できれば王子を泣かせたい!

真辺わ人

文字の大きさ
上 下
14 / 35
第2話 やっぱり王子を泣かせたい!

(10)嫉妬でSIT!!!

しおりを挟む



 ──何故こんなことになっているのかしら?

 話があるから放課後生徒会室へ寄ってくれ、とジェラルドに呼び出されたはずなんだけれど、渋々寄ったら──ジェラルドじゃなくてリオルドがいた。

 ああ、もちろん二人きりじゃないわよ?
 何故か今は空気のようになっているけれど、この部屋には私たちの他に生徒会のメンバーがもう一人いる。

 ジェラルドが来るまでお茶でも飲んで待ってようとしたら、リオルドに自分の分もいれてくれと頼まれた。

「お砂糖は?」
「五個入れてくれる?」

 うわぁ……かなりの甘党ね。五個も入れたら激甘よ? ドロドロ紅茶になりそう……。
 ジェラルド用の紅茶にはよく砂糖と塩を入れちゃってたけれど、今は間違える必然性がない。普通に角砂糖を五個落として混ぜた。

「ねぇ……ドーラちゃんがあいつと婚約破棄しようとしているって聞いたんだけど」

 えっ。
 その話、まだジェラルドとお父様にしかしてないんだけど。
 たった二回しか会ってないリオルドが何故知ってるの?

 私が驚きで目を見張ると、リオルドはおかしそうに笑った。

「あー……あの噂、やっぱり本当だったんだね」

 その瞬間、鎌をかけられたのだと悟った。

 ──こんな手に引っかかって、感情を顔に出してしまうなんて……私もまだまだ修行が足りないわね。

 もしこれが私が敬愛する王妃様なら、相手に動揺を悟らせることは決してないのでしょうね。
 王妃様は、国王陛下の『四月のイタズラエイプリルトリック』で「ジェラルドが……あの子が事故に合って大怪我をしたらしい!」と聞かされた時も、眉ひとつ動かさなかったらしい。
 まさに鋼の女よね。かっこいいわ。
 それも人の親としてどうかと口さがなく言う人間もチラホラいるけれど、国の政を担う為政者の一人としては正しい姿だと思うのよね。

 ま、それが嘘だとわかると、国王陛下は口には出せない世にも恐ろしい報復を受けたそうだけど……ガクブル。ちなみに国王陛下は一週間ほど寝込んだそうだ。
 私が病み上がりにお会いした時は、以前ふくよかだった面立ちが若干シュッとなられてたわ。

 いいかしら?
 この話の一番教訓は、何があっても王妃様だけは敵に回しちゃいけないってことよ。

 国王陛下も国王陛下よね。王妃様がそういう性格だってわかっているでしょうに。それでも立ち向かっていくその勇気……じゃなくてただの無謀っぷり。どこかの誰かさんそっくりだわ、ホント。

「こんなにも素晴らしい婚約者を手放そうとするなんて、あいつ馬鹿だな」

 リオルドがゲロ甘紅茶をすすりながら言った。

「……」

 馬鹿なのには同意するけど、他人に言われると何だか腹が立つわね。
 最近じゃそこまで馬鹿じゃないのよ? 馬鹿だけど。
 相変わらずブスとしか呼ばないし。

 でも、モヤモヤするのはなぜなの?
 モヤモヤと連動するかのように、眉がピクピクしちゃう。

 そしてそんな私に向かって、隣国の王子様は更に特大の爆弾を落としてきた。

「ねぇ、ドーラちゃん。ジェラルドなんかやめて僕にしとかない?」
「へぁ?」

 想定外すぎて変な声が漏れちゃった。今度こそ修行不足を痛感したわ。
 告白もどき──のように見えて、実は罠かなにかかしら?

