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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(9)マリーさんは内職に夢中らしい
しおりを挟む「今、我々がいるのは亜空間というものだ。実体がない、オーラやスピリチュアルといった存在はわかるか?」
「はい、なんとなく。見える人もいれば見えない人もいるし、触れることができない魂のようなものですよね」
不思議な空間は、少々居心地が悪くておしりをもぞもぞさせた。そういえば、5感がないのか、何も感じないし肌に触れる感覚もない。
「概ねその通り。コーヒーもそうだし、ソファもだ。座っている形は取っているが、実際は座っていない」
「……力要らずの疲れない空気椅子というわけですか」
「万物は、何かしらのエネルギーを持っている。だから、無機物であってもこのように実体化しているかのように見えるんだ。わかったと思うが、食べることも飲むこともできないがな」
「……どうして出したんですか? タルト食べたかったです。こんなの、生殺しっていうんですよ」
「まあ、雰囲気だ。細かなことは気にするな。そんなことよりも、ポンコツのこいつがすまなかった。俺も気を付けてあげていればこんなことにはならなかったんだがな。一応こいつも上位の神で、こんなトラブルは初めてなんだ」
「ポンコツとはなによー。あ、私のことは、メ・ガーミって呼んでね♪」
「は、はあ……」
青年の落ち着いた話とは違って、少女、メ・ガーミははしゃいでいる。こっちはそれどころではないというのに。
「今いるのが、亜空間。この周囲には様々な世界が広がっている。その世界の形態は千差万別なんだが、互いに干渉を一切しないんだ。各世界に共通項があるのだが、生きた人間や動物だ。本来なら、違う世界の生物がトレードしたりコンタクトを取ることなどない」
「違う世界。異世界というやつですか? 生物が一緒ってことはパラレルワールドのような感じでしょうか。でも、不可侵の世界なのに、どうして、私は今こんなことになってるんですか?」
青年の話を、ファンタジーなどでよくある多重世界ってやつかと無理やり頭を納得させようとした。こんな荒唐無稽なことを、すんなり受け入れられるかといえば、Noだけど。
「各世界での呼称は異なるけど、だいたいそんなところ。さっき言ったけど、あなたは、もともとはこっちの世界の子なの。ただ、体が弱くて長く生きられない。小さなあなたが助かる可能性があるのは、さっきまであなたがいた世界だった。そして、そっちの世界に生まれた別のあなたもまた、こっちの世界でしか生きられない病気だと言われたの。ならば、トレードして健康になったら万事オッケーじゃない? だから、私がそれぞれの夫婦の、この子を助けてという願いを叶えるためにトレードしたってわけ」
「トレード……じゃあ、私は両親の本当の子供じゃなかったってことですか?」
「なんというか、そうでもありそうでもない、みたいな。世界は違えど、彼らもあなたのご両親であることには間違いがないと思っていいわ。とにかく、あなたももうひとりのあなたも、あのままだったらとっくに命をおとしていたの。ご両親の強い願いと私のおかげで助かったの。わかる?」
「……確かに、小さな頃の病気は治りましたね。薬はまだ飲み続けていますけど」
今まで育ててくれたパパとママが、私の本当の親じゃない。そのことが心臓を一瞬で凍らせたかのように大きな衝撃になって心を襲った。
でも、メ・ガーミのおかげで、私と、もうひとりの私とやらが助かったのは事実。両親があれほどまでに過保護だった理由が分かった気がした。嬉しいようで悲しい、この複雑な気持ちの行き所がなくて、涙すらでてこなかった。
彼らは、私の今の気持ちなどおかまいなしに話を続けてくるけど、投げやりでもうどうにでも慣れと思う。
「我々は、数百年に一度、奇跡を起こすことを許されている。メ・ガーミはそれを行使したんだ。ただ、世界はそれの全てを許さなかった。元の個体であるお前たちが健康になったことをきっかけを元に戻そうと今回の転移が行われた」
へーほーふーん。感想はこれだけ。世界がどーとか、だから何って感じ。
「そう、そうなのよ。私としては、あのままお互いの両親に守られて、あなたももうひとりのあなたも幸せに暮らしてもらう予定だったの。ただ、世界の決定にまでは干渉できないから二度目の転移は、仕方がなかったの。ただ、転移場所ならコントロールできた。だから、あなたたちそれぞれのツガイのところに転移させようとしたんだけど」
へーほーふー……ん? ツガイ?
またもや聞きづてならない言葉があり、反応してしまった。
「私のツガイ? ツガイってあれですよね。結ばれる人。惹かれ合って、他に恋人や配偶者がいても、ツガイ至上主義になるやつ。じゃあ、私って実は獣人って感じですか?」
「ふふふ、獣人やツガイを知っているのなら話は早いわ。概ねそうなんだけど、あなたは人間。あっちの世界でも若干そのシステムが作動するけど、微妙だからツガイじゃない人と結婚して不幸になったりするでしょ。こっちの世界では、同年代のツガイが絶対いて必ず出会えるってわけ。だから、離婚とか浮気とかないわ。もうひとりのあなたは、きちんとツガイのところに転移して、幸せルートまっしぐらなの。ただね、あなたの場合、ちょーーーーっとした手違いで、時間と場所をミスっちゃったかなー、みたいな……。えっと、ほんとにごめんね」
もう結構。もう、何の情報も頭に入ってこない。お腹もいっぱいな気がする。でも、大事なことなのだろう。
そんな風に考えていると、またまたまた、聞き捨てならない言葉が。
「手違い? って……あの、手違いがあったのなら、元に戻してもらうってことは……」
「無理なのよ。私達も世界の一部だから、世界の意思には逆らえないわ」
「そんな! もう一人の私って人がいるのなら、その人だって、私と同じように元に戻して欲しいはず! 同じだけど、別人ですよね? 育った場所も何もかも違うんですから。お願いしますから、もう一度トレードしてください!」
私は、必死にメ・ガーミにすがった。でも、実体がないから、掴めないし、スカスカするばかり。私の必死な様子を見て、メ・ガーミは少しだけ眉を下げた。
「すまないが、そろそろ、亜空間から出なければならない。君の体は、もう薬は必要としないから、今後はこちらで暮らすように。我々の話はここまでだ。何かあれば、フクロウのミランを通してコンタクトを試みてくれ。運がよければ、また会うこともできるだろう」
「そんな、一方的な! ちょっと、待ってください!」
その声を最後に、私は亜空間から異世界のミランさんのもとに戻ったのである。
「はい、なんとなく。見える人もいれば見えない人もいるし、触れることができない魂のようなものですよね」
不思議な空間は、少々居心地が悪くておしりをもぞもぞさせた。そういえば、5感がないのか、何も感じないし肌に触れる感覚もない。
「概ねその通り。コーヒーもそうだし、ソファもだ。座っている形は取っているが、実際は座っていない」
「……力要らずの疲れない空気椅子というわけですか」
「万物は、何かしらのエネルギーを持っている。だから、無機物であってもこのように実体化しているかのように見えるんだ。わかったと思うが、食べることも飲むこともできないがな」
「……どうして出したんですか? タルト食べたかったです。こんなの、生殺しっていうんですよ」
「まあ、雰囲気だ。細かなことは気にするな。そんなことよりも、ポンコツのこいつがすまなかった。俺も気を付けてあげていればこんなことにはならなかったんだがな。一応こいつも上位の神で、こんなトラブルは初めてなんだ」
「ポンコツとはなによー。あ、私のことは、メ・ガーミって呼んでね♪」
「は、はあ……」
青年の落ち着いた話とは違って、少女、メ・ガーミははしゃいでいる。こっちはそれどころではないというのに。
「今いるのが、亜空間。この周囲には様々な世界が広がっている。その世界の形態は千差万別なんだが、互いに干渉を一切しないんだ。各世界に共通項があるのだが、生きた人間や動物だ。本来なら、違う世界の生物がトレードしたりコンタクトを取ることなどない」
「違う世界。異世界というやつですか? 生物が一緒ってことはパラレルワールドのような感じでしょうか。でも、不可侵の世界なのに、どうして、私は今こんなことになってるんですか?」
青年の話を、ファンタジーなどでよくある多重世界ってやつかと無理やり頭を納得させようとした。こんな荒唐無稽なことを、すんなり受け入れられるかといえば、Noだけど。
