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後編

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 不思議な浮遊感が薄れ、僕は目を開けた。

「転生者一名ごあんなーい!」

「えっ…?」

「異世界へいらっしゃいませ~! まずこちらの転生者専用ギルドで転生者登録をお願い致します! あ、転生前のお名前や連絡先も忘れずにお願いしますね! 虚偽の報告は処罰の対象となりますのでご注意ください!」

 僕は、部屋の中の魔法陣の上に立っていた。
 神様が発動した魔法陣によって、ここへ転送されたということだろう。

 それはそれとして、転生者ギルド……とはどういうことだろうか?

 まだ混乱中の僕の腕を、部屋の中にいた女性がむんずとつかんで引っ張った。

 獣人だろうか?
 女性の頭には、二つの尖った耳がピコピコと揺れている。
 顔は結構可愛いので、彼女が望むなら僕のパーティに入れてあげてもいいかもしれない。
 そんなことを考えていると、女性が一向に身動ぎしない僕に痺れを切らしたようだ。

「そこに突っ立ってると次の人が来られませんからね~! はい、お兄さんはあちらへどうぞ~!」

 女性が指し示した先には、複数の受付のようなものがあり、そのどれもに行列ができていた。

「あ、列に並ぶ前に用紙を記入してくださいね~! 転生者登録の用紙と筆記用具は、あちらのカウンターに置いてありますよ~。虚偽の報告は処罰の対象となりますのでくれぐれもお気をつけて~」

 それでも動けずにいると、女性が背中をポスっと押してきた。
 少し前の感覚が残っているのか、まだ自分の身体という実感が少ない。
 よろよろと拙い足取りだったが、教えてもらったカウンターまでは何とか辿り着き、カウンターの書類立てに挿さっている紙を一枚引き抜いた。

「転生者登録用紙…」

 そこに書かれてある言葉は、どうやら日本語ではないようだが、言語の理解や筆記の能力の付与はお願いしてあったので難なく読み解くことができる。

「転生前の氏名、住所、電話番号、生年月日、死亡日時、死亡原因…転生後の氏名、転生年月日、種族、所持能力…」

 ちょっと待って。まだ現実が受け止めきれない。

 僕の隣に来た人も少し戸惑ってはいたが、ちゃちゃっと用紙に記入して受付に並びに行った。

 到底納得できないし色々な不安も拭えないが、僕もそれに習って用紙に記入をしていく。
 せっかく転生したというのに、元の(前世と言うべきだろうか?)名前や住所を記入させる意味が分からない。

 それでも、虚偽の報告は処罰の対象と二度も言われたので、転生前の本名や住所をありのまま書き連ねる。
 そして僕は、その用紙を持って受付の一つに並んだ。
 全部で四か所ある受付は、窓口の人が美女→幼女→美青年→美少年の順に並んでいる。
 僕は迷うことなく美女の受付の列に並んだ。

 並んでいる面々は様々だった。
 赤髪の屈強そうな男の人や、薄緑色の髪をした非力そうな少年も一同に僕と同じ生成色の用紙を握りしめてこの列に並んでいる。

「はい、次の方どうぞ~!」

「あ、はい、お願いします」

「そのまま少しお待ちくださいね~えーっと、転生前の氏名、住所」

 受付は、ブロンドの綺麗なお姉さんだった。
 隣の受付をちらっと見やると幼女が厳つい顔をした親父に何やら強気で注意していた。

 幼女なのに…働いても大丈夫なんだろうか?

 そんな考えがちらっと頭をよぎったが、ここは異世界だと思って気持ちを切り替えた。前世の世界の常識は捨てないと!

「ジーク様~! ジーク様~! 登録完了しましたよ~!」

 受付のお姉さんの声で我に返った僕は、慌てて受付の方へ向き直った。
 そうだ、転生後の名前はジークだったことをすっかり忘れていた!
 僕がそのことを謝罪すると、彼女はくすっと笑って言った。

「皆さん似たようなものですから大丈夫ですよ~! これがこちらの世界での転生住民票になります~。住所や注意点に関しても記載されてますので、よく読んでくださいね~! それでは楽しい異世界転生ライフをお楽しみください~!」

 僕にカードを手渡したお姉さんは、手慣れたようにヒラヒラ~と手を振った。
 呆気に取られていると、後ろの人が僕を押し出すようにして席に着いた。

 仕方がないので僕は、渡されたカードを握りしめてここから外に出ることにする。

 よく分からないけれど、ここが異世界であることには違いない。
 ということは、ここから一歩出たら間違いなく僕の期待した人生が待っているということなのだ。

 住所というからには、どうやらこちらでの住むところも用意されているようだし。

 確かに、僕はこの世界に元々暮らしていて転生前の記憶を思い出した訳ではないのだから、いきなりこの姿で転送されても住むところとか困ってしまうだろう。
 僕はとりあえず、この転生者専用ギルドから外へ出た。






 あれから三ヶ月経った。

 僕はこの世界に馴染み始めている。

 最初は思うように動かせなかった身体にも慣れ、楽しみにしていた魔術も問題なく使えている。

 ──ただ。

 暮らしてみて分かったのは、この世界で転生者は珍しくないということだった。
 というか、ほぼ全ての人が転生者である。

 どうやらあのおむすびは、あちこちで予定外の人を死なせてはこの世界へ転生と称して送り付けているらしい。
 そして、転生したほぼ全員が、転生特典で例外なく僕と同じようなチート能力の持ち主ということになる。

 そう言えば、希望する能力を付与してもらう時におむすびが「付与できる能力の上限は元の魂の質に依存する」と言っていた。

 残念ながら僕のチート能力は、他の人に比べると平均よりちょい下らしい。
 蓋を開けてみたら、魔獣を狩るなんてとんでもない! くらいの、へっぽこレベルの魔術師だったという訳だ。

 ということで、結局僕はこの世界でもパッとしない人生を歩むことになってしまった。

 僕はその事実に気づいた時、呆然とした。





 ──あのおむすびに騙された!

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