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(52)この人怪しいんですけど、課長!

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 九重と通路へ足を踏み入れると、また何かがチラッと視界の端で動いたのが見えた。
 どうやら、どこかの部屋へ入ったらしい。

「九重、見たか?」

 振り返りながら問いかけると、ずいぶんと可愛らしくなってしまった後輩は、こくり、と頷いた。
 
「何か、あの人見覚えがある気がするんだけどな……」
「やっぱり、先輩の知り合いだったんじゃないですか?」
「そんなことないって言ってるだろ」
「まぁでも、うちの部署の矢城さんにどっか似てる気がするから、既視感を感じるだけかもですねぇ」

 九重のつぶやきに同意する俺。
 そうなんだよね。顔は全然違うんだけど、何だか雰囲気というかしゃべり方が似てる気がする。

「あー、やっぱり九重もそう思うか?」
「先輩、矢城さんのこと好きだったでしょ?」

 九重がいたずらっぽい表情になって、俺は思わず返事に詰まった。

「あ、え……いや、えっと?」
「うちの部内で知らない人いないですからね」
「マジで?」
「マジですよ」
「うわぁ……マジかよ。恥ずか死ねるわ。ま、振られたんだけどな」
「えっ……」

 一瞬、気まずい沈黙が流れる。
 いや、雰囲気悪くして申し訳ないとは思うけど、俺のせいじゃないからね。
 話を振ってきた九重が悪いんだからな。

「えっと、ああ、この部屋ですよね」

 あからさまに話題を逸らした九重に苦笑しつつ、俺は頷いた。
 俺は、軽く唇に人差し指を当てた。
 それを見た九重は頷いた。

 俺たちは、視線で示し合わせながら、通路から部屋をそっと覗き込んだ。

 果たして、部屋の真ん中に立っていたのは例のカオリさんで。

『何してるんだろうな?』
『後ろ姿だからよくわかりませんね?』

 部屋の真ん中には石像と同じ材質っぽい台があって、彼女はそこに向き合っていた。
 手元が動いているから、何かをしているようなんだが……。

「はぁ……」

 こうやっていても埒が明かない。
 俺は潔く様子見をやめて、堂々と部屋の中に入っていった。男は度胸だ。

「カオリさん? ここで何をしてるんですか?」

 俺が話しかけると、ぐりんと彼女の首が俺の方へ向いた。

「ユキ……さん。あの、えーっと、なんでもないですよぉ?」

「あっ、先輩! その人、何か手に持ってます!」
「なに?」
「ちっ!」

 九重の指摘に舌打ちをした彼女は、手に持っていた何かをさっと後ろ手に隠し、踵を返して部屋の外に走り出した。

「あ、おいっ! ちょっと?!」
「ここに、何か刺さってたっぽいですね」

 九重が指さした先、台座の上にはさっき石像の背面で見たのと同じ文字が刻まれている。
そして、何だか長細いおかしな形の穴が空いていた。

「何持ってたか見えたか?」
「はっきりとは見えなかったです」
「とりあえず、一旦みんなの所へ戻るか。リアを連れてこよう。それと、彼女が戻っていればいいんだけど」

 俺は、リアを置いてきたことをちょっと後悔しながら、部屋を後にした。

 あいつがいれば、今度こそゆっくりと、あのおかしな文字の解読を頼めたのに!

「見つかって逃げたあたり、ろくな事じゃなさそうですけどねぇ」

 チロリ、と九重の赤い舌先が、上唇を舐め上げた。

「まぁ、そうだろうな。九重さ、空間収納に長い棒とか入ってない?」
「はい?」
「もしあったら、ちょっと貸してほしいなぁなんて」
「長い棒ですか? んーと、えっと……僕のテントの支柱で良ければ……繋げれば長い棒にはなると思うんですけど……」
「それで十分だ」
「ちょっと待ってくださいね」

 ガサゴソと、九重は空間の中に手を突っ込んで、しばらくすると鈍色に輝く棒を二本取りだした。

「はい。連結すればそれなりの長さになると思いますよ。」
「サンキュ」

 渡された二本の棒をカチッと差し込んで、一本の棒にする。
 何となく武器を持つと安心するよね。
 それにしても、思ったより軽いなこの支柱。
 中が空洞なせいかもしれないけれど、こっちの方が木の棒を持った時よりも数段軽く感じられる。

「アルミ製?」
「あー……それ、チタン製なんです!」
「はっ? チタンなの?」
「いえっす!」
「ほぇー! 最近のテントはハイテクなんだな」
「なんですか、ハイテクって?」

 と、ちょっとアホな会話をしながら広間に戻ったのだけれど。こんなことになっているとは思いもよらなかった。

「か、課長っ?!!」
「ちょ、あんた何してるんですかっ?!」

 広間に戻った俺たちは、その光景を見た瞬間に、口々に叫んだ。


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