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(40)息をのむ光景
しおりを挟むそれは、あまりにも異様な光景だった。
兵士たち──いや、元は兵士たちだったと言うべきか。彼らの至る所から、何かが生えている。
これは……。
「キノコ、か……?」
暗い遺跡内には不釣り合いなほどポップで蛍光色なキノコが、彼らの目や鼻や口や指の間や、鎧の隙間から多数覗いている。
苗床、と言うやつだろうか。
俺は、知らずゴクリと唾を飲み込んだ。
気がつくともう、悲鳴は聞こえなくなっていた。
「まずいな。思ったより早く開きそうだ」
リアがぽつりと呟いた。
「えっ?!」
「来るぞ! 息を止めろ!!」
聞き返す間もなく、リアが叫んだ。その瞬間、兵士の身体ににょきにょきと生えていたキノコの傘が、ぷうっと風船のように膨らんだかと思うと、ふにょふにょと動き出した。
まるで多数の風船が右に左に踊り出したようだったが──。
「えっ……あっ……なんだ?!」
「馬鹿者! 息を止めろと言うておろうに!」
俺が戸惑っているうちに、限界まで膨らんだ傘がパァンッと弾けた。
リアの光をキラキラと反射しながら、粉のようなものがほぼ一斉に飛散する。
「んむっ!!!」
その瞬間、チビリアが俺に覆い被さってきて、彼女の背中の羽根含めたその全身で口と鼻を塞がれた。物理的に。
──ふにっ!
や、柔らかいところが口に当たっているんだが?!
「目も閉じろ! アレは体内に入り込んで寄生する!」
俺は動揺しながらも、言われた通りに目も閉じた。
一体どれほどの時間そうしていただろうか?
10分? 20分? いや、ギネス記録保持者じゃあるまいし、そんなに長い間息を止めてはいられないはずだ。
そろそろ胸が苦しくなってきた。
「もう目を開けてもよいぞ。ただし、身動きはするな。息は一気に吸うな、少しづつゆっくりと吸え」
その声と同時に、顔に張り付いたリアが離れた気配がした。
「うわっ! 何だこれ……っ?!」
目を開けると、さっきまでとは全く違う光景が広がっていた。
まるで、一面の銀世界、だ。
白くキラキラと光る粉がそこかしこに積もっている。もちろん、寄生され動かなくなった兵士たちの上にも。
こんな状況じゃなきゃ俺も、素直に感嘆の声をあげたかもしれない。
それほど、幻想的な眺めだった。
しかし、辺り一面にふり積もったそれは、きっとキノコの胞子なのだろう。
リアの様子からしてあれを吸い込んだが最後、さっきのカラフルポップなキノコが、あちらこちらから生えてくるのは間違いないだろう。
そして、辺り一面に降り積もっているということは、もちろん──。
「俺にも積もっているってことか」
「ま、そういうことじゃな。動くなよ?動けば積もった胞子が鼻や目、口に入り込む」
俺はゾッとした。キノコに寄生されるなんて絶対嫌だ。
「お前の力で何とかならないのか?」
「何とかってどうするのじゃ?」
「いや、ほら、魔法とかで焼き払ったりとか……」
「……わらわは燃やされて負けたのだが?」
あ。確かに言われてみれば。
「悪いが火は扱えぬ。そして、この状況を脱するいい案も今のところはない。お前が少しでも動けば積もった胞子が舞い散るだろうな」
リアが羽を広げてピッタリくっついてくれていたおかげで、俺の顔には胞子がついていないようだった。
「息を止めながら、この部屋を駆け抜けるとかもダメかな?」
「動いてるお前の顔を覆うのは、難しそうだぞ。少しでもズレればどこからか侵入するかもしれん」
「そういえば、お前は胞子の中で動いても平気なのか?」
「……うむ。まぁ、わらわは分体の集合体だからな。この目も口も鼻もただの飾りのようなものじゃ。本来の役目を果たしているわけではない。だから大丈夫なのじゃ」
「あ、ああ、なるほど……?」
わかったようなわからないような。
つまり、今は人の形に見えているけれども、その全部が細かい蚊の分体の集まりで、目や鼻や口に見える部分も結局は分体の塊。
見たり、匂いを嗅いだり、呼吸したりする機能はないということか。
じゃあ、俺の口にずっと当たってた柔らかい胸らしきものもただの飾りってことか……。
「…………」
いや、ガッカリなんてしてないぞ?
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