できれば王子を泣かせたい!

真辺わ人

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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!

(17)初めての朝帰り

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 結局朝帰りした私は、お父様にもお母様にも別個でこってり絞られてしまった。
 多分ヴィヴィさんがついてきてくれなかったら、しばらく謹慎させられていた思うわ。

 ヴィヴィさんは、お父様の顔を見るなり「お久しぶりです」とごくごく紳士的な挨拶をしていた。
 お店にいた時はスパンコールでできたベストとか着ていてキラキラしてたのだけれど。
 普通の貴族服(それもちょっといいやつ)に着替えた今の彼は、どこからどう見ても体格のいいだけの一般的な貴族男性だわ。お店でを作っていた人と同一人物とは信じられない。
 道理で一旦お店での服を着替えに戻るはずよね。きっとこれは、商売用の顔なのね。女性の社会進出にも否定的な世界ですもの。彼らにはもっと当たりが厳しいでしょうね。

 ヴィヴィさんが元貴族だっていうのは聞いていたけれど、お父様と顔見知りだったのにはもっと驚いたわ。
 それに、ヴィヴィさんはカシペラだけではなく、他にもいくつか貴族相手の娼館や都内のレストランなどを経営してる、実業家でもあるそうだ。
 一部の娼館なんかは、貴族の房事指南の優良指定店になるほど信頼のあるお店らしい──あ、こっちは後から知ったことなんだけど。

「ご連絡もできずに申し訳ございません。実はおたくのご令嬢が店の前で気分を悪くされて倒れていたので、店に運びこんで休んで頂いておりました。先ほどようやく正気を取り戻されましたのでお送りしました」

 ヴィヴィさんが口にしたのはさらっと流れるような嘘。
 顔色ひとつ変えずに。
 これも、商売の世界では必要な才能なのかもしれないわね。

 こーんな、高校生みたいな言い訳が通るわけがないんじゃ……とか思っていたけど、ヴィヴィさんの完璧な貴族スマイルと実業家という肩書きのおかげで鉄壁のアリバイになった模様。お父様とお母様に嘘をついたことに少しだけ胸が痛む。
 そして、どんなに調子悪くても屋敷には一報入れなさいって怒られただけで済んだわ。それは心配をかけたんだもの当然ね。




 そして、休み明けに出仕してきたマリーが一言。

「なんで私も連れてってくれなかったんですか?! カシペラ、私だって行ってみたかったのに! お嬢様だけずるいです! ずるい!」

 マリーさん、めっちゃでした。

 いや、連れて行こうとは思ってたのよ? 言い訳になるけど、あなたは昨日までお休みだったんだから仕方ないじゃない。
 っていうか、あなたの怒りポイントはそこなの? 
 心配で怒ってるわけじゃないのね。肩の力が抜けるわ。
 だから、次はマリーも一緒に連れていくし奢るって言ったら途端にご機嫌になってたわ。
 我が侍女ながら現金な奴め。

 ヴィヴィさんにも迷惑かけちゃったわね。嘘をつかせてしまったもの。
 でも、興味深い話を色々聞かせてもらったから一晩中女子トークしたことは後悔してない。



 ジェラルドの恋を応援するために私ができることは、まず、味方になってあげること。

「同性との恋愛っていうのはね、まず理解者が居ないのよ」

 ヴィヴィさんものすごくが寂しそうに呟いていた。
 ジェラルドにあんな顔をさせたくはないわね。
 できればヒィヒィ言わせて泣き顔が見た──いいえ!

 嬉し泣きをさせると決めたじゃない!(今決めた)

 ヴィヴィさんのご実家は貴族らしい。貴族は醜聞を何より嫌うから、カミングアウトなんて以ての外だと思うわ。
 彼女は長男だったから、後継者として幼い頃から剣や経営学を厳しく仕込まれたそうだ。
 けれど、彼女が好きになるのはいつも同性。普通の暮らしができない自分は、後継者としては欠陥品。そう思ってご実家のことは弟さんに任せて騎士団入りを決めたのだそう。
 騎士団に入団して、改めてその想いは勘違いなんかじゃないと嫌でも自覚したそうだ。
 そこで、本当に好きな人ができたけれど、その人には妻も子供もいて想いを告げることもできず、結局は騎士団も飛び出して店を始めたそうだ。

 その話を聞いて、私はある可能性に気づいてしまった。
 ジェラルドの性格が歪んだのも、もしかしたらそこに原因があるのかもしれないわ。
 周りに理解の得られない辛い恋──そして彼は、女性嫌いになっ……いや、ヒロインちゃんとは仲良さげにしてた気がするから、女性嫌いにはなってないみたいね。こほん。
 同性同士の恋なんて、王族には許されない道だと思う。一番の理由は子供ができないからだ。当然だけど同性同士では子供ができないから、王族の血を繋いでいくことができなくなってしまう。
 普通の貴族ならば家名の存続が第一にある。だから、嫡子がいない場合は養子をとったりすることもあるそうだ。
 けれど血統が何より重要な王族ではそれもできない。王位の正統性に関わるからね。
 しかも、ジェラルドには兄弟がいないから王位継承権を放棄するわけにもいかない。
 原因が原因なだけに誰にも相談できず。そうしているうちにあんなに性格が歪んでしまって、モラハラ王子に育ってしまったのかもしれない。

 ジェラルド、何てかわいそうなの!

