【完結】幼なじみのクズ男から乗り換えます!

真辺わ人

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(18)彼の事情

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 案内された食堂をドキドキしながら覗いてみると、何と食卓には見知った顔が座っていた。

「ル……ルドラン?!」

「おはよう、タリア。よく眠れた?」

「もしかして、私をここへ連れてきたのはルドランだったの……?」

 タリアは、首を捻りながら訊ねた。

「え……そうだけど、パーティーの前日に迎えに行くって言ってなかったっけ?」

「何も……何も聞いてないわよっ!」

 安心したら足の力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。

「えっ……タリアどうしたんだ?!」

 その様子に驚いたらしいルドランは、ガタンと席を立つとタリアの側に駆け寄ってきた。

「ごめんなさい、色々ホッとしたら力が抜けちゃって──」

 差し出された手に掴まりながら、タリアは立ち上がる。そして、昨日の出来事を手短に説明した──少しだけ非難を込めて。

「そうか……僕が伝えるの忘れてたんだな……すまない、突然連れてこられてびっくりしただろう?」

「まぁ……びっくりはしたけど。あなたでよかったわ」

「中年親父じゃなくてがっかりした?」

「……ばか」

「あはは、本当にごめん」

「でも、ルドラン。あなた一週間以上も職場に来ないで、一体どうしてたの?」

 タリアは、疲労の色濃いルドランの顔を見上げた。

 ボサボサの頭はいつものことなのかもしれないが、やや頬がこけたような気がする。
 それに、さっきはよくわからなかったが、近づいて見ると服もヨレっとしている。

「あぁ、ごめんね。さっき帰ってきたばかりなんだ。ちょっと臭うかも……」

「えっ……」

「冗談だよ。シャワーは浴びていたけど風呂に入る時間があんまりなくてさ。まぁとりあえず飯にしようか。座って、タリア」

 タリアはルドランに手を引かれて食卓の席についた。

「もしかして、僕のこと心配してくれてた?」

「え……えっと、同僚を心配するのは当然じゃない?」

「ちょっと長めに休暇申請出したつもりだったんだけど、思ったより長引いちゃったんだ。心配かけてごめんね?」

「──っ! 思ったより元気そうね」

 首を傾げて覗き込んでくるルドランから、思わず目を逸らした。

「──とても……心配したわ」

「嬉しいな」

 ぽつりと零すと、ルドランは本当に嬉しそうに言って笑った。

 そして、タリアは口に出して初めて自覚した。

 そうか、自分はこの人のことが気になっていただけでなく、心配だったのだのか。

「『職場の知り合い』から『友人』くらいには昇格できそう?」

 だって、この人のことばかり考えていた。
 知り合って幾ばくも経っていないというのに。
 リュシーのことも頭に浮かばないほどに。

『男の傷は男で癒す』

 初対面の時に言われたことを体現したかのようで恥ずかしくなるタリア。何だか今更照れてしまって、顔があげられない。

 そんなタリアに、ルドランは優しげな視線を向けていた。

 それから、二人で食事をしながらこの一週間の事を話した。

 実は親戚に頼まれて、普段から騎士団の手伝いをしているそうだ。基本的に役場とは被らない夜の仕事が多く、最初は軽い副業のつもりだったとルドランは不本意そうにボヤいた。

 ここ最近は騎士団の仕事が忙しく、役場の方も休みがちになっていたらしい。
 その代わり、ルドランの給料は騎士団の方から出すことで、上の方は合意していること。
 なるほど、職場で寝てばかりいても上司に何も言われないのも頷ける。

 ふと、役場の仕事を辞めていっそのこと騎士団に所属すればいいのではないかと思って、話を振ってみた。

 役場の仕事は安定しているとはいえ、国家予算で運営されている騎士団に比べると格段に給料が安い。略して格安だ。

 騎士団の給料は、もちろん危険手当なども含むのだろうが──タリアからすれば、高給取りになれる可能性があるのに、それを棒に振ること自体が理解できなかった。

 しかし、彼は首を横に振った。

「見てわかる通り、僕は貴族の子息だけど三男だし、貴族としては出来損ないみたいなものでね。貴族としての責務を果たすよりも、街で働いている方が気が楽なんだよな。でも、ある人が『貴族として生まれたからには、その責務を果たす義務がある』ってしつこいから、仕方なく騎士団の仕事を請け負っているんだ──家は継がないから別に名誉とかも必要ないんだけどね。身体を動かすのは嫌いじゃないんだけど、騎士って柄じゃないんだよな……まぁ、それ以外にも色々と理由はあるんだけど……」

 そう言って、いつかも見たような大きな欠伸をした。

『見てわかる通り』

と言われたが、貴族然とした邸宅の中でこの食堂で席についていなければ、誰にもわからないのではないだろうか。

 今の彼は、髪はボサボサで服はヨレヨレである。平民でもここまで何もかもヨレヨレの人間はいない──と思う。

 普段は騎士団の宿舎で一人暮らししているが、パーティーの準備のために実家へ戻って来たのだそうだ。

「さて、腹ごしらえも終わったことだし、ぼちぼち準備といこうか」

「準備──?」

「マウラ、頼んだよ」

「かしこまりました」

「──っ?!」



 突然真横に姿を現したメイドに驚いて、ちょっと口が開きっぱなしになったのは許しい欲しい。





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