できれば王子を泣かせたい!

真辺わ人

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第1話 できれば王子を泣かせたい!

(7)王子の涙はスクショもの!

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「お前が俺を呼び出すのは珍しいな。話というのはなんだ?」

 ──あら?今日は何だか機嫌がいいわね?

 今にも鼻歌でも歌いそうな顔をしているわ。

 ヒロインちゃんとの二人きりイベントを目撃してから一ヶ月くらい経ったけれど、ヒロインちゃんといい感じにでもなれてるのかしら?
 じゃあ、王子のツンツンを見られるのもこれが最後かもしれないわね。
 この綺麗な顔が羞恥や怒りで真っ赤になって、ぷるぷる震える様子も見られなくなるのね。
 何より、まだ泣かせてないしなぁ……でも、私は精神的にお姉さんなのだから、少しはお姉さんらしいところも見せないとね。

 いい女は引き際も綺麗なのよ……というのはお母様の受け売りなんだけれど。えへ。

 いいわ。潔く解放してあげましょう。

 私はため息とともに執着心を吐き出した。
 もうこれは私のものじゃないのだからと言い聞かせながら──否、最初から私のものではなかったのだから。

「ねぇ殿下、わたくし知ってますのよ? 最近あなたはある人に恋をしてらっしゃいますわよね?」
「──っ?!」

 ジェラルドは目を大きく見開いたかと思うと、突然真っ赤になって震え出した。
 ちょこっと震えすぎ感が否めないけれど、まさしく浮気がバレて彼女に詰め寄られた時の彼氏の態度その一よね!
 めちゃくちゃ目が泳いでる!

「殿下、決して怒ったり詰ったりしませんので、正直に仰って欲しいのです。わたくしの他にどなたか好きな方ができたのでしょう?
 わたくし先日、ある女生徒と二人きりで楽しそうにお話されてる殿下を見ましたの。ピンク髪の、とても可愛らしい方でしたわ──殿下の恋のお相手はずばりあの方ですわよね?」
「な……っ!いやっ、それは……っ!」

 何故かジェラルドの顔色が今度は青くなってる。

 ──ああ、そうか。

 悪役令嬢の私に恋路を邪魔されるんじゃないかと怯えてるのね、きっと。
 そんな無粋な真似しないから安心してよね!
 ジェラルドを奪われたからといって、私はヒロインちゃんをいじめたりはしなくてよ!

「ふふっ。わたくしという婚約者がいながら仕方のない方ですわね。
 でもまぁ、わたくし達の婚約は政略的なものでしたし、双方合意の元であれば解消に問題ありませんわ。今ならば穏便に──〝穏便に〟婚約を解消して差し上げてもいいですわよ?」

 うわぁー……緊張した!
 なるべく年上──前世の精神年齢的に──の余裕を乗せたつもりだったけど、少しだけ早口になっちゃったかもしれない。
 だって、ここが断罪されるかされないかの分水嶺よ?
 だから、あくまで穏便に穏便に! 大事なことは二回言いなさいって前世で誰かが言ってたわ!

 私と婚約中に他の女にうつつを抜かすなんて、本来は浮気ですわよ?
 でも、そういうシナリオなんだから彼を責めても仕方がないもの。
 私は懐の深い女ですからね!

 さあ!

 子供みたいに、玩具に執着するような真似はやめて、微笑むのよアレクサンドラ

 そうして私は笑った。上手く笑えてる?
 自分じゃわからないけれど、アレクサンドラ人生史上最高の笑みじゃないかしら。

 その瞬間、ジェラルドの瞳が大きく揺れた。

「…………っ」

 澄んだ空のような青い瞳にみるみる涙が溜まっていく。まるで、波が押し寄せるように大量の水が押し寄せ、それが零れ落ちるのは必然で。

「えっ……なっ……ちょっと! 殿下?!」

 薔薇色に染まった頬を伝って次々と流れ落ちる涙。

 ──なんて……なんて綺麗なの!

 鼻血が出そうだわ。美少年の涙本当に尊いわ……スクショ!
 あ、画面越しじゃないからスクショできないのだわっ。カメラ! 誰か、カメラ持ってきて──っ!!

 いや、そうでなくて。

 なんでジェラルドが泣いてるのよ?
 この場合、泣くのは浮気されてる私の方でなくて?
 泣かないけど。

「俺は……もう不要なのか?」
「は……?」
「お前の方こそ、他に男ができたんだろう? そうなんだな?」

 いやいやいや、何でそうなるのよ? 他に想い人ができたのはあんたの方でしょうが!

「俺が他人にいじめられても平気なのか?」
「…………」

 いじめられてる自覚はあったのね……。
 まぁ、あなたがあの女に虐められて泣くとか──確かに想像するとちょっと嫌だけれども!

 いや、待って。

 そもそも優しさの権化であるヒロインちゃんが、攻略対象をいじめたりする訳ないわね。

 癒しよ癒し!
 私に長年虐められて荒んだ心を癒されなさいよ!
 そういうシナリオでしょ?!
 あ、シナリオで悪役令嬢がいじめてたのは、王子じゃなくてヒロインちゃんだったわね!

「頼む──捨てないでくれ」

 いや、うん……なんて言うか。その涙は尊いけれども。
 何か聞きなれない言葉が耳に入ってきて理解が出来ないのよね?
 初めて見た涙に感激しているせいかしら。
 頭が上手く働かないみたい。
 その後、何をどうしたのか覚えてないけれど、気がついたら自宅に戻っていた──のだけれど。







 どうしてこうなったのかしら?

「アレクサンドラ、愛して……もごっ!」

 ダメよ!
 それはヒロインちゃんに囁く愛の言葉なんだから!

 私は慌ててジェラルドの口を両手で塞ぐ。
 寝言は寝て言って欲しいわ、全く。

 婚約解消はまだかしら?
 既にお父様には伝えてあるはずなんだけど。

「愛し……もがっ!」

 危なっ!
 ジェラルド、今呪いの言葉をはこうとしたわね。
 そうよ、そうに違いない。







(完……多分)


──────────



*これにてアレクサンドラ視点の本編完結です♪お付き合いくださりありがとうございました! しばらくしてから王子愛強めの護衛視点の番外編を投稿しますので、またよろしければご覧下さい。

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