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(32)ここはどこあなたは誰?
しおりを挟む俺たちはリアの言葉に、三者三様の反応を見せた。
俺は、何がなんでも戻らなきゃいけないわけじゃないけど、戻れるなら戻りたい! 自分がチートな存在じゃないというのも大きいのかもだけど、やはり向こうに残してきた妹や母さんが心配なわけで……。
九重は身を乗り出していた。やっぱり帰りたいんだな、空間収納便利だけど、チート能力としてはありふれてるもんな。かなり前に聞いた話だけど、九重って社長の息子だから、婚約者とかいるらしいし。
課長はといえば、興味がほとんどない表情……あっ! もしかして「自由だーっ!」って叫んでたのはフリじゃなかったのか……!
まさかだけど、本気でここで第二の人生始めるつもりだった?
話の内容が全くわからないメイシアとウメコは、口をもぐもぐさせながら、俺たちをポカンと眺めている。
「なんじゃ、反応が薄いのう」
「そんなことはどうだっていいだろ? 続きを早く話せ……!」
「そうせっつくな。わらわの知り合いに勇者の召喚を研究しておる変わり者がおってな……ひひ……そいつなら元の世界へ戻る方法を知っておるかもしれんぞ」
俺は……親父はともかくとして、残してきた母さんと妹のことが心配だった。
母さんたちは、俺が突然消えたら心配して探すに違いない。
俺だって、もし妹がある日突然消えてしまったら、半狂乱で探しまくる未来しか見えない。
しかし、蚊女の知り合いってなんだろうな?
蜂女? 虻女? 蝿女?
あんまりいい予感はしないけど。
「とりあえず、ギルドに行かなくちゃいかんだろう? 詳しい話は帰ってからしようか」
「そう……ですね。ああ、嬉しいけど嬉しくないような……詳しく聞きたいような聞きたくないような……」
「ははっ……元の世界に戻れるんですかね、僕たち……」
何だか、異世界に来て浮かれていた気持ちがしゅーんと沈んでいく。
この一週間位の間に色々なことが起こりすぎて。
元の世界に残してきた家族を思う時間はあんまりなかったけど。
急に元に戻れるかもしれないと言われて、喜んでいる自分と、ちょっと悲しんでいる自分がいる。
そんな葛藤に頭を抱えた俺を、リアが目を眇めて見つめていたことには気づかなかった。
◇◇◇
『おいっ、おいっ、起きろ!』
「ん……んん……?」
『全く……わらわの餌という立場でありながら、なんと言う体たらくじゃ』
「……お前、まさかリアか……? 」
『他の誰に見えるというのか? 大きさのことを言いたいのであろうが……本体は小さい方が消費エネルギーが少ないからのぅ。エコというやつじゃよ』
俺の目の前でぶーたれた顔をしているのは、何故か小人のように小さくなったリアのようだった。
床の上に立ってるみたいだけど……床……俺、今床に寝てるのか? どこかの部屋のようだった。
部屋の中は薄暗く狭く、荷物が積み上げられている。
「ん……? あれ? どうなってるんだ? 立てないぞ」
『愚か者めが。お前たちは拐かされたのじゃよ』
「かどわ……かされ……? ちょっと何言ってるか分からない……」
わからないけれど、身体が動かないのは確かだった。
そして、手と足は縛られているようだった。
何がどうしてこうなったのだろうか……?
「他の連中は……?」
『お前たちを探しておる』
「お前たちって……?」
『お前と課長殿じゃ……しっ。奴らが戻ってきたようじゃ』
「奴らって……あっ! 肝心なこと言わずに消えるなよっ」
リアは俺の目の前でパッと分体になると、散り散りなって消えてしまった。
「……き……」
「……さ……だ……め」
「い……」
しばらくするとリアの言った通り、何やら声が近づいてくるのがわかった。
俺はこの事態の情報を得るために、頑張って耳を澄ます。
会話が聞き取れるようになってきた。
声からすると、どうやら四人ほどいるようだった。
「……ラクショーじゃん?」
「……そりゃそうでしょ! このあたしの誘いを断れる男なんていないわよ!」
「なぁ、コイツらに間違いないんだろ? ハゲメガネとデカのっぽの二人組って。お尋ね者のやつ」
「ああ、人相書きがそっくりだったしな。特にメガネの方は強いかもしれないって聞いてたから心配だったけど、案外楽勝だったな。後はコイツらを王都のギルドへ連れていけばいいんだろ? めちゃくちゃ美味しい仕事だったな」
ハゲ眼鏡とデカのっぽ……随分なパワーワードだな。
ん? ハゲ眼鏡……? そういえば身近にいるような……。
まさか、課長のことだったりしないよね?
だったらデカのっぽってのは俺のことか!
じゃあ何だ……? コイツらは俺と課長を狙って拉致して、ここへ閉じ込めたってことか……?
九重やメイシア、それにウメコはどうなったんだ……?
しっかりしろよ、近江幸! どうしてこんなことになってるか思い出せ……!
俺はとりあえず、あやふやな記憶をたぐって、こうなってしまった原因を探り出すことにした。
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