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挿話(8)再会の予感

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 カケルは未だ馬には乗れないため、移動は全て馬車になる。
 西の町はさほど王都からは離れていないらしく、

 ──ガタンッ!

 その馬車が、予告もなく止まった。

「……っ?!」

 カケルは驚いて立ち上がろうとするが、アリステラは彼の袖を少し引き、落ち着くように言った。

「大丈夫ですわ、勇者様」

 ──コン、コン。

 外から窓がノックされ、アリステラが頷くと、同乗していた侍女がカーテンと小窓に隙間を開けた。

「王女殿下!」

 飛び込んできた声は、恐らく同行の騎士のもの。

「何事ですか?」

「馬車の進路を邪魔しようとした者たちがいまして……」

「邪魔を……?」

「はい、この馬車には紋章がついておりませんゆえ、殿下が乗車されていることは知らないと思いますが……」

「そう……」

「出で立ちから冒険者のようです。何でも、乗ってきた馬車を指名手配の輩に奪われたそうで」

「指名手配の?」

「はい。王都のギルドで指名手配されていた二人組に襲われて馬車を奪われたようです……それで、こちらの馬か馬車に同乗させて欲しいとの事でした」

 ギルドの指名手配──それは、違約金不払い者や一般人へ暴行を加えた冒険者などを捕縛したい時、または行方不明者の捜索時などに、ギルドがかけるものである。
 国がかけるそれと違うのは、国をまたいでの手配が可能ということだ。

「眼鏡とのっぽの二人組だそうです」

「!!!」

 ──ガタンッ!

 それを聞いて、思わず立ち上がったカケル。

「め、眼鏡の方は禿げてた?」

「いえ、分かりかねます。詳しい話をお聞きになりますか?」

「あ、ああ、ぜひ……」

「必要ありません。その方たちには少し食料を分けて、馬車も馬も定員だと断りなさい。もう少し待てば、カローの町から馬車を派遣すると伝えなさい。すぐに出発を」

「はっ!」

 小窓に姿を覗かせていた騎士は、アリステラの言葉に了解を示すと、すぐに下がった。

「アリステラちゃん、その二人組きっとオレが言った人たちだよ! その人たちに話聞かなきゃ!」

 焦った様子のカケルに、ニッコリと微笑むアリステラ。

「勇者様、落ち着いてくださいませ。例えそうだとしても、にはもういないのです。今は勇者の確認が最優先です。寄り道している時間はありません。先を急ぎましょう!」

「そ、そうだよね……あはは……何か焦っちゃってごめんね」

「いいえ。でも、あの時指名手配をかけて正解だったようですね。冒険者相手に強盗紛いなことをするとは……勇者様の仰る通り、魂が闇に染まってしまったようですね」

「あ、あはは……そうみたいだね」

(馬車強盗って……ユキにそんな度胸があるはずがない。おかしい)

 ──ガタンッ!

 馬車が揺れる。再び出発したらしい。
 もちろん、余計な同行者は増えていない。

 だが、カケルは不安を拭えなかった。
 根っから真面目なユキと真面目の塊である上司の五島。彼らが闇落ちなどしていないことは、カケルがよく知っている。
 だから、彼らが馬車を襲ったなんて、とても信じられなかった。
 それとも、カケルたちに置いていかれ、絶望の中サバイバルな経験をしたせいで、彼らの何かがおかしくなってしまったのだろうか。

(まぁ、それもありうるけど……それならそれでユキが犯罪者になるところ、見たかったなぁ……いやいや、そんなことを考えている場合じゃないな。ユキが生きてるのがわかっただけでも収穫だ。再会はオレが勇者としてこの国の頂点に立ってからが理想的だからな。だからまず、現れたのが本物の勇者の場合、オレがどう立ち回るかをシミュレーションしないと……)

 カケルはガタガタと揺れだした車内で、カーテンの隙間から外を眺めながら、考えにふけっていた。

 アリステラが彼の横顔をじっと眺めていることにも気づかずに──。




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