64 / 68
(51)
しおりを挟むリアは文字の輪郭をなぞりながら、ブツブツと呟いた。
「ふーむ、どれどれ……? アルト、ツゥス、ミラボルテ、サティウシカ、ナハト、プディ、シャルテ……」
何やら、不思議な発音の言葉を呟いている。
この世界の言語は理解できるのに、今リアが呟いている言葉を理解できないというのが不思議だな。
俺たちが、その様子を固唾を飲んで眺めていると、突然、
「あっ!」
と、リアが短く叫んだ。
「どうした?」
「ちょっと待て。文字が!」
「何っ?!」
彼女の指差す先、あんなにくっきりと刻まれていた文字が、すうっと石像の中に吸い込まれるようにして消えていく。
「えっ? 消えてるのか、これは?」
「見ての通りだ。どうなってるんだ、いったい? まだ全部は読んでおらんのだぞ?!」
俺たちが口々に騒いでいる間に、石像に刻まれていたはずの文字は全て跡形もなく消えてしまったのだった。
文字が刻まれていた形跡もない。
まるで元からそこには何もなかったようだ。
「あらら、消えちゃいましたね」
「リア、解読できたのか?」
「うーん、単語は少し読み取れたが、時間が足りなくて、全部は読み切れなくての。すまん」
リアは神妙な顔をしながら呟いた。
「わらわにわかったのは、眠りについた魔帝国が復活するだろうという戯言だけじゃ。時期と方法についても書いてありそうな感じだったのじゃが、読もうとしたら消えた」
「魔帝国?」
「ああ、魔族の国のことじゃよ。この石像のモデルは恐らく、勇者に倒されたとされている堕天使ベラドーナだろう」
「ベラドーナ?」
初めて聞く名前だな。元の世界なら堕天使はルシファーとかだっけ?
とか考えていたら、メイシアが勢いよく手を挙げた。
「はいっ! わたし、その人を神聖書で見たことがあります! 魔族を導く女神のような存在ですよね、確か? 昔、人間と魔族が戦った時、魔族軍を率いていたと書いてありました。リアさんの言う通り、当時の勇者様に倒されたようですが。そして、今では魔神教という、邪教のシンボルとされているみたいですよ」
「魔族の女神だって? だから、こんな神殿みたいなところに石像があるのか……っていうか、結局女神って九重の言う通りじゃないか!」
俺がそう口にした瞬間、九重の耳がぴくぴくと動いた。
「ほらね? 僕の言った通りじゃないですかぁ!」
くそう。可愛いな、九重のドヤ顔。
「ふむ。では、やはり石像が踏みつけているのは人間なのか」
腕を組みながら石像を見上げる課長。
隣でメイシアがその真似をして一緒に腕組みをしている。
こっちはこっちで微笑ましいな。
以前はじいちゃんと孫だったビジュアルが、母娘かちょっと年の離れた姉妹くらいに変更しているけど。
(ん? 何か足りない)
あれ?
そういえば、あの人はどこへ行ったんだろうか。
さっきまでメイシアと一緒に行動をしていたはずの、カオリさんの姿が見当たらない。
「おい、メイシア。カオリさんはどこだ?」
「え? カオリさん、今まで一緒にいたはずなんですけど」
何だか嫌な予感がするんだよね。
あの人放っておいちゃいけない気がする。俺の勘だけど。
その時チラッと視界の端で、茶色の何かが動いた気がした。そして、その茶色の何かは、石像の広間から繋がる通路へと姿を消した。
(あの人茶髪だったし、多分アレだよな)
可愛らしい女性だとは思うけれど、何故かあまり仲間意識が湧いてこないんだよね。
むしろちょっと苦手だ。
外見は矢城さんに似てるんだけどなぁ。何か不思議だ。
「ちょっと探してきますね。課長たちは、ちょっとここで待っていてください」
「あ、先輩。僕も一緒に行きますよ!」
俺は九重と一緒に、広間の先にある通路へ向かった。
──────────
あああ、毎日更新できなかった……_| ̄|○ il||li
ちょっとこれから話が佳境に入る予定でプロットの練り直ししているので、更新が隔日くらいになると思います。
すみません、よろしくお願いしますm(_ _)m
0
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる