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(41)
しおりを挟む「……おい」
「……おい!」
「……おいっ! 聞こえておるのか?!」
「聞こえてるよ。打開策を考えてるんだから邪魔すんなよ」
俺は何度か話しかけてくるリアを無視して、思考の海にどっぷり浸かっていた。
元から脳筋体質の俺がアイデアをひねり出すためには、長考が必要なんだよ。悪かったな。
髪にも肩にも服にも足の上にも、とにかく胞子が積もりまくっている。まずはこいつをどうにかしないと身動きすら取れない状況だ。
だが、現状俺にはチート能力ってやつが何もない。
「……」
「……」
「……ダメだ、何も思いつかない!」
「……」
そんな目で見てくるのは止めろよ! 仕方ないだろ、元々アホなんだから!
考えるより身体を動くす方が得意なんだもん。
「まぁ、一つだけ思いついたことがあるんだけど」
「なんじゃ。思いついたのか」
「……でも、お前の協力が必要なんだ。お前、前に俺と戦った時に毒を使っただろう? あの毒を今、俺に使って欲しい」
「は? 何を言っておる。この状況にヤケをおこして自殺でもするつもりなのか?! わらわに血を提供する約束を忘れてはおるまいな?!」
リアの眉がつり上がった。
「そうじゃない。人の話は最後まで聞け。恐らくあのキノコは生体に寄生して増殖し、胞子を撒き散らすんだろう。だから、死体には反応しない」
「ま、まぁそうだが……」
その証拠に、死体となってしまっただろう兵士たちにはもう、キノコは生えていない。
次に通ったものがいれば、身体の中に潜んで遠くまで運ばれ、しばらくして発芽する。
つまり、俺が死んでいれば寄生はされないというわけだ。
だから、俺をギリギリの毒で仮死状態にする。
ただ、本当に死んでしまっては元も子もないから、ちゃんと生き返る術もある。
俺は目線をポケットにやる。
「そこのポケットに、メイシアの聖水が入ってる」
リアはちょっと怯えた顔をする。何しろ、触れたら彼女の分体が浄化されてしまうほどの強力な聖水だ。
実は、少しだけわけてもらっていたのだ。
メイシアの聖水を飲めば、二日酔いだとか車酔いだとか、ちょっとした風邪みたいなものでも治ってしまう。ポーションのようなものなのだ。
ちなみに解毒作用があるのも、以前のリアとの戦闘時に確認済み。だから──。
「この部屋を通り抜けて、胞子のない所まで来たらこいつを俺に使って解毒して欲しい」
「んな……っ?! 胞子のない所まで、誰が死んだお前を連れていくのじゃ?!」
「お前しかいないだろ?」
「わらわの大きさを見よ! こんなチビでは……」
「そこで、だ。今から俺の血を好きなだけ吸わせてやる。一時的に魔力を戻して、大きく……なれるんだろ? ただし、吸いすぎて殺してくれるなよ?」
「はぁ……作戦も何もないな。何もかも全てわらわ頼みではないか。わらわはお前の従魔でもなんでもないのだぞ? 言うことを聞く義理はない。血だけ吸って、ここに捨て置かれたらお前はどうするつもりなんじゃ?」
「……ま、そうなったら仕方がない。大人しく死ぬさ。その代わり、お前はその一度きりしか血は吸えなくなるぞ。俺を生かしておけば、この先何度でもいい思いをできるはずだろう?」
「ぐっ……」
「まぁ、お前の言う通り、これは完全に他力本願な作戦だからな。 無理にやれとは言わないが……俺を見殺しにしたら、もう課長からは梅干し貰えないかもしれないな」
その一言がダメ押しになったようだ。リアは顔を上げて、
「……う、わかった」
と頷いた。
どうやら梅干し>俺の血らしい。
「吸うと同時に毒を注入する。苦しいかもしれないが、動くなよ?」
リアは空中に制止したまま、俺の手首に吸い付いた。
俺はその光景を黙って見つめる。
銀色の世界の中、動いているのは妖精のような少女の羽と、その喉元だけになった。
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