課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

文字の大きさ
上 下
59 / 68

(46)つるつる

しおりを挟む



 通路の奥へ辿り着いた俺たちは、一様に無言だった。

 というか、メイシアは目の大きさが二倍くらいになってるし、九重は口が半開きのまま固まってるし、俺はこの凄すぎる光景に、ちょっと武者震いしてた。

 俺たちの前に現れたのは一面の氷の町、だったのだ。

 通路の先は広い空間になっていて、この遺跡の天井は見えない。かといって空があるわけではないが。
 そして、建物がひしめき合っていた。トレジャーハント系の映画とかよく見かける地底都市、というやつだろうか。

 俺たちの目の前のそれには、確かな文明の痕跡を感じる。
 それもこれも、全て分厚い氷に覆われているようだったけれど。

「なんなんだ、ここは──……?」

 とりあえず、俺が全員の気持ちを代弁してみる。
 ほら、俺今のところ一番年長っぽいし。リアの年齢は知らんけど。

 でもこれで、さっきまで通路に充満していた冷気の原因は明らかになった。
 この空間のもの全てが凍っているから、その冷気が流れてきたのだ。
 
「全部、凍っちゃってますねぇ」

 我に戻った九重が、手を額に当ててその光景を見渡しながら言った。

 人間らしき姿は見えない。
 建物と建物の間にある道路の上にも、五センチほどの氷が覆いかぶさっていて、まるでスケートリンクのようだ。
 建物は言わずもがな凍っていて──まるで町全体が大きな氷塊に閉じ込められているかのようだった。

 カローの町もそうだったけど、着いた先の町の様子が普通じゃない。本当に何なんだ、この異世界は。

 ──わふっ!!!

「お、おい、ウメコ?!」

 突然、ウメコが大きくひと吠えして駆けだした。

 俺は、すぐさま後を追おうとして──諦めた。

 何故なら、地面がつるっつるに滑るからだ。さっきスケートリンクに例えたけれど、これは底のすり減ったスニーカーに太刀打ちできる代物じゃない。

 踏み出した右足を氷に持ってかれそうになった俺は、すんでのところで無様な転倒の回避に成功した。

 要するに転ばずに済んだってこと!

「ふぅ~あっぶねぇーっ!」

「つるっつるですね。走るな危険だ」

「わぉーっ! つるつるですねー!」

 メイシアはあえて勢いをつけて氷の上に乗り、すい~っと優雅に移動している。
 順応早いな。若さか?

 ここから町がある程度見渡せたことから察するに、この街の形状は、中央部へ向かってなだらかなすり鉢状の底になっている。
 だから、凍ってる道路に足を踏み出すと、転んだり何かにぶつかったり掴まったりして止まるまで、町の中央へ向かって滑り続けるのだ。

「幽霊じゃなくて残念でしたね」

「ああ、本当に……って残念なわけないだろ。むしろホッとしてるよ! いや、それでも全然油断できないけどな?」

「こんなことなら、スパイクシューズとか、スケートシューズとかも持ってこればよかったですねぇ。まさかそんなものが必要になる場面が来るとは思わなかったので」

「そりゃ当たり前だ。ラノベの主人公だって、スパイクシューズとスケートシューズ持って異世界へ来るやついないだろ」

「ま、そうですね! そういえばもう、ウメコちゃん見えなくなっちゃいましたね! 課長の匂いでも発見したんですかね? 僕たちも行きますか?」

 駆け出していったウメコの姿は、確かにもう見えなくなっていた。まぁ、あいつ耳もいいから、呼んだら多分戻ってくるとは思うんだけど。

 ちなみに、リアは俺の襟元に入ったまま、さっきから爆睡している。すぴーすぴーぷひゅーって寝息が聞こえてくる。

「そうだな、行くか。転んだら助けてくれよ?」

 冗談めかして言うと、九重はニヤッと笑って、俺に右手を差し出した。

「そんなに心配なら、僕が連れて行ってあげますよ、先輩。ほら、手を貸してください!」

「え、あ、ちょっと?!」

 ぐいっと引かれる。
 柔らかく小さめの手が、俺の左手を包み込んで。

 ──ドキッ。

(え……ドキ? いやいやいやいや! 中身男だから! 九重は、男だからな──?!)

 自分に言い聞かせるも、何だか落ち着かなくなってきた。

 一瞬、中身が男でもいいんじゃないかと思ってしまうほど、今の九重の外見が好みどストライクなのが悪い。
 柔らかそうな茶色の猫っ毛に、少しタレ目がちでクリクリとした瞳……元々、ゴールデンレトリバーみたいなやつだと思っていたけど、女になったらちょっとアメリカンコッカースパニエルっぽくなったんだよね。

 何が言いたいかと言うと、本当に可愛い。見た目が。

 やばい。自分でも何言ってるかわかんなくなってきたわ。

 これはきっと、この世界に来てからまともな女を見ていなかったせいに違いない。

 目の毒だから、あんまり見すぎないように気をつけよう、うん。
 そして、彼が早く元の姿に戻れるように、最大限の協力をここに誓おう。


 結局、落ち着かないまま、俺は九重と一緒に氷の上に足を踏み出したのだった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき
ファンタジー
ある日、樹は残業続きでヘロヘロになりながら人通りの少ない真夜中の大通りを歩いていると、足元が突然光だし訳も分からないうちに真っ白な空間にへたりこんでいた。 「ここは何処…」 「ここは世界と世界の狭間じゃよ」 樹のつぶやきに答えた声の方を振り向くと、そこには真っ白な髭をたくわえた老人と、やけにお色気ムンムンの女性が居た。 なんだか知らないけど、異世界に召喚されてしまったらしい主人公、山野 樹(やまの いつき) とりあえず安全な所に引きこもって、憧れのテントでゴロゴロしたい。ただそれだけの為に、異世界で生活を始める。 どんな物語になるか、作者もわかりません。 ※小説家になろうにも投稿しています。  向こうの方がストーリーが先行していますので早く読みたい方はそちらをどうぞ。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...