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(44)課長のいる方向談義
しおりを挟む──わふっ!
「こっちか!」
──わふっ!
「こっ……ちか?」
──わふっ!
「どっちだ……?」
「うーん、わかりませんねぇ」
どれも変わらない様子のウメコに、九重が苦笑する。
わからんのかーい!
というわけで、俺たちは今、五叉路(5つに分かれた道)の真ん中に立っていた。
もちろん見た目は全く同じだ。そして、どの通路も先は見えない。
まぁ、そのうち一つは明らかに来た道だから違うとしても、あと四つの中からどれを選ぶか……。
「こっち! こっちですよ!」
何故かメイシアが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、その中の一つを自信ありげに指差している。
「何故そう思うんだ?」
「わたしの、勘です!」
何故ドヤ顔なんだ。
「却下」
「ええ~!!?」
そして、崩れ落ちるメイシア。
「……こほん」
「ウメコはわからないのか? さっき自信満々じゃなかったっけ?」
──わ、わふ……!
俺がジト目でウメコを見やると、彼女はさささっと九重の足の後ろへ隠れた。
九重は、美少女化してから足も細くなってるから、全然隠れられてないけどね。
「まぁ、課長が一度通った道なら間違いなくたどり着けるんでしょうけど、通ってないっぽい上にこの広さですからね。鼻もなかなか利かないのかもしれませんね」
──わふわふ!
そうそう! とばかりに、九重の後ろからひょこっと顔を出したウメコが頷く。
「こほん!」
「そっか、確かになぁ。いくらフェンリルでも厳しいか~」
「僕たちが先輩を発見できたのは、相当運がよかったんでしょうね」
──わふっ!
「こほんこほんこほん!」
あえて無視をしていたんだけれども。
そろそろ構ってやるか。
「なんだよ、リア? さっきから。風邪か? 蚊も風邪をひくのか?」
「風邪などひかぬわ! ここはわらわの意見を聞くべきだろう? わらわはこの道じゃと思うぞ!」
「その理由は?」
「この先で何か恐ろしいことが起こっておるようじゃ。寒気がするでの」
うんうん、としたり顔で頷いているけれども。
「ふむ……要するにお前も勘ってことだな? はぁ~大体さ、恐ろしいことが起こってるのがほぼ確定なところに、突っ込むのもどうなのかね?」
俺は肩を落として、ため息をついた。
「キノコの件でもひどい目にあったし」
キノコの件は、危険だからきちんと九重たちにも話して周知しておいた。
報連相は大切よ、大切! 社会人の基本のキだからね。
「俺、あれのせいで一回死んだからね? あれ以上に恐ろしいことが起こる可能性があるなら、回避一択なんだが」
「でも、僕も、五島課長なら渦中にいそうな気がするんですよねぇ」
人差し指を顎に当てながら、小首を傾げて考える美少女九重が、死ぬほど可愛い。
中身が男だって知らなければ、とっくに告ってるかもしれないわ。
「課長を見つけても、死んだら元も子もないんだよなぁ……」
──わふっ!
「ふふ……ウメコちゃんが、敵なら任せろって言ってますよ」
「まぁ、わらわも九重が持っている血魔石さえあれば、多少は力になってやらんでもないな。後で対価は頂くとして」
それ、俺の血ですよね?
リアと本来の大きさに戻ったウメコなら、戦闘力としては、申し分ないとは思うのだが。
俺にはそれでも、危険な方向へ進むのを躊躇する理由があった。
「うーん、物理的な敵なら何とかなるような気はするんだけど……もし、霊的な何かだったらどうするんだよ? 物理が通用しないだろ?」
「えっ……先輩ってもしかして……」
「あー! わかりました! 先輩さんは幽霊が怖いんですね?!」
「…………!」
そう。
俺は、そっち方面(オカルト系)が全くダメなのだった。
だって、自分の力じゃどうにもならないものなんて、恐怖以外の何物でもないだろ?!
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