上 下
56 / 68

(43)課長を探すことにしよう

しおりを挟む



 ──モッキュモッキュモッキュ。

 メイシアが口に入れているのは、俺たちが謝礼金でカローの町で買い込んだ食料だ。
 課長や九重の空間収納は、時間経過なく保存できるので、割と食材そのものよりも、すぐに食べられるものをメインに入れてある。
 ほぼほぼメイシア専用というわけなんだけれども。
 九重は変わったものを発見していた。

「これ、干物屋さんに売ってたんですけど、面白いんですよ!」

 美少女九重がつまんでいたのは小さな透明の粒だった。
 まだ彼のそのビジュアルにはなれないけれども、動揺を隠して俺は聞き返した。

「面白いって何が?」
「魚の卵らしいんですけど、乾燥している状態でこの1ミリ程の卵が、水を含むと膨らむんです。軽く十倍以上に」
「十倍……」
「栄養価も高いし、食感や味も米に似てるんですよね。だから、メイシアちゃんが今食べてるおにぎりにも混ぜてあるんです」

 浸す水の量で大きさを調節できるらしい。
 メイシアが口に入れる時は米粒大だが、腹の中で膨らむってことか。

「そういうことです。ああ、向こうの世界に持って帰れば、貧困地域の食糧難とかも解決できそうなんだけどなぁ」

 そんなことを思い悩むだなんて、九重って本当に真面目だよな。

「うぷっ! 満腹です~!」

 メイシアは、ぽっこりとしたお腹を撫でながら、小さくゲップをした。

「ところで、九重は本当に呪いにはかかってないのか?」

 俺が、ペットボトルの水を渡すと、メイシアはそれを受け取りながらコクコクと頷いた。

「はい。呪いの気配は感じ取れませんでした。呪いとは別の原因も考慮に入れるべきかと思います」

「呪い以外の可能性もある……のか?」

 リアの方を見やると、奴は大欠伸をしていた。

「わらわは知らんぞ」
「断言しただろうが? ウリ何とかの呪いって」
「ええい、呪い以外ではこんな奇妙な現象起こらんだろうが?!」
「いや、でも……例えば、さっき俺たちが遭遇したキノコの胞子みたいに、知らずに体内に女性化菌みたいなのが入ったりしたら……」
「ええ……僕がそれに感染したってことですか?」

 不安そうに眉を下げる九重。

「ま、まぁ、その可能性もあるってことだよ」
「じゃあ、先輩に移しちゃおうかな~」
「はぁっ?!」
「風邪って移したら治るとか言うじゃないですか! これも移したら治るかも! 先輩、ちょっとキスでもしませんか? ね?」

 そんな、ちょっとコンビニ寄らない? みたいなノリで感染させに来るな!

「はぁっ?! やるわけねぇだろ?!」

 逃げる俺、追いかける九重。
 いや、美少女とのキスは捨てがたいが。中身が九重だと思うとちょっと受け付けないものがあるんだよな。

「せんぱ~い!」
「こっち来んな、バカ!」
 ──わふっ! わふっ!
「うわぁっ! ウメコ、遊びで追いかけっこしてる訳じゃないんだよ!」
 ──わふっ! わふっ!
「せ~んぱいっ!」
「お前、そのポーズ……か、可愛くなんてないからな?!」

「お二人とも、何してるんですかねぇ?」
「知らん。わらわは眠いからちょっと寝る。肩を貸せ」
「どうぞ~」
「明かりは消すからな」
「あ、ちょっと待っ……」

 ──シュン。

 突然辺りが暗闇に包まれた。
 自分の指先でさえ視認できない、完全な闇だ。

「げっ。真っ暗じゃねぇか!」
「すみません、リアさんが寝ちゃいました!」
「先輩、どこですか? 見えない!」
「げぇっ! 油断させておいてこっち来るな! 九重お前、懐中電灯とか持ってるんだろ? 出せよ」
「あっ! そうか! そうでした! リアさんのおかげで不要になったから、さっきしまったんでした!」

 ──カチッ!

 ──わふっ!

 懐中電灯の明かりが、遺跡内を照らし出す。
 リアはメイシアの肩の上で丸くなって寝ていた……蚊も寝るんだな。24H営業かと思ってたよ。

「ウリダスの遺跡は、建国神話の中では王都の方まで続いてるって話もあるんですよ」
「王都かぁ……だけど、方向がわからないとどうしようもないな。それに、ここから出るにしてもなんにしても、とりあえず課長を探さないとかな」

 俺の言葉には九重も同意する。

「そうですよねぇ……五島課長なら平気で一人で歩き回ってるでしょうけどね」
「あっ! そういえば、お前たちどうやって俺を見つけたんだよ?」

 そうだ。思い切りスルーしてたけど、こんな迷路みたいな遺跡の中で再会するだなんて、何万分の一とかの確率なんだよ。

「まぁ、そこはウメコちゃんが頑張ってくれましたから! ねー、ウメコちゃん!」

 ──わっふぅぅ!

 照らし出されたウメコは、まるでドヤるように胸を張って、ピンと鼻先を伸ばした。

「先輩の上着預かってましたからね」
「警察犬か?!」
「まぁ、犬もフェンリルも元を正せばオオカミ系なので、ほぼほぼ同じですね!」
「じゃあ、課長のこともウメコが探せるんじゃないか?」
「おおっ! 意外といいこと言うじゃないですか、先輩!」

 意外とは余計だな。

「先輩、課長の持ち物って何か持ってます?」
「あー……えーっと……」

 俺は、慌ててポケットを探る。空間収納なんて便利なものは持ってないからな。

「部長にもらったのって、飴くらいしか持ってないかも……」
「僕はわけてもらった梅干し……」

 ──わふぅっ!!

(わたしに任せろ!)

 何故か、ウメコがそう言った気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...