「各世界での呼称は異なるけど、だいたいそんなところ。さっき言ったけど、あなたは、もともとはこっちの世界の子なの。ただ、体が弱くて長く生きられない。小さなあなたが助かる可能性があるのは、さっきまであなたがいた世界だった。そして、そっちの世界に生まれた別のあなたもまた、こっちの世界でしか生きられない病気だと言われたの。ならば、トレードして健康になったら万事オッケーじゃない? だから、私がそれぞれの夫婦の、この子を助けてという願いを叶えるためにトレードしたってわけ」
「トレード……じゃあ、私は両親の本当の子供じゃなかったってことですか?」
「なんというか、そうでもありそうでもない、みたいな。世界は違えど、彼らもあなたのご両親であることには間違いがないと思っていいわ。とにかく、あなたももうひとりのあなたも、あのままだったらとっくに命をおとしていたの。ご両親の強い願いと私のおかげで助かったの。わかる?」
「……確かに、小さな頃の病気は治りましたね。薬はまだ飲み続けていますけど」
今まで育ててくれたパパとママが、私の本当の親じゃない。そのことが心臓を一瞬で凍らせたかのように大きな衝撃になって心を襲った。
でも、メ・ガーミのおかげで、私と、もうひとりの私とやらが助かったのは事実。両親があれほどまでに過保護だった理由が分かった気がした。嬉しいようで悲しい、この複雑な気持ちの行き所がなくて、涙すらでてこなかった。
彼らは、私の今の気持ちなどおかまいなしに話を続けてくるけど、投げやりでもうどうにでも慣れと思う。
「我々は、数百年に一度、奇跡を起こすことを許されている。メ・ガーミはそれを行使したんだ。ただ、世界はそれの全てを許さなかった。元の個体であるお前たちが健康になったことをきっかけを元に戻そうと今回の転移が行われた」
へーほーふーん。感想はこれだけ。世界がどーとか、だから何って感じ。
「そう、そうなのよ。私としては、あのままお互いの両親に守られて、あなたももうひとりのあなたも幸せに暮らしてもらう予定だったの。ただ、世界の決定にまでは干渉できないから二度目の転移は、仕方がなかったの。ただ、転移場所ならコントロールできた。だから、あなたたちそれぞれのツガイのところに転移させようとしたんだけど」
へーほーふー……ん? ツガイ?
またもや聞きづてならない言葉があり、反応してしまった。
「私のツガイ? ツガイってあれですよね。結ばれる人。惹かれ合って、他に恋人や配偶者がいても、ツガイ至上主義になるやつ。じゃあ、私って実は獣人って感じですか?」
「ふふふ、獣人やツガイを知っているのなら話は早いわ。概ねそうなんだけど、あなたは人間。あっちの世界でも若干そのシステムが作動するけど、微妙だからツガイじゃない人と結婚して不幸になったりするでしょ。こっちの世界では、同年代のツガイが絶対いて必ず出会えるってわけ。だから、離婚とか浮気とかないわ。もうひとりのあなたは、きちんとツガイのところに転移して、幸せルートまっしぐらなの。ただね、あなたの場合、ちょーーーーっとした手違いで、時間と場所をミスっちゃったかなー、みたいな……。えっと、ほんとにごめんね」
もう結構。もう、何の情報も頭に入ってこない。お腹もいっぱいな気がする。でも、大事なことなのだろう。
そんな風に考えていると、またまたまた、聞き捨てならない言葉が。
「手違い? って……あの、手違いがあったのなら、元に戻してもらうってことは……」
「無理なのよ。私達も世界の一部だから、世界の意思には逆らえないわ」
「そんな! もう一人の私って人がいるのなら、その人だって、私と同じように元に戻して欲しいはず! 同じだけど、別人ですよね? 育った場所も何もかも違うんですから。お願いしますから、もう一度トレードしてください!」
私は、必死にメ・ガーミにすがった。でも、実体がないから、掴めないし、スカスカするばかり。私の必死な様子を見て、メ・ガーミは少しだけ眉を下げた。
「すまないが、そろそろ、亜空間から出なければならない。君の体は、もう薬は必要としないから、今後はこちらで暮らすように。我々の話はここまでだ。何かあれば、フクロウのミランを通してコンタクトを試みてくれ。運がよければ、また会うこともできるだろう」
「そんな、一方的な! ちょっと、待ってください!」
その声を最後に、私は亜空間から異世界のミランさんのもとに戻ったのである。
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