12 / 68
(12)モフモフの名付けをする課長
しおりを挟む「近江くん、一体何をしておったんだね?」
フェンリルと一緒に戻った俺は、呆れたような顔の課長に迎えられております。
「いやぁ……何か懐かれちゃいまして……?」
ポリポリと頭を掻きながら、こてん、と首を傾げてみた。
わかってる。うん。
わかってるよ!
可愛い女の子がやってこそのポーズだってことは!
他にいいポーズが思いつかなかったんだ。許してくれ。
「君が川からなかなか帰ってこないから心配したんだぞ」
ごもっともです……。
そりゃ心配になるよね。
俺はとりあえず、課長にこうなった経緯を簡単に説明をした。
ゴブリンに襲われたことから、ここがモンスターの出る森だろうということ。
襲われそうになって逃げた先で、このフェンリルに捕まったこと。
「ふむ……この犬は随分君に懐いているようだな」
やばっ! こいつは犬って言われると怒るんだ! 課長が危ない!! 課長の後頭部を守らなきゃ!!!
「課長、こいつは犬なんかじゃ……」
俺がそう口にしようとすると、フェンリルは突然寝っ転がった。
「はぁっ……?!」
腹を上にしてゴロンと寝転がっている。
「えぇっ……?!」
──くぅん。
「おお、よーしよし! 家のウメコに似ているな」
課長はでれっと眉尻を下げながら、フェンリルの腹を撫で回している。まるで孫娘を見つめるおじーちゃんのようだ……。
対するフェンリルの方はと言えば。
──くふぅん。
課長にお腹を撫で撫でされて幸せそうな顔をしている。
おい。
俺の時と態度が違わないか、こいつ──?
まさか、課長がテイマーのスキル持ちだとか、そういうオチじゃないだろうな?
「俺より課長に懐いてますねぇ……」
何だよ。俺の方はもう見向きもしないじゃないか!
「……」
別に悔しくないし?
さ、寂しくなんかないし?
「そうかね? ははっ! 可愛いじゃないか!」
課長が撫で撫でに戻ると、フェンリルはますます気持ちよさそうに目を細めた。
「おや。こいつは雌のようだな……」
そう言われて俺も確認してみれば、雄ならついているはずのものがない。雌雄同体じゃなきゃ雌ってことか。
「名前を決めんといかんな……」
「あっ、ちょっ……!」
俺だってフェンリルの名前とか決めてみたい!
「お前はウメコにしよう! 雌だしちょうどいい!」
──わふっ!
がーん。
いや、ウメコがダメだと言ってるわけではない。決して。
でも、ほら!
もうちょっとこう、かっこいい名前があるじゃないか!
よりによってウメコとか……おばちゃんとかおばあちゃんの名前じゃない、それ?!
せめてコウメちゃんとかにしない?!
俺の親戚のおばあさんが梅子さんだったよ!
しかし、俺の意に反してフェンリルはその名前を気に入ったようで、課長の顔をベロベロ舐めまわしている。
課長の少ない毛髪がべっちょりして地肌に貼りついてる……。
ま、本人(犬?)が気に入ったならいいか。
俺は、こう……もっと特別でカッコいい名前を付けたかったんだけどな。
え? 例えば?
そうだなぁ……例えば、シルフィードとか。銀河とか。フェンリルと言えば狼型魔獣だからだからウルフズベイン(※トリカブト)とか。ヴォイド(※虚無)とかラグナロクとか……。
「……」
あー……うん。やっぱウメコでいっか。
危うく黒歴史が口からこぼれそうになったわ。危ない危ない。ふぅ……。
ウメコだな、ウメコ!
うん。ちゃんと女の子の名前だし。
梅干しは美味いし!
「ウメコは梅干しが大好物でな……」
って、おーい、おっさん!フェンリルに何やってんの?!
「課長! 犬には梅干し与えちゃダメですってば!」
が、時すでに遅し。フェンリルは課長の手元から梅干しを奪い取って、もぐもぐしてる。酸っぱくて口がキュッてなってるのがちょっと可愛い。
「私が漬けた減塩梅干しだからそんなに心配は要らないぞ。梅を干す時にちょっとした工夫をするだけで、梅自体の旨み成分が増えて塩分を控えても充分美味くなるのだよ! これでも梅干しソムリエの資格も持っているからな!」
そう言われてホッと胸を撫で下ろした。
そう。シアン系の中毒を起こす生の梅とは違い、梅干し自体には毒性があるわけじゃないんだけど、塩分が大量に含まれていることがあるので、身体の小さな犬の場合は特に注意が必要だ。
つか、梅干しソムリエって何?!
そして、ウメコはその梅干しを気に入ったようで、課長にもっともっと! と催促するように鼻先を擦り付けている。
「はははっ! 気に入ってくれたかね。減塩とはいえ何事も食べ過ぎはよくないからな。後一つだけだぞ?」
まぁ、よく考えてみたらウメコは身体も(俺より)でかいから、梅干しを樽ごとでも食べない限りは血中の塩分濃度が急激に上がることはないだろう。
それにしても、課長が漬けた梅干し……美味そうだ。
俺も、次のご飯の時に一粒お願いしてみようかな。
10
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる