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前編
しおりを挟むここだけの話、僕は実は転生者である。
今からチート能力を手に入れて、世界最強の魔術師になる予定だ。
「いやーすまんすまん。そなたは巻き込まれてしまったようじゃ」
目が覚めた時、浄水器のカタログを山ほど抱えて営業に出たはずの僕がいたのは、何も無い真っ白な世界だった。
戸惑う僕に話しかけてきたのは、ふよふよと空中に浮遊する小さなおむすびのような物体だった。
その物体は神と名乗り、僕の死期がまだ来ていないのに、手違いで死なせてしまったという趣旨の話をした。
美男でも美女でもないおむすびに「我は神じゃ」と言われて、微妙な邂逅に若干ガッカリしたものの、おむすび神様がお詫びに好きな世界に生き返らせてくれると言うので、遠慮なく憧れの剣と魔法のファンタジーな世界に転生させてもらうことにした。
「ゲームの世界とかも可能ですか?」
「人が作ったゲームはゲームでしかない。実際に存在する訳ではないので、転生は無理なのじゃ」
なるほど。
どこから見てもおむすび感満載の神様の言葉に、何となく納得もする。
ゲームの世界が無理ならば、ゲームのような設定は可能だろうか?
転生とは言っても、さすがに赤ん坊から人生やり直すのは厳しいので、年齢は十五~六歳くらいの美少年設定にしてもらってここから送って貰うことにする。
転生というよりも、転送みたいな感じだな…もちろん抜かりなくその世界での美醜の価値観はリサーチ済み。
異世界のあれこれを知っている僕はもちろん、チート能力付きでの転生も交渉した。
魔法全属性使用可能、全属性耐性、物理的攻撃無効、成長加速…などなど
とりあえず思いつく限りのチート能力を要求して、その半分くらいは付与してくれることになった。
能力には付与できる限界というものがあるらしいが、限界値ギリギリまでを付与してくれるようにお願いした。
魔法系はほぼつけて貰えたので、やはり最強魔術師になる方向でいこうと思う。
「この最強の力で、伝説級の強い魔物を倒して仲間にしたり、襲われそうになってる美女を助けて一緒に旅をしたり…」
僕の夢は膨らむ一方だった。
「ではお主の希望の世界に転送するぞ」
「お願いします!」
日本人の僕は、人生半ばというかかなり早い段階で芽を摘まれてしまったけれど後悔はない。
むしろ何をしても平均よりちょい下くらい、パッとしない人生だったのだから、これから起こるだろう素晴らしい未来に期待が高まる。
「これから最強の魔術師に!」
神様が何かを唱えると、おむすび然としたその身体が光り、僕の足元に魔法陣らしきものが現れる。
それと共に、意識ごと身体が何とも言えない浮遊感に包まれる。
僕は、その浮遊感に身を任せて目を閉じた。
次に目を開ける時は、新しい世界で新しい人生の始まりだ。
それは言わば、高校デビューを目論んで新しい教室へ向かう時のような高揚感。
そういえば僕も高校デビューを夢見たこともあった。
しかし、三分の一が地元の中学のメンバーで占められたクラスで、一体どんな高校デビューができるのだろうか?
いや、何も出来ないのが現実だ。
髪を染めたり、リア充ぶって色々語ったりしても、そのメッキはあっという間に剥がされてしまう。
そう。
地元の中学校からの進学が多い、公立高校での高校デビューは無理なのだと、僕が悟った瞬間だった。
いや、そんな話がしたかった訳じゃない。
これから僕は、見知らぬ世界に飛び込んでいくのだ。
これぞまさに高校デビュー!
じゃなくて異世界デビュー!
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