である。
災害級の魔獣だ。
魔気と呼ばれる汚染物質を撒き散らし、土地も街もあっという間に人が住めなくしてしまう。
ある日、国ごとなくなっていたなんて話も珍しくない。
故にその討伐は、最優先、最重要、特急が基本である。
「これからギルドで募って、討伐隊を編成するんですけど、お二人にも加わって頂けないでしょうか?」
ギルドの受付嬢のすがるような視線に、マーゴが首を傾げた。
「国は? こういうのって国が何とかするもんじゃないの? 私たちが前いた国はそうだったけど?」
「国はその……一応非常時には王国軍が赴くことになってはいるのですが……今は王都を守るので精一杯だから、今回は冒険者だけで何とかしろと言われたそうで。ここだけの話、ギルド長も頭を抱えておりまして……」
「はぁ? マジで? 肝心な時に役立たないで、よくも普段は庶民から税金搾り取ってくれてるわね?!」
「マーゴ、マーゴ。お口が悪いよ。どうせあれだろ? 中央特別思想ってやつ。お偉いさんってのはまず、大事な大事な王都が守れりゃあそれでいいんだよ。奴らクズだからね」
「あんたも大概口が悪いわよ」
どっちもどっちだよと受付嬢は思ったが、彼女は身の程をよく弁えていたので、二人の話には口を挟まなかった。
「いいわ。その討伐隊に私たちも加えてちょうだい」
「あ、おいマーゴ! 物事はよく考えてから返事しろっていつも言ってるだろ?!」
「うるさいわね、リオン。行くったら行くのよ! 肝心な時に人助けができないんじゃ、冒険者やってる意味なんかないわ」
「行くなって言ってるんじゃない。売り言葉に買い言葉なタイミングでしか物事を決められない、その短絡的な性格を憂慮してるんだ、俺は。そのうち痛い目を見るぞ、この単細胞女!」
「……ま、また難しい言葉使っちゃってさ! 私のことバカにするのもいい加減にしなさいよ?! 決めたったら決めたんだから! 私一人でも絶対に行くんだから!」
いや、単細胞は難しい言葉なんかじゃなくてただの悪口なんじゃないか。
しかし空気の読める受付嬢は、これもお口チャックしておいた。
なんだかんだ文句を言いながらも、マーゴに続いてリオンも、討伐隊の加入申請用紙に名前を記入したからだ。
「……あーっ、くそ! せっかくの休みだったのに。いい雰囲気だっていう湖に、マーゴを誘おうと思ってたのに」
記入しながらぼそっと呟かれた言葉。
「…………」
世渡り上手な受付嬢は、にっこり笑って、その話も聞かなかったことにしておいた。
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