 よし、これからお姉さん(精神年齢的)が一肌脱ぐわよ!

「これまで辛かったわね、ジェラルド。でも! これからは私が味方になってあげるから! どーんと大船に乗ったつもりでいなさい! おほほほほっ!」




 マリーからの視線が若干ヒヤリとする中、私は自室で高笑いをした。



──────────



「おおお、お前が俺に差し入れ……?」
「はいっ!」
「こ、これは……?」
生徒会室に来たジェラルドを捕まえて、私は小さな包みを手渡した。
「わたくしからの応援の品ですわ!」
「応援……?」
「ええ。殿下、よくお聞きになって。例えあなたが世界中を敵に回したとしても! わたくしだけはあなたの味方ですわ!」

 ジェラルドは眉をしかめると、その場で小包の包装紙をビリビリと破いた。また怪しいお土産じゃないかって疑ってるわね!
 失礼ね。もうイモリの黒焼きとか渡す年齢じゃないわよ!私は大人になったの!

「腕輪……?」

 包の中から出てきたのは、小さな青い石がついた腕輪だった。

 これは私がわざわざ隣国の神殿から取り寄せたもの。
 その神殿では恋愛成就の祈祷があるようで。祈祷を施した腕輪ブレスレット御守りアミュレットなんかを売って──じゃなくて、寄付すると譲ってもらえる。
 貴族にもちょっぴり裕福な庶民にも大人気だそうよ。
 隣国とはいえ気軽に行き来できる距離じゃなくて。
 前世だったらネットで購入してたところだけど、この世界にはそんな便利なものないもの。
 そこは公爵家の力とコネで何とか手に入れてみせたわ!
 半年先まで予約がびっちりだったところへ横入りしたのがバレたら、殺されるかもしんないけど……ガクブル。

 しかし、これぞ推し課金!

 悪役令嬢はこれからツンデレ王子に貢ぐわよ。

「そうです! その腕輪は今人気でなかなか手に入らないんですよ! 霊験あらたかな恋愛成就のお守りです!」
「は? 恋愛成就?」
「だからっ! わたくし、殿下の恋を応援してるのですわ」
「は?」

 さっきから「は?」が多いわね。

「殿下の、恋を、応援してるのです、わたくしは!」
「ちょ、ちょっと待て。俺の恋だって……?」
「ええ、あなたとリオ……じゃなくて」

 危ない!リオルド殿下って口に出しそうになっちゃった。
 一般生徒はほとんど来ない生徒会室だけど、どこで誰が聞いてるかわかんないから名前出しは厳禁ね。

「もしかして、まだ勘違いしてるのか?俺が好きなのはトゥルーラ嬢じゃなくて、」
「ええ、ええ!分かっておりますとも!」
「は?」

 だから「は?」が多いんだってば。

「いつかは勘違いして本当にごめんなさい。殿下の好きな人はラビアさんじゃなかったのですよね?」

 だって、ヒロインちゃんじゃなくて、リオルドのことが好きだったんだもの!

「そ、そうだ。わかったんならいい」

 ジェラルドは何だかモジモジしながら言った。

「わたくしは、全面的に殿下の味方ですわ!殿下の恋、応援してますから!」

 あ、腕輪もう一つ購入したんだったわ。こっちはリオルドに届けてこなくちゃ!
 私はお辞儀をすると、風のように(本人の体感上は)生徒会室を後にしたのだった。

「は?」

 後で一際大きな「は?」が聞こえてきたけど、それどころじゃなかった私は、引き返さずにそのままジェラルドの元から立ち去った。
 だから知らなかった。

「は? え? 本当に誤解は解けたのか? わかったってことは、俺の好きな人がアレクサンドラだとわかったってことか? は? え? え?」

 顔を茹でダコのように真っ赤にしたジェラルドが、口を抑えながらそう呟いていた事も。







──────────
物語の登場人物は、大体(作者にとって)都合のいいことしか聞こえてない説。
そしてすみません。明日は1回お休みします( •̀  •́ゞ)
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