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「あれが気になります!」

 メイシアの指差した方角にあるのは、巨大な神殿らしき建物だった。
 外観はどことなく、元の世界のパルテノン神殿に似てるな。

「神殿かな?」

「神殿っぽいな」

「神殿かもしれませんねぇ」

 おっ。転移組の意見が一致した模様。

「何だか、僕もすごくあそこが気になります。行ってみましょうよ」

「うむ」

 九重の言葉に課長も頷いて──俺たちは、その巨大な神殿らしき建物に行ってみることにした。

「おっ! 近寄るとますます神殿だな。ここで転職とかできるんじゃないか?」

「先輩、中も神殿っぽいですよ! 見てください。女神っぽい像があります!」

 先に進んで神殿の中に入っていた九重が俺を呼んだ。

「……女神、か? これ……?」

「いやぁ、どう見ても女神でしょう?」

「いや、どう見ても女王様だろうよ、これ……」

 九重が『女神』と評した像は、神殿の入口はいってすぐの大広間っぽい部屋の中央にあった。
 大広間のど真ん中で異様な存在感を放つ石像──だが、俺がイメージしていた女神像とはかけ離れている。

 まず、女性の像なのは間違いないだろう。
 胸部に男性ならありえない大きさの膨らみがあり、更に美女っぽい顔つきをしているからな。

 じゃあ、どこが異論なのかと言うと……。

 まず、頭に二本の角が生えていて。
 それから口からは二本の牙がのぞいている。
 像がまとっているのは、いやにタイトなボンテージっぽい服で。
 それから、背後に羽が生えていて。
 極めつけに足元に人間らしきものが踏みつけられている。
 ムチ持たせたら激似合うこと間違いなし。
 そんな女神像がどこにあるんだよ。

「いや、どう見ても暗黒系だろ、これ? 悪魔とか魔王とか、邪神とかだろ、これ?」

「ええっ? でも、ほら、羽根とかありますよ?」

「あの羽根の色は黒だな、絶対」

「ええ~?!」

「足元に人間が踏みつけられてるんだぞ? 確か仏像とかにもあっただろ、鬼を踏みつけてるやつ」

「近江くんが言っている鬼というのは、仁王像や四天王像などに踏まれている邪鬼のことだな」

 気がつくと、課長が隣に立っていた。

「あー……何か見たことあるって思ったら、この像、今の課長にちょっと似てませんか?」

「おっ。言われてみればちょっと似てるかも」

 まぁ、相手はただの石像だから、似てるような、似てないような、程度のものだけどね。

 三人で女神像もとい邪神像を見上げていると──不意に、彼女と目が合ったような気がした。

(いやいやいやいや。そんな馬鹿な。ただの石像がこっちを見るだなんて……)

 あるはずがない。
 ところで、メイシアやウメコはどこへ行ったのかと当たりを見渡すと、新参者のカオリさん含めた彼女たちは、俺たちと反対側である像の真裏にいた。

「課長~! 先輩さーん! ここに何か書いてあります!」

 ──わふっ! わふっ!

 像の背面の台座部分に、何か文字が彫ってあった。

「……これは、読めないな」

「何語なんでしょうね? 見たことのない文字ですけど……」

「メイシアは分からないのか?」

「わたしも見たことない文字です! もしかしたら古代語かも」

 メイシアが首を傾げたので、俺は胸元で爆睡していたリアを起こした。

「むう……何じゃ? せっかく血の海で泳ぐ幸せな夢を見ておったのに」

「げっ。何つー夢見てんだよ。いや、それより、お前にはこの文字が読めるか?」

「ふわぁ~! どれ。しばし待て……」

 リアは俺の胸元から飛び立つと、台座の前でホバリングしながら、その文字を眺め始めた。

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