「こう見えて意外と一途だし。王位継承権は第三位だから王妃にはしてあげられないけど一応王子だし。苦労はさせない。君を悲しませることも絶対にしないと誓うよ」

 いえ、告白だったわ。

 あんまりにも真面目な顔をして言うから、うっかり本気にしてしまいそうになる。恐るべきイケメンの目力よ。危ない危ない。
 悪役令嬢がヒーローから口説かれることなんかあるはずがない。

「お戯れはやめてくださいまし」
「本気なんだけどな」

 切なげに揺れたのは、ジェラルドより少し濃い青の瞳。私は彼から目を逸らした。

 本気なのかしら……いいえ。本気であるはずがないし、本気にしたらダメよ。

 だって、彼を好きになったところで。

 私はまた乙女ゲームの影に怯えなければならないんでしょう? やっぱりそんなのゴメンだわ。

 そうこうしていると、廊下からドカドカドカッ! という激しい足音が響いてきた。

「ああ、残念。時間切れみたいだ。あは! あいつめちゃくちゃ怒ってんな。またね、ドーラちゃん」
「ごきげんよう、リオルド殿下」

 リオルドはすっと私の手をとると、軽く口付けた。

「……っ!」
「また会えるようにおまじない。さっき言ったこと、僕は本気だからね、考えておいて! じゃあ!」

 ──ガタッ!

 リオルドはさっと身を翻して──何故か窓から外へ出ていった……何故、窓?
 

 ──バッターンッ!


 その後すぐに、生徒会室のドアが、壊れるほどの勢いで開いた。

「おい、ブス!」

 あら。クソバカ王子の登場だわ。
 額に汗なんか垂らしちゃって。無駄に色気が出てきたわね、ジェラルドってば。

 いつも通りのブス呼ばわりで、さっきまでの甘かった雰囲気が霧散して日常に引き戻される。
 彼のその言葉を聞いて、ちょっとだけホッとしたのは誰にも内緒だ。

「リオルドと何をしゃべってたんだ?!」

 窓から出ていったリオルド。
 すれ違ってはいないはずなのに、彼が今までここにいたことを何故知っているのかしら?

 不思議に思って首を傾げると、ジェラルドは私の肩をつかんでグッと引き寄せた。

 綺麗な顔が近づいて……べ、別にドキドキなんかしてないんだから!

 変な汗が出てきたけど、こ、これは無駄に顔がいいから緊張してるだけよ?

「ただの世間話ですわよ」
「お前は俺の婚約者だろっ?! 何で他の男とくっちゃべってるんだ?!」
「あーら? もしかしてヤキモチかしら?」
「なっ! ヤキモチなんか妬いてない! これは命令だ。金輪際あいつと口をきくな!」

 ──やれやれ。話にならないわ。

 自分はヒロインちゃんと仲良くしてるくせに、ただの婚約者でしかない私を束縛してくるなんて、本当にいい性格してるわね。

 私はため息をつきながら席を立った。

「ま、まだ話は終わってないぞ!座れ!」
「……」

 私が冷ややかな視線で一瞥すると、ジェラルドは肩をビクッと揺らした。

「おい、ブス! リオルドに愛称で呼ばれたくらいでいい気になってるんじゃないだろうな? 俺との付き合いの方が長いはずなのに! ……あいつなんかより俺の方が先に愛称で……クソッ!」
「別にいい気になんかなってませんわ。愛称だって、リオルド殿下が勝手に呼んでいるだけですもの」
「そ、それならば俺も……いや、やっぱりいい。まさか、お前もやっぱりリオルドのことが好きなのか?」

 その瞬間、少しだけジェラルドの青い瞳が揺らめいて──。

「……っ!」

 ──あ。泣く?

 予想外の反応に思わず息を呑んだけれど、ジェラルドはぷいっと私から目を逸らしてしまった。

「お、お前の婚約者は俺だ! いくらリオルドが好きでも、お前たちは絶っっっ対に結ばれないぞ。残念だったなっ! ふんっ!!!」

 彼はわずかに震える声で吐き捨てるようにそう言うと、そのまま立ち去っていった。

 ポツンと残されたのは私一人……なんだけれども。

 ジェラルドはさっき、何て言ったのかしら?

やっぱりリオルドのことが好きなのか?』


 まさか。


 まさか。


 まーさーか。



 いえ、そんなはずは……でもそうとしか。




 まさか、ジェラルドがリオルドのことを好きだったなんて──!!!




しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

処理中です...