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(17)出番の少ない課長
しおりを挟む「ありがとうございます! ありがとうございます! 食事も、ものすごーく美味しかったです! 特に肉! あの肉が美味しかったです! 神殿では堅パンと具なしのスープと葉っぱしか食べたことなくて……」
決定権を委ねられたというか、丸投げされた俺が渋々頷くと、彼女の目に涙が浮かぶ。
俺たちのキャンプ飯に、しっかり胃袋をつかまれた様子だね。
えっ……ちょっと待って。カタパンって何、カタパンって……?!
肩パンのことかい? 聖職者なのに意外と暴力的なの? って違うよね……知ってる。
聖職者と言うからには、肉類はダメなのかと思いきやそうでもないらしい。
しかし、名目上寄付で成り立っている神殿が贅沢はできないという理由で満足な食事はさせて貰えなかったそうで。
彼女はやわらかいパンの缶詰と、課長特製の干し肉が特に気に入ったらしい……と言っても、干し肉は全て彼女が平らげてしまってもうないけどな。
「そ、そんな……あの濃厚な甘みのある肉と塩コショウのバランスが絶妙な干し肉が、もう食べられないのですか?!」
と、さっきより泣きそうになっていた。何故だよ。
「まぁ、でも、事前通告なしでいきなり解雇して追放するのはちょっとひどいですよね。それ相応の罪を犯していれば仕方ないかもしれないですが……労働基準法には違反してると思います」
「そうですよね?! ひどいですよね?! そりゃあ、ひもじすぎて大神官様の部屋の冷蔵庫から、いい匂いのするチーズとか大きなソーセージとかとろけるような歯触りのフルーツとかをこっそりお恵み頂いたことはありますが……」
「……(それか)」
「……(それだな)」
「……(それですね)」
「まぁ、きっと成長期なんだろう、きっと。よければこれも食べるかね?」
何故か、孫を餌付けするおじいちゃんみたいな目をした課長が差し出したそれは──。
あっ! ちょっと待って、課長! それは──!
「わぁっ! ありがとうございます!! 頂きます!!!」
俺が夜食に食べようと思ってとっておいた、フリーズドライのプリンちゃん!!!
さっき、お湯入れて戻しておいたんだよ!!
「あっ!! 待っ……!!!」
──パクッ! ごくごくごく……。
遅かった……遅かった!!!
愛しのプリンちゃんは、一口でメイシアの口の中へ消えていった。
ちなみにその時メイシアは、待ったをかけた俺の方をチラッと見ながら、急いで口に持ってったからね!? 絶対に 故意だよね?!
ああ、俺の……俺の愛しのプリンちゃん!!!
ぐぬぬ。許すまじ、メイシア・ルクソミー!!!
「なっ……何ですかこれはっ?!! とぅるっと滑らかなのどごし! そして、クリーミィでコクがありそれでいてしつこくないほどよい甘さ……なんて、なんて素敵な飲み物!!! こんなものが世の中に存在するなんてっ!」
カムバぁぁぁぁぁぁぁっクぅぅぅぅ──! 俺のプリンちゃぁぁぁぁぁぁぁ──んっっっ!!!!
「ああ、俺のプリン……」
メイシアは喉を鳴らしながら、プリンの美味さに涙を浮かべているが、俺が浮かべているのは失意の涙だよ?!
──ぽん。
肩が叩かれて振り返ると、九重が憐れむように言った。
「先輩、ご愁傷さまです。さっさと先に食べておけばよかったのに」
そうね!
でも、俺、長子だから! 好きな物は一番後に食べる派なの!
とってある甘味を楽しみに一日頑張れる派なの!
夜食に、ひと匙ひと匙味わって食べようと思ってたのに!
そうそう。長男長女などの長子は好きな物を最後に食べ、次男次女以降の子供は最初に食べる傾向があるらしいんだよね。
長子は次子が生まれるまで競争相手がいないためであり、次子は生まれた時点で既に長子という競争相手がいるかららしいが。そんな話を、大学で誰かがしてたな。
ただ、元は課長のリュックから出てきたフリーズドライだから、本人が誰にあげたりしても責めたりはできないのが辛い……。
後、今日一番の驚きは大食漢聖女でもなく、プリンちゃんの悲劇的末路でもなく、水で膨らむティッシュだった。
何でも、新発明の商品というか、まだ発売前の商品らしい。
米粒ほどの大きさの塊が、一滴の水を含ませるとたちまち膨らんで普通のティッシュになる、という画期的な代物だ。
これは九重が持っていたもので、近々試験的に販売される予定だったらしい。空間収納のスキルを見た後だからインパクト的には弱いかもしれないけど、それでも十分な驚きだったよ。
俺と課長は何粒かわけてもらって、チャック付きのミニ袋に入れたものをポケットに仕舞った。
まったく、恐ろしい世の中だ。質量保存の法則って何だっけ? って聞きたくなるような商品だよな。
ま、詳しい製造方法は企業秘密ってことで教えてくれなかったけど。
──────────
*米粒ティッシュ……お尻は何で拭くの問題を解決する救世主。
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