19 / 35
第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(15)レッツ女子トーク(?)
しおりを挟む「イチ、さっそく俺たちの目の前に不審者という他ねえのが来てるんだが」
「なっ……!? 何なんですかこの人……!? なんでガスマスクつけてるんだ!?」
「イチ先輩、この人ほんとに知り合いじゃないんですよね? 雰囲気的に私たちが捕まえなきゃいけない対象に見えるんですけど……」
「これが不審者なのか……? いや、この青肌は『デーモン』のヒロインにしか見えないのだが……」
こいつが件の不審者なんだろうか? いやそれにしちゃ堂々すぎる。
タケナカ先輩が「なんだこいつ」ととても嫌そうだが、もしかしたらファッションセンスが特殊過ぎる人かもしれない。
相手はこちらと適切な距離を置いてぴたっと止まると。
『フウ……♡ フウ……♡』
青肌銀髪なデカいお姉さんは(息苦しそうな)熱っぽい息遣いのまま、がばっとコートの前を開いてきた。
俺たちに提示されたものは――ワーオ、きわどい水着だ。
職務上仔細は省くが、世の中ぎりぎりを行く布面積がどうにか彼女を変態一歩手前まで押しとどめていた。
ガスマスクで顔を隠した誰かさんは水着相応のぎりぎりを楽しむように、ヒロインらしい豊かさをこれでもかと見せてるのだが。
「……たった今クラングルの行く末が心配になってきたぞ。こいつ、まさかヒロインじゃねえよな……?」
「なっ、えっ……!? でかっ――じゃなくて、なっなんですかこの人露出狂じゃないですか!?」
「う、うわあ……痴女……!? 絵に描いたような変態ですよこれ!?」
タケナカチームは頭が痛そうにする坊主頭から恥じらう地味顔、ドン引き地味眼鏡とやり返し方は様々で。
「おい!? なっなんだ貴様そのいかがわしい格好は!? まさかヒロインか!? 何を馬鹿な真似をしているんだ……!?」
「ま、マイクロビキニ……! MGOのイロモノ装備、ちゃんとあったんだ……!?」
「ぎゃー!? ほんとに変態さんスポーンしてるじゃないですか!? しかもあえてこっちくるとかどういう魂胆してるんですかこの人!?」
「…………うわあ」
ミセルコルディアもお返しは様々だ。
エルが恥じらいフランが関心、セアリが戸惑いミコがガチ引きである。
「この状況であえて我々の方に向かって来る図太さは関心するが、いや、確かに私はこれから先そのような手合いが来るとは言ったがな……?」
軍曹も得意げに突き出るR17.99ほどの有様に、呆れとまごつきが混ざってる。
阿鼻叫喚の手前まで来てるが、ご本人は夜の寒さに負けずこの面々の反応に満足してる……ように見える。
次第にタケナカと名のつくあたりが「とりあえず通報するか」と総意に持ち出そうとしたものの。
「……あの、寒くない? 大丈夫?」
「ん……風邪ひいちゃうよ?」
俺からすればだからなんだって話だ。それより寒そうな青肌の方が気になる。
わん娘と一緒に開放的な姿を気にかければ、ガスマスク顔は少しだけ身を検めて。
『……もごもご』
潰れた声でマイクロな水着姿を突き出してきた――何言ってるかわかんねえ。
でもなんだか「私は大丈夫」みたいに振舞ってると感覚ステータスが訴えてる、意思疎通はできるらしい。
「そうか、でもあんまり身を張るのは良くないと思うぞ」
『もごもご』
「いやなに自然体でそいつと接触してんだお前!? ちょうど不審者だぞ!?」
「なんで普通に会話してるのいちクン!? その人どう見ても変態さんだからね!?」
タケナカ先輩とミコの制止を振り切って接すれば、向こうは冷めた豊満ボディに迷いをもじもじ浮かべてる。
たぶん外気温に負けたんだろう、コートをそっと閉じて温かそうになった。
この人は本当に不審者なんだろうか? 素性はともかく、こう律儀に応じるんだから違うんじゃないか?
「すみませんお姉さん、一応お尋ねしますけど最近巷を騒がせてる変質者でしょうか?」
なので一応本人確認することにした。
返事は『もごもご』だ、首を横に振りながらだから違うのかもしれない。
「怪しいものじゃないってさ、良かったな」
『もごもご』
「よくあるか!? どういう確かめ方してんだお前は!? そいつと仲良くしようとするんじゃないよ!?」
「この人もこの人でどうしていちクンに律儀に応じてるの!? しかもなんか親し気にしてるよね!?」
二人分の言及はともかく、青いお姉さんはもごもごし真横に詰めてきた。
どうやらストレンジャーを介して自らの安全性を主張しにきたらしい。
ぴったりくっついてフレンドリーだ。つまりこの人は――不審者じゃない?
「この人は不審者じゃなくてただ夜風に当たりたかった人じゃないかなって思う、よって人違いだ」
『もごもご』
肩を組み返すとガスマスクのお姉さんもそうだそうだと頷いてる、こいつはただのクラングル一般市民だ。
「ほら、本人もそういってるし大丈夫だろ。つまりセーフだ」
「風の当たり方に問題があるんだよそいつは!! 変態相手に縁を結ぶな馬鹿野郎!?」
「なんでその人と意気投合してるんですかイチ先輩!? アウトですよそれ!?」
「それ全身で夜風楽しむタイプですからね!? まるで変人同士意気投合してるみたいですよ!?」
「一体何をやってるんだ貴官は……」
「待て貴様!? そのまま街に解き放とうとするんじゃない! というかそいつはそいつでどうしてそう堂々としてるんだこの人数相手に!?」
「やっぱイチ君すごいよねー……そのコミュ力、団長嫌いじゃないよ」
「関心してる場合じゃないですよフランさん……とりあえず通報した方がいいんじゃないんですかね……」
「またいちクンが変なことしてる……」
みんなあれこれ言うが、この人は特別悪意をもった存在じゃなさそうだ。
実際青肌悪魔なお姉さんはくいくいっと人の服を引いてから、ゆっくりと公園のベンチに向かって。
『もごもご……?』
腰を下ろすと太ももをぺちぺち叩いてきた、相変わらず何言ってるか謎だが。
どういうことだろう。しかし目に映るのは、薄暗い公園で一息つこうという穏やかなお誘いだ。
「……"どうぞ"ってことか?」
ついていってから念入りに尋ねてみた。
ベンチに座った青い肌のいいお姉さんはというと、親し気な座り方で誘ってる。
数秒いろいろ考えた末、俺の導き出した答えはこうだ。
「じゃあお邪魔します……」
お言葉に甘えてコート越しの膝枕に頭を預けることにした。
公園のベンチに同じく腰をかけて、布地に隠れた青肌にそっと身体を倒すと。
『もごもご』
もっと無遠慮になれとばかりに身体を手繰り寄せられた。
太ももの柔らかさに首の重さが受け止められると、宿の枕の百倍はいい心地よさが夜空に目を向けさせる。
青肌の人もマスク越しに夜空を見上げ、何かつぶやいてる――でも何言ってるか分かんねえ。
*A FEW MOMENTS LATER……*
それから、俺たちは少しの間一緒に空を見上げた。
月の光に照らされた雲が『テセウス』の世を青く白く着飾っていた。
彼女がもごつきながら変わった形の雲を指してくると、何か感想を求められたと直感で分かった。
「ドッグマンみたいだ」というと、青い肌のいい女はまた違う雲を指して何かつぶやく、意味は分からない。
『……もごもご』
しばらくしないうち、大人しくはっきりと何かを告げられた。
ちょいちょいと太ももの上で頭を小突かれれば、彼女はガスマスクを通して溜息をついていた。
名残惜しそうなものだ。そっと起き上がれば、顔の見えないコート姿はぎゅっと手を掴んできて。
『――もごもご』
何かを押し付けてくる。グローブ越しに感じるのはアーツアーカイブの硬度だ。
そして横顔にこつっとマスクの感触が当たる――別れのキスだった。
「お前、もう行っちゃうのか……?」
ほんの少しの間楽しい一時をくれた恩人に、俺はつい気にかけてしまう。
けれども彼女はもうコートを整えていた。
裸足で静かに石畳を踏みしめると、振り返ることなく歩き始め。
『……もごごご、もごご』
そう背中に残して去っていく――やっぱり何言ってるか分かんねえ。
こうして青い肌のいい女は夜のクラングルに溶け込んでいってしまった。
引き留める気にはならなかった。だってあの人は満たされたような背中を向けて去っていったのだから。
「また会おうな、友達。風邪ひくんじゃないぞ?」
寂しいさ……いや、俺は泣いてなんていない。
クソッ、夜の風が目に染みるだけだ! さよなら俺の友、また会えるよな?
「……みんな、あいつは帰ったよ。もう大丈夫だ」
夜空を共にした仲が去っていくと、十分に距離を置いてた仲間の元へ戻った。
その手にはアーツアーカイブを手にして。『ガントレット・ブロック』という【受け流し】のアーツだ。
大事にするよ、友よ。君が教えてくれた世界の楽しさは忘れはしない。
「俺たちは一体何を見せられてんだよ」
「なんで仲良くなって帰ってくるんですかイチ先輩……」
「しれっとアーツアーカイブ貰って泣きながら帰ってこないでください……」
「……貴官は正気なのか? なんなのだ、これは……」
「あいつもあいつでどうして一緒に夜空を眺めてたんだ!? しかも街の方へ戻ったぞ、これでいいのか貴様ら!?」
「団長、今のキミたちの姿はすっかり撮影しておいたからね……いい話だなー」
「なんでこの人不審者に対してナチュラルに膝枕されてるんですか!? しかも泣いてるし!?」
「い、いちクン……? 泣いてるの……? ていうか、さっきの人なんだったのほんとに……!?」
みんな通報せずに待ってくれたらしい、ありがとう。
彼女との出会いをわが心に永遠に、引き続き夜間警備の依頼を続けるとしよう。
「泣かないで、ご主人」
「泣いてない、ただ寒さが目にこたえただけだ。いいか、俺たちの目の前に不審者なんていなかった――いいな?」
「……ホンダ、ハナコ、こいつは確かに強いがあんな風にはなるなよ。畜生、どうしてお前といるといつも変なもん見せられるんだ……」
「タケナカさん、この人いつもこうだから慣れてください……」
わん娘が犬の手でぽふっと励ましてくれたが、大丈夫だと頭を撫でてやった。
あれは不審者じゃない、ただの友人さ。
彼女が歩いたように北へ向かった――【ガントレット・ブロック】を身に刻んで。
◇
「――夜空がきれいだな」
「おい、いつまでさっきの変なやつに引きずられてるんだ貴様。私たちは市からの依頼を受けてるんだからな?」
「変な人だったけどノリはよかったよね……さっきの人、感動的な出会いしてて団長笑っちゃったよ」
「何笑ってるんですかフランさん……まあ匂いは覚えたのでその気になればいつでも捕まえられますよ」
「あの人、絶対ヒロインだよね……青肌に角と尻尾って、デーモンの女の子だと思う……」
タケナカチームや軍曹と分かれて、俺たちはまた街のつくりを進んでいた。
星と雲に気を取られてる場合じゃなかった。みんなの注意に視線が水平に戻ると、また違う景色だ。
「……ここって冒険者ギルドの横にある通りだね。昼間と全然雰囲気が違う」
先行する顔も声もダウナーな愛犬も良く知ってる場所だった。
クラングルの市場から距離を置いて、冒険者ギルド近くを過ぎる通りだ。
「中央公園とはえらい違いだな、いい意味で静かだ。不審者が出るって前提じゃなかったらの話だけどな」
「さっき逃しただろうが」とエルの指摘はさておき、ここは【賢人通り】だ。
都市の象徴とばかりに乱れ立つ時計塔の下で、名前通りに妙な店構えが並んでる。
錬金術に使う道具を取り扱うお店だの。
みんなご存じ【フランメリア・サバイバルガイド】も扱う本屋だの。
『歯車仕掛けの都市直送!』と語る、スチームパンクさながらの品々を売る店舗だの――必要な人は喜ぶ場所である。
「……お店、全部閉じちゃってるけど……それでもやっぱり他の通りとは雰囲気が違うよね、お洒落っていうか、意識が高いっていうか」
ミコは大人し気な通りをゆっくり見渡してる。
俺もニクの散歩がてら来ることもあったけど、夜のここは雰囲気が全然違う。
オレンジの街灯が一日の終わりを静かに告げてるようだ、不審者抜きなら心が休まる場所かもしれない。
「ここって来る人は限られてるよな。金に余裕がある人種っていうかさ……」
「ちなみにぼくのおさんぽルートのひとつ」
「私はせいぜい本を買いにくるぐらいだがな。プレイヤーの発行した書籍には何かと助けられてる」
「そういえばフランメリア・サバイバルガイドの続編がでるって聞いたよ? だいぶここも情勢が変わったから、作者の人が今ネタ仕入れてるんだって」
「二冊目いっちゃうんです、あの何でも書いちゃう黒井ウィル先生……? 流石は『怪文書から実用書まで』をモットーにしてるだけありますね」
「書店にある本って大体あの人の書いた本なんだよね……料理の本も書いちゃうぐらいなんだから、ほんとすごいと思うよ」
*ぴこん*
六人それぞれの足取りで歩いてる最中だ、PDAに着信が入った。
全員が「何かあったのか」という顔に切り替わるが、画面を見ればその通りで。
【ヤグチとアオが南の方で妙なやつを捕まえたらしい、また白き民を崇拝するなんとやらだ。今俺たちは北東側にいるが、屋根を飛び回る変なやつを見かけたから気を付けろ】
タケナカ先輩からだ。面構えの違う同僚がお手柄らしい。
「タケナカからか?」
「ああ、ヤグチとアオが白き民万歳やってるやつを捕まえたってさ。それから屋根飛び回ってる不審者見かけたら注意しろってさ」
「……クラングルはどうなってるんだ、変人が増えすぎじゃないのか」
「商業ギルドのオークのおっちゃんも説明の際に「変人ばっかで街の印象悪くなる」って嘆いてたしな」
「さっきの所業は忘れんからな」
「俺はともかくあの人は変人扱いしないでくれ」
「貴様はいいのか……」
エルの蜥蜴っぽい瞳にも見せてやった、この街の行く末が心配そうだ。
「白き民を崇めてるって変な話だよねー……何考えてるんだろ、その人たち」
「やっぱり不気味さにひかれちゃう人間は多少なりともいるんじゃないんですかね。セアリさんはごめんですよあんなの」
「……あれって周りに害をなすだけだから、何もいいところはないと思うよ」
「俺もごめんだな、カルトにはろくな思い出がない。なんかやらかしたら喜んで神の元に送ってやるよ」
「いちクン、そういえばそうだったね……」
「どういうことだミコ」
「イチ君なんかあったん? もしかしてカルトとか絡むと複雑になっちゃう話?」
「この言い方だと絶対そう言うのとなんかあった感じですよね……」
「親がカルトでクソだった、んでウェイストランドでもそう言うのと何度か付き合うはめになった。ちなみに人生で潰したカルトの数は二つだ」
「な、なにがあったんだ……イチ?」
「うわあ、すごいこといってるよこの人」
「それは大変ですね……ってなんですか、潰したって」
「え、えーと…………いろいろあったんです……うん。ほんとうに」
白き民を崇める、なんて話は俺たちも気になる話だ。
そいつらが何考えてるか知らないが、あんなろくでもないのを信じるってことは集う人間も相応だろう。
でも経験上、今後そう言うのが絡んできたら――喜んで潰す、笑顔で。
「楽園行きたがってたやつがいたから全員送ってやった。下の方だけどな」
「ん……白狼さまたち、今頃フランメリアで何してるんだろう?」
「スピロスさんと畑でもいじってるんじゃないか? そういえば農業都市ってどういうところなんだろうな」
「ミコ、こいつの言ってることは――いや、聞かない方がいいだろうか」
「なんかすごいことしたのは分かるよ団長……」
「笑顔で言ってますよこの人……」
「ノーコメントです……」
そばの面々に『教団員総楽園送り』を思い返しながらまた進んだ。
ああいう手合いがまた出たら105㎜砲弾に時限信管取り付けてご馳走してやる。
しかしカルトと縁がある人生はまだ続くみたいだ。いいだろう、ストレンジャーがまとめて楽園送りだ。
【――夜風を往き、街を守らんと跋扈する冒険者よ聞くが良い!】
そんな時だ、この声は――不審者!?
いきなりの頭上からの呼びかけに、誰もが「出た」って顔になったはずだ。
まさかと思って顔を上げれば、つい通り過ぎた書店の屋根が視線に当たり。
【そのように勤めようとも私は止められん! ところでスライムの交尾を知っているか!? やつらはなんかぐちょぐちょとしているが何もその通りに営んでいるわけではない!】
……なんかいた。
夜の青白さを背に、シルクハットとタキシードを着た男が怪奇極まりない発言を広めてる。
その言葉には俺の知らない知識が沢山籠ってた――なんだスライムの交尾って。
「……おい!! なんだあの珍妙な変態は!? あれがそうなのかっ!?」
「ごめん、まさかこういう類の変態が来るとは団長想像してなかった」
「な、なんですかあれ……さっきの露出魔よりやばいのきてませんか?」
「いきなり何言ってるのあの人!?」
【奴らはいわば全身が性器だ! もうその身でくんずほぐれつすっごいが、だからこそ人間のそれよりも長く続けることができる! 萎えることなく何日もかけて愛を紡げるわけだな!】
ミセリコルディアも引いて当然だ、エルに至ってはもう武器に手をかけてる。
「なあ、あれって不審者……だよな……?」
「ん、スライムの交尾……?」
「いや見れば分かるだろう!? なんだその煮え切らない疑問形は!?」
「さっきの人はとにかくこれはもう立派な罪だと思うよ……」
「とっ捕まえましょうか、あれ」
「どう見ても変態さんだよね……ど、どうするみんな……?」
散弾銃のフォアエンドに指がゆくも、いろいろ考えて続きを見守ることにした。
こうして見上げてる先でああやって得意げに語ってるんだ、もしかしたらただの雑学振りまくのが好きなおじさんかもしれない。
【一方で心に不透明さを持ったまま無駄に交尾する人間はどうだ? やることやったらすっきりするし、その身を置く環境によっては愛を向ける相手を裏切って浮気に走るわ寝取って他人の脳を破壊するわとこの世の業をフルコンボしたような罪深さだ! どうだ、いかに人の交尾が罪深いことか! これが君たちの知りたがっていた人類史の真実だ!】
必要としてる情報かはともかく、タキシードの人は熱が入り始めてる。
もしかして、だが。別にあれはほっといても大丈夫な類じゃないんだろうか?
「――そうだったのか!?」
ということでとりあえず乗ってみた。
するとシルクハットの下でそいつの顔がにやっと得意げになった気がした、意思疎通はできるからヨシ!
「いや、なに相槌を打ってる貴様!?」
「関心してる場合じゃないよねいちクン!?」
「だってただ俺たちに語ってるだけだし、実害ないかなって……適当に聞けば満足して帰るんじゃね?」
「語ってる内容に問題があるんだよねー……!?」
「もう実害ありますからね!? なんでセアリさんたちあんな変な雑学叩き込まれてるんですかこうして!?」
ミセリコルディアの皆さまは実に難色を示してるが、屋根上の誰かは手ぶり身振りも絶好調だ。
【それに比べたらスライムの交尾って透明感あるから穏やかだ! 奴らは他人が見ても分かりやすいようにメスにオスが背中から圧し掛かって時間をかけて行うぞ! 人間もそんな風に心をクリアにしてたっぷり愛を紡げばいいのにね!】
「――知らなかった! すごいな!」
【ふははははははそうか、よくぞ耳に聞き入れたな少年! ちなみにごくまれにオスとオスで戯れに交尾することもあるそうだぞ! そこは我々人類とそっくりなのだな! 親しみ湧くよね!】
「えっマジ? オス同士でいけるのかあいつら!? すげえ!」
「オス同士でいけるの……?」
「ちょっと待たんか貴様ら!? 急に真顔でどこに食いついてる!?」
「ねえセアリ、どうして団長たちは知りたくもない知識をこうも捻じり込まれてるんだろうね」
「思うんですけどあのですね、いち君がこういうのを引き寄せてる気がするんですけど……」
「いちクン!? 落ち着いて!? あの人調子に乗っちゃってるから!?」
タキシードとシルクハットの知識豊富なやつは一つ俺を賢くしてくれた――スライムの交尾ってすげー!
さんざん喋ったその人は、夜の闇の中でやっと満足気に口を止めたものの。
『――よく足止めしてくれましたねミセリコルディアの皆さま! 大人しく捕まりなさい! あなたを【猥褻知識強制罪】で逮捕します!』
なんてこった、羽をばさっと広げた鎧姿が――衛兵支援組織のやつだ。
夜空から飛んで現れた【イーリアス】の奴が罪状と共に確保しにきたが。
【来たかイーリアスの! さあ、鬼ごっこの開始だ!】
知識を授けてくれた誰かは、ものすごい勢いで屋根から屋根へと飛んで逃げた。
しばらくして裂ぱくの気合を込めた女の子の声が聞こえた点からして、彼は捕まってしまったんだろう。
「ん……ご主人、タキシードの人捕まったみたい」
「捕まったか……惜しい人をなくしたな」
「貴様のせいで私たちの功績みたいになってるぞ……できれば無関係でありたいんだが、あんな変態とは」
「いや捕まっちゃうんかーい……ほんとに変な人増えてるね、クラングル」
「あの、セアリさんたち二時までこんな目合わないといけないんですか? 地獄ですか?」
「知りたくもないこと覚えちゃったよ……」
『やっと捕まったかあの変態!?』
『ミセリコルディアにイチがいるぞ! やってくれたか!』
『何だったんだあのタキシードの変態は!? 私たちにガストホグの逸物がとか言うだけ言いおって!』
全員で地に落ちたタキード姿を気にしてると、周りから人がやいやい集まってきた。
トカゲの手足尻尾がついたクラングル市の衛兵たちだ、何を聞かされたのか一様に憤慨してる。
さようなら物知りなおじさん。あんたの身を張った雑学は忘れない。
◇
10
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる