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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
番外編 侍女と護衛(マリー視点④)
しおりを挟む「侍女殿、ちょっと話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
一世一代の告白から数日後。
お嬢様について王城へ足を運んだ時のことでございました。
私に声をかけたのは、いつも王子の護衛をしている体格のいい兵士でした。
「はい、何でございましょうか?」
「えっと、その……失礼なことだとは思いますが、少し確認しておきたいことがあってですね……」
彼は若干モジモジしながらも、先日の夜勤明けにお嬢様を花街で見かけたことを話しました。
「殿下に報告する前に事実関係を確認しておこうと思いまして……」
護衛さんは私の目を真っ直ぐ見ながら言いました。
私の言に関わらず、嘘か真実かを確実に見極めようとする目です。
「はぁ……」
この分だと下手な誤魔化しはきかないでしょうね。
さすがに王子殿下の護衛と言うべきでしょうか。
「確かにお嬢様は花街へお出かけになられました」
「やはり……では、あの時ヴィクトールと会ってたのはご令嬢で間違いないのですね……」
彼のその呟きにビクッとします。
ここで、何故彼の名前が出てくるのでしょうか?
ヴィクトールというのは、ヴィヴィさんの本名のはずです。
ああ……なるほど。
彼の質問の意図がわかりました。
お嬢様が花街に行かれた話は既に詳しく聞き出し済みです。
うっかり朝帰りしてしまい、カシペラの店長であるヴィヴィさんに送って貰ったことも。
近衛として王子殿下の護衛についているということは、彼も何年か前までは騎士団に所属していたのでしょうから、ヴィヴィさんとは顔見知りでも不思議はありません。
「何か勘違いされているようなので、申し上げておきますが、お嬢様はたまたま花街の店の近くで体調を害されて倒れたところを、お店の方に介抱して頂いたと聞いております。あなたが目撃されたお店の方とは何も関係ないかと」
お嬢様とヴィヴィさんは、そういう建前で旦那様と奥様を説得したそうなので、まるっきりの嘘でもありませんね。
こういった誤解めいたものを放っておいたら、後で大変なことになるのは身に染みてわかっておりますので、きちんと否定することが大切です。
特に色恋関係は。
すると、護衛さんはハッと息を飲んで私を鋭く見つめました。
「何故、ヴィクトールが店の人間だと知っているんですか?」
「……」
迂闊でした。でも大丈夫です。
「そのヴィクトール様がお嬢様を屋敷まで送り届けてくださいましたので」
「……」
一秒。
護衛さんは私の目を穴が空くほど凝視してきましたので、私も見つめ返してやります。
「……」
「……」
二秒。
やましいことは何もないのですから臆することはありません。
「……」
「……」
三秒。
四秒……。
「……そうですか」
とうとう根負けしたらしく、彼は小さなため息をついて視線を逸らしました。
五秒ルールというものをご存知でしょうか?
五秒以上見つめ合うのは、恋に落ちたの男女であるというアレです。
ですから、その気のない殿方と見つめ合う時間は多くとも五秒以内にすることをオススメします。
「わかって頂けたようで何よりです。ヴィクトール様とはお知り合いなのですか?」
「え、ええ。騎士団時代の後輩でして……」
「なるほど。でしたら彼の方に直接お聞きになればよろしかったのに」
「あ。ああ……確かにそうかもしれませんね。思い当たりませんでした……」
そう言って彼はクスクスと笑いました。
おや。これはギャップ萌えというやつかもしれませんね。
いかつい身体でするその可愛らしい仕草は、何だか少しヴィヴィさんを思い起こさせました。
だからかもしれません。
何だか少し、彼に会いたくなりました。
でも、例の賭けが終わるまでは会わない約束なのです。
後少し──決闘の日はもう明後日に迫っておりました。
──────────
ローガンは、脳内はアレだけど外面は普通の護衛騎士。
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