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(15)そもそも会わない
しおりを挟む記念に、と貰った紙包みには、怪しげな店で見た『妖精の羽のレプリカペンダント』が入っていた。
「何で……」
あの店で、ルドランはほとんどタリアの側にいなかったはずなのに、何故これを欲しがっているとわかったのだろうか。
(やっぱり手馴れてるわよね)
しかも、別れ際にキスなんか(額だが)をされて、一体どんな顔をして明日ルドランに会えばいいのだろう。
タリアはその夜悶々としてなかなか寝付けなかった。
ただ、それは杞憂だった。
翌日、ルドランはタリアの前に姿を現さなかったのだから。
単に休みなのかと思ったが、次の日もその次の日も──さすがに心配になったタリアが庶務課へのお使いのついでに職員へ声をかけると、元々一週間の有休申請が出てるのだと言われる。
あの日、タリアに合わせて休みを取ったのかとちょっと疑っていたのが、自意識過剰でちょっと嫌になる。
そしてあれ以来、リュシーもタリアの前には現れなかった。
本当に、あんなことをしておいてどの顔で、とは思うが一度あることは二度ある。
そう思ってしばらく警戒していたのだが、その必要はなさそうだった。
タリアのことを浮気者と罵っていたし、向こうもようやく見限ったのかもしれない──まぁ、先に見限ったのはタリアの方だが。
◇◇◇
それから一週間ほどが過ぎ、有休期間は過ぎたはずなのに、結局そのままルドランは姿を現さなかった。
タリアの前に現れないという意味だけではなく、実際職場にも来ていないらしい。
デートの翌日は顔が見られないと思っていたタリアだが、実際に見られないとなると彼のことが気になって仕方がなかった。
彼が気になっているのではない。
彼が来ないことが気になっているだけだ。
タリアはそんな言い訳を自分にしながら、毎日のように庶務課を訪ねた。
何度も訪ねてくるタリアが鬱陶しくなったのか、庶務課の人はタリアの顔を見るなり「今日も来てませんよ。まぁ、いつも無断欠勤も珍しくないですから。何であれでクビにならないんでしょうね、こっちは彼の分の仕事をやらなきゃいけないのに」と、零した。
そしてそれから小一時間ほどルドランに関する愚痴を聞かされた。相当溜まっていたらしい。
ついでに「夕食でも」と誘われたが、愚痴を夕食どきまで引っ張るつもりなのだろうか。冗談ではない。
大体、だ。
タリアはルドランの保護者でもなんでもない。
彼がタリアの恋人候補に立候補している、ただそれだけの関係だ。現時点では友人でさえない。
しつこく食い下がる職員を、適当にあしらって戻ってきたはいいが、一体彼に何があったのだろう。
そしてとうとう、例のパーティーがもう明日に迫っているその日になった。
相変わらずルドランの行方はわからない。
庶務課ではもう、元からいなかったものとして扱われていた。
もちろんタリアは、彼が幻なんかではないことを知っている。今胸元で揺れている虹色の