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第1話 できれば王子を泣かせたい!
(4)ネタ切れだよマリーさん
しおりを挟む「ねぇ、マリー。嫌がらせのネタが切れてきたわ」
ため息も漏れちゃうというものよね。
「昔のネタのリサイクルをすればよろしいのでは?」
「いえ……猿は猿でもアイツはどっちかというと学習能力のある猿だから、一度使った手はあんまり使えないのよ」
「では、いっそのこと王子殿下に嫌がらせするのをやめるとか? お嬢様ももう十四歳になられますよね? 少し落ち着かれてはいかがですか?」
私は思わずジト目になる。マリーったら、優しく相談に乗るふりをして、結局それが言いたかったのね?
──まぁ、確かにねぇ。
今でもよくやるイタズラという名の嫌がらせだと、物陰に隠れて脅かしたりだとかかな? おかげで気配を消すのは上手くなったわ、うん。
最初のうちは背中に貼り紙貼ってやったりもしてたけれど、最近は貼り付ける隙がなくてやってないなぁ。
小さな頃は、庭園の迷路で遊ぶ予定のある日にこっそり通路の生垣に手を加えて迷子にさせたり。遠がけの約束をした日にジェラルドの馬だけポニーにすり替えておいたりしてたけれど、十五になったジェラルドにもうその手は通用しないし、当時も泣かせることはできなかった。
それでも私はめげずに、嫌がらせを続けてきたわ。
こっそりベルトに切れ目を入れてお茶会中にズボンがずり落ちるようにしてみたり。
お茶会用のお菓子にカラシを仕込んでスイーツロシアンルーレットにしてみたり。
彼が苦い風邪薬を飲んだ後に舐める予定のキャンディーを、こっそり虫入りのものにしてみたり(前世とは違って中の虫も食用)。
お陰で、食べ物に関しても異様に鋭くなっていて、下手なことをするとすぐバレて面白くなくなっちゃったけど。
ああ、そうそう!
壮大な嫌がらせといえば──ヤツの勉強用の魔法の教本をデタラメな物とすり替えておいたりもしたっけ。あの偽本を作る為に製紙工場を買収して同じ品質の紙を作ったりして無駄に金と手間がかかった割に嫌がらせ度が地味で低めだった。教師と二人で発動しない魔法に首傾げてるのはちょっと笑っちゃったけど。
スタンダードな嫌がらせとしては、旅行先とかで変なお土産を見つけたら必ずヤツ宛に送ってる!
もちろん貰っても置き場所に困るやつね。邸宅用の巨大金ピカガーゴイルとか。山奥の部族伝統の踊りに使用される、等身大な仮面とか。
誕生日のプレゼントには、可愛らしいうさぎのぬいぐるみ三〇〇個を送ったこともあるわね。有名な服飾ブランドに制作を頼んだから高くついちゃったけど。試作品とか品質検査で弾かれたりした半端品が大量に出たから、孤児院とかに引き取ってもらったんだったわ。
もちろん作ったうさぎさんは私が直接持参して、可愛らしいぬいぐるみに埋もれて呆然とするジェラルドを目におさめたわ。
そういえばあのうさぎ三〇〇個、一体どこに仕舞ってるのかしらね?
ちなみに落とし穴系はもう懲りたので、あれ以来掘るのをやめたわ。危険な嫌がらせは各方面から怒られるし、王族であるジェラルドに怪我を負わせてもめんどくさい事になるしね。
私の嫌がらせはあくまでも子供のイタズラの範疇。
でもあの王子、まだ懲りずに『ブス』って呼んでくるのよね。
いっそ嫌がらせで本当に『ブス』って名前に改名してやろうかしら……なんてのはもちろん冗談だけど。
最近ちょっとうざいことに、ブスだけじゃ言い足りないのか私が着てるドレスのことまで口を出してくるのよね。『派手なドレスでブスが余計に悪目立ちしてるぞ』とかなんとか……ムキー!
派手な顔だからこそ、大人しめなドレスの方が悪目立ちするのよ! 悪かったわね!
私が私の好きなドレスを着て何が悪いのよ!
あんた好みのパステルカラーのドレスは、ヒロインちゃんに出会ってから贈ればいいじゃないのさ、ふんっ!
ああ、何の話だったかしら──そうそう、最近その嫌がらせのバリエーションに限界を感じているのも現実なのよね。
前世では平和でのんきに暮らしていたせいで、イタズラや嫌がらせなんてしたこともされたこともなかったからいい案がないのよ。
覚えてるのは、学生の時下駄箱に入ってた不幸の手紙くらいかしら?
『この手紙を受け取った人は、三日以内に同じ内容を三人に送らないとあなたは不幸になります』とかだっけ──今度やってみる?
でもあれって、真に受けたアイツが他の人に手紙書いたら、迷惑被る人が出て来ちゃうわよねぇ。
ああっ!チェーンメールじゃなくすればいいのか!
『この手紙を受け取った人は、アレクサンドラ様素敵可愛い美人と毎日三回ずつ唱えないと不幸になります』とかどうかしら?
名前出したら犯人バレバレかーあはは!
成長するにつれて子供じみた嫌がらせが通用しなくなってきたのも、ネタ切れの要因の一つね。
今のところはアイツの悪口に対して揚げ足とって嫌味で返したり、昔の恥ずかしい話を収集して少しずつ暴露って形で嫌がらせしてるけど、そのネタもいつまでもつのやら……。
夜会なんかでエスコートされる時に、私がふざけたドレスで登場するとか、奇声を発しながら歩くとかも考えたけど、自分にダメージが跳ね返るのはちょっとねぇ……。
婚約解消した後の嫁の貰い手がなくなるわぁ。
私が泣かせたいのはあのクソバカ王子ジェラルドだけだから、他人を大きく巻き込んだりするイタズラも駄目。
まぁ、そろそろジェラルドも学園に入学だし、断罪の口実を与えないように大人しくしておこうかしらね?
──────────
「おい、ブス!最近大人しいじゃないか、どうしたんだ?」
「あら、私が大人しくないことなんてございましたっけ?」
「ほ、ほら!今なら背中がガラ空きだぞっ」
「さようで」
「あー……眠いから今からソファで昼寝とかしようかな」
「どうぞどうぞ。……あ、ならば私はこのお茶を飲んだら帰らせていただきますわね」
「…………」
──あら?
嫌味も嫌がらせもしてないのに、ジェラルドが何だか涙目になってる気が……。
それに何だか周囲の目が妙に生暖かい気がする──いや、気の所為よね?
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