上 下
49 / 68

(38)はぐれた課長

しおりを挟む
近江くん視点へ戻ります。
──────────



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ──っ!」

 俺は、吸い込まれるようにして、落ちていく。
 けれど、落ちると思った瞬間、何かにふわっと包まれるような感覚がした。





「いたっ……いたたたた……!」

 非常におっさんくさい言葉を発しながら、身体を起こした。いや、実際にもうおっさんだから仕方ないか。

「課長……? いますか……?」

 俺は湿った土の匂いが充満する暗闇の中、恐る恐る声を上げた。
 落ちる前は近くにいたのだから、落ちてからもきっと、近くにいるだろうと思ったのだ。
 しかし、暗闇から反応が返ってくることはなく。
俺の声が間抜けに響いただけだった。

 ──ボッ!

 ガクッと俺が肩を落とすと、何かが爆ぜるような音がして、ぽわっと明るくなる。

「ああ、リアか……」
「なんだ、わらわじゃ不服かの?」

 俺の顔を照らし出したのは、リアの指先に灯った小さな光だった。
 正直いってものすごく不安だったから、リアの姿が見えてホッとした。

 どれだけ落ちてきたかはわからないが、俺がダメージをほとんど負っていないことから考えても、そんなに深くはないんだろうな。

「リア、ウリダスの遺跡ってなんのことかわかるか?」

「ウリダスの遺跡は、神が創ったとされる古代遺跡の一つじゃ」

「……神?」

「ああ、ここは、神が反逆者ウリダスを封じ込めた結界だと言われておる」

「じゃあ、さっきの兵士たちが言ってた『呪い』ってのは?」

「わらわにも呪いの内容はわからないが……古代の遺跡は、その多くが訪れた者に死を呼ぶ呪いがかかると言われておるの」

 まるでどこかのツタンカーメンの墓の話だな。
 あれも発掘した人やその関係者が次々と亡くなって、呪いだって騒がれたんだっけ。
 でも、呪いだと言うには死亡時期に幅があったりして、現在では呪いではなかったと考えられているはずだ。

 ただし、ここは異世界だ。
 魔法だってある世界なのだから、呪いがあってもおかしくはない。

「死を呼ぶ呪い……」

 口に出すとすげー中二っぽい……。

 まぁ、とはいえ既に遺跡の中に入ってしまっただろう俺たちにはどうすることもできないに違いないが。

「とりあえず課長を探すか……あの人なら何でか無事な気がするし」

 俺が行動方針を決めてつぶやくと、リアはうんうんと頷いた。

「まぁ、そうじゃろな。実際に課長殿はお前よりも強いからの」
「なっ……何てことを言うんだ! それが、もし、仮に、事実だとしても。そんなあからさまに言われると何か傷つくじゃないか……」
「お前は、己の身も守れんひよっこの癖に何を傷ついておるのじゃ?」
「……?」
「あのままの勢いで、ただここに落ちてたらどうなったと思っておる?」

 落下時に何かに包まれたと思ったのは気のせいじゃなかったのか。

「わらわの分体で守ってやったのだから感謝せよ」

 そう言ってリアはニヤッと笑った。
 落ちていた時間の割に、大して負傷してないと思ったら、彼女が分体で地面との衝突の際の衝撃をやわらげてくれていたというわけか。

「あ、ああ、ありがとな」

 俺がつっかえながらも礼を言うと、リアは得意そうに鼻を鳴らした。

「礼はお前の血でよい。そうでなければ助けた甲斐もないからな」
「うっ」

 まぁ、そうなんだろうけど、この前のことを思い出すと躊躇ってしまうな。だって、吸われすぎて死にそうになったからね?
 もしかしたら次は、本当に死んじゃうかもしれないでしょ?!

「そうだ! お前さ、その便利な分体とやらで課長の居場所わかんないの?」

「……すまんが、このチビの体でさっき力を使い果たしてしまってなぁ……回復したいところなんだが、あいにくと血魔石は課長殿に預けてあるんじゃよ。今ここですぐに回復するには、お前の血が必要なんだよなぁ」

 言いながら、チラッチラッとこっち見んな!

「……はぁ」

 俺は大きなため息をついて、ずいっと肩の上の彼女に手首を差し出した。

「吸え。その代わり痒くするなよ? あと、あくまで回復だけだからな? こんなところで吸いすぎで倒れたりしたら、もう二度と血はやらん!」

「……!」

 小さなリアの顔にぱぁぁっと喜色が満ちる。
 ペロッと唇を舐めまわしたかと思うと、小さな口で俺の手首に噛みついた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...