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(38)はぐれた課長
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近江くん視点へ戻ります。
──────────
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ──っ!」
俺は、吸い込まれるようにして、落ちていく。
けれど、落ちると思った瞬間、何かにふわっと包まれるような感覚がした。
「いたっ……いたたたた……!」
非常におっさんくさい言葉を発しながら、身体を起こした。いや、実際にもうおっさんだから仕方ないか。
「課長……? いますか……?」
俺は湿った土の匂いが充満する暗闇の中、恐る恐る声を上げた。
落ちる前は近くにいたのだから、落ちてからもきっと、近くにいるだろうと思ったのだ。
しかし、暗闇から反応が返ってくることはなく。
俺の声が間抜けに響いただけだった。
──ボッ!
ガクッと俺が肩を落とすと、何かが爆ぜるような音がして、ぽわっと明るくなる。
「ああ、リアか……」
「なんだ、わらわじゃ不服かの?」
俺の顔を照らし出したのは、リアの指先に灯った小さな光だった。
正直いってものすごく不安だったから、リアの姿が見えてホッとした。
どれだけ落ちてきたかはわからないが、俺がダメージをほとんど負っていないことから考えても、そんなに深くはないんだろうな。
「リア、ウリダスの遺跡ってなんのことかわかるか?」
「ウリダスの遺跡は、神が創ったとされる古代遺跡の一つじゃ」
「……神?」
「ああ、ここは、神が反逆者ウリダスを封じ込めた結界だと言われておる」
「じゃあ、さっきの兵士たちが言ってた『呪い』ってのは?」
「わらわにも呪いの内容はわからないが……古代の遺跡は、その多くが訪れた者に死を呼ぶ呪いがかかると言われておるの」
まるでどこかのツタンカーメンの墓の話だな。
あれも発掘した人やその関係者が次々と亡くなって、呪いだって騒がれたんだっけ。
でも、呪いだと言うには死亡時期に幅があったりして、現在では呪いではなかったと考えられているはずだ。
ただし、ここは異世界だ。
魔法だってある世界なのだから、呪いがあってもおかしくはない。
「死を呼ぶ呪い……」
口に出すとすげー中二っぽい……。
まぁ、とはいえ既に遺跡の中に入ってしまっただろう俺たちにはどうすることもできないに違いないが。
「とりあえず課長を探すか……あの人なら何でか無事な気がするし」
俺が行動方針を決めてつぶやくと、リアはうんうんと頷いた。
「まぁ、そうじゃろな。実際に課長殿はお前よりも強いからの」
「なっ……何てことを言うんだ! それが、もし、仮に、事実だとしても。そんなあからさまに言われると何か傷つくじゃないか……」
「お前は、己の身も守れんひよっこの癖に何を傷ついておるのじゃ?」
「……?」
「あのままの勢いで、ただここに落ちてたらどうなったと思っておる?」
落下時に何かに包まれたと思ったのは気のせいじゃなかったのか。
「わらわの分体で守ってやったのだから感謝せよ」
そう言ってリアはニヤッと笑った。
落ちていた時間の割に、大して負傷してないと思ったら、彼女が分体で地面との衝突の際の衝撃をやわらげてくれていたというわけか。
「あ、ああ、ありがとな」
俺がつっかえながらも礼を言うと、リアは得意そうに鼻を鳴らした。
「礼はお前の血でよい。そうでなければ助けた甲斐もないからな」
「うっ」
まぁ、そうなんだろうけど、この前のことを思い出すと躊躇ってしまうな。だって、吸われすぎて死にそうになったからね?
もしかしたら次は、本当に死んじゃうかもしれないでしょ?!
「そうだ! お前さ、その便利な分体とやらで課長の居場所わかんないの?」
「……すまんが、このチビの体でさっき力を使い果たしてしまってなぁ……回復したいところなんだが、あいにくと血魔石は課長殿に預けてあるんじゃよ。今ここですぐに回復するには、お前の血が必要なんだよなぁ」
言いながら、チラッチラッとこっち見んな!
「……はぁ」
俺は大きなため息をついて、ずいっと肩の上の彼女に手首を差し出した。
「吸え。その代わり痒くするなよ? あと、あくまで回復だけだからな? こんなところで吸いすぎで倒れたりしたら、もう二度と血はやらん!」
「……!」
小さなリアの顔にぱぁぁっと喜色が満ちる。
ペロッと唇を舐めまわしたかと思うと、小さな口で俺の手首に噛みついた。
──────────
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ──っ!」
俺は、吸い込まれるようにして、落ちていく。
けれど、落ちると思った瞬間、何かにふわっと包まれるような感覚がした。
「いたっ……いたたたた……!」
非常におっさんくさい言葉を発しながら、身体を起こした。いや、実際にもうおっさんだから仕方ないか。
「課長……? いますか……?」
俺は湿った土の匂いが充満する暗闇の中、恐る恐る声を上げた。
落ちる前は近くにいたのだから、落ちてからもきっと、近くにいるだろうと思ったのだ。
しかし、暗闇から反応が返ってくることはなく。
俺の声が間抜けに響いただけだった。
──ボッ!
ガクッと俺が肩を落とすと、何かが爆ぜるような音がして、ぽわっと明るくなる。
「ああ、リアか……」
「なんだ、わらわじゃ不服かの?」
俺の顔を照らし出したのは、リアの指先に灯った小さな光だった。
正直いってものすごく不安だったから、リアの姿が見えてホッとした。
どれだけ落ちてきたかはわからないが、俺がダメージをほとんど負っていないことから考えても、そんなに深くはないんだろうな。
「リア、ウリダスの遺跡ってなんのことかわかるか?」
「ウリダスの遺跡は、神が創ったとされる古代遺跡の一つじゃ」
「……神?」
「ああ、ここは、神が反逆者ウリダスを封じ込めた結界だと言われておる」
「じゃあ、さっきの兵士たちが言ってた『呪い』ってのは?」
「わらわにも呪いの内容はわからないが……古代の遺跡は、その多くが訪れた者に死を呼ぶ呪いがかかると言われておるの」
まるでどこかのツタンカーメンの墓の話だな。
あれも発掘した人やその関係者が次々と亡くなって、呪いだって騒がれたんだっけ。
でも、呪いだと言うには死亡時期に幅があったりして、現在では呪いではなかったと考えられているはずだ。
ただし、ここは異世界だ。
魔法だってある世界なのだから、呪いがあってもおかしくはない。
「死を呼ぶ呪い……」
口に出すとすげー中二っぽい……。
まぁ、とはいえ既に遺跡の中に入ってしまっただろう俺たちにはどうすることもできないに違いないが。
「とりあえず課長を探すか……あの人なら何でか無事な気がするし」
俺が行動方針を決めてつぶやくと、リアはうんうんと頷いた。
「まぁ、そうじゃろな。実際に課長殿はお前よりも強いからの」
「なっ……何てことを言うんだ! それが、もし、仮に、事実だとしても。そんなあからさまに言われると何か傷つくじゃないか……」
「お前は、己の身も守れんひよっこの癖に何を傷ついておるのじゃ?」
「……?」
「あのままの勢いで、ただここに落ちてたらどうなったと思っておる?」
落下時に何かに包まれたと思ったのは気のせいじゃなかったのか。
「わらわの分体で守ってやったのだから感謝せよ」
そう言ってリアはニヤッと笑った。
落ちていた時間の割に、大して負傷してないと思ったら、彼女が分体で地面との衝突の際の衝撃をやわらげてくれていたというわけか。
「あ、ああ、ありがとな」
俺がつっかえながらも礼を言うと、リアは得意そうに鼻を鳴らした。
「礼はお前の血でよい。そうでなければ助けた甲斐もないからな」
「うっ」
まぁ、そうなんだろうけど、この前のことを思い出すと躊躇ってしまうな。だって、吸われすぎて死にそうになったからね?
もしかしたら次は、本当に死んじゃうかもしれないでしょ?!
「そうだ! お前さ、その便利な分体とやらで課長の居場所わかんないの?」
「……すまんが、このチビの体でさっき力を使い果たしてしまってなぁ……回復したいところなんだが、あいにくと血魔石は課長殿に預けてあるんじゃよ。今ここですぐに回復するには、お前の血が必要なんだよなぁ」
言いながら、チラッチラッとこっち見んな!
「……はぁ」
俺は大きなため息をついて、ずいっと肩の上の彼女に手首を差し出した。
「吸え。その代わり痒くするなよ? あと、あくまで回復だけだからな? こんなところで吸いすぎで倒れたりしたら、もう二度と血はやらん!」
「……!」
小さなリアの顔にぱぁぁっと喜色が満ちる。
ペロッと唇を舐めまわしたかと思うと、小さな口で俺の手首に噛みついた。
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