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「……おい」

「……おい!」

「……おいっ! 聞こえておるのか?!」

「聞こえてるよ。打開策を考えてるんだから邪魔すんなよ」

 俺は何度か話しかけてくるリアを無視して、思考の海にどっぷり浸かっていた。
 元から脳筋体質の俺がアイデアをひねり出すためには、長考が必要なんだよ。悪かったな。

 髪にも肩にも服にも足の上にも、とにかく胞子が積もりまくっている。まずはこいつをどうにかしないと身動きすら取れない状況だ。
 だが、現状俺にはチート能力ってやつが何もない。

「……」

「……」

「……ダメだ、何も思いつかない!」

「……」

 そんな目で見てくるのは止めろよ! 仕方ないだろ、元々アホなんだから!
 考えるより身体を動くす方が得意なんだもん。

「まぁ、一つだけ思いついたことがあるんだけど」

「なんじゃ。思いついたのか」

「……でも、お前の協力が必要なんだ。お前、前に俺と戦った時に毒を使っただろう? あの毒を今、俺に使って欲しい」
「は? 何を言っておる。この状況にヤケをおこして自殺でもするつもりなのか?! わらわに血を提供する約束を忘れてはおるまいな?!」

 リアの眉がつり上がった。

「そうじゃない。人の話は最後まで聞け。恐らくあのキノコは生体に寄生して増殖し、胞子を撒き散らすんだろう。だから、死体には反応しない」

「ま、まぁそうだが……」

 その証拠に、死体となってしまっただろう兵士たちにはもう、キノコは生えていない。
 次に通ったものがいれば、身体の中に潜んで遠くまで運ばれ、しばらくして発芽する。

 つまり、俺が死んでいれば寄生はされないというわけだ。
 だから、俺をギリギリの毒で仮死状態にする。
 ただ、本当に死んでしまっては元も子もないから、ちゃんと生き返る術もある。
 俺は目線をポケットにやる。

「そこのポケットに、メイシアの聖水が入ってる」

 リアはちょっと怯えた顔をする。何しろ、触れたら彼女の分体が浄化されてしまうほどの強力な聖水だ。
 実は、少しだけわけてもらっていたのだ。
 メイシアの聖水を飲めば、二日酔いだとか車酔いだとか、ちょっとした風邪みたいなものでも治ってしまう。ポーションのようなものなのだ。
 ちなみに解毒作用があるのも、以前のリアとの戦闘時に確認済み。だから──。

「この部屋を通り抜けて、胞子のない所まで来たらこいつを俺に使って解毒して欲しい」

「んな……っ?! 胞子のない所まで、誰が死んだお前を連れていくのじゃ?!」

「お前しかいないだろ?」

「わらわの大きさを見よ! こんなチビでは……」

「そこで、だ。今から俺の血を好きなだけ吸わせてやる。一時的に魔力を戻して、大きく……なれるんだろ? ただし、吸いすぎて殺してくれるなよ?」

「はぁ……作戦も何もないな。何もかも全てわらわ頼みではないか。わらわはお前の従魔でもなんでもないのだぞ? 言うことを聞く義理はない。血だけ吸って、ここに捨て置かれたらお前はどうするつもりなんじゃ?」

「……ま、そうなったら仕方がない。大人しく死ぬさ。その代わり、お前はその一度きりしか血は吸えなくなるぞ。俺を生かしておけば、この先何度でもいい思いをできるはずだろう?」

「ぐっ……」

「まぁ、お前の言う通り、これは完全に他力本願な作戦だからな。 無理にやれとは言わないが……俺を見殺しにしたら、もう課長からは梅干し貰えないかもしれないな」

 その一言がダメ押しになったようだ。リアは顔を上げて、
「……う、わかった」
と頷いた。

 どうやら梅干し>俺の血らしい。

「吸うと同時に毒を注入する。苦しいかもしれないが、動くなよ?」

 リアは空中に制止したまま、俺の手首に吸い付いた。
 俺はその光景を黙って見つめる。

 銀色の世界の中、動いているのは妖精のような少女の羽と、その喉元だけになった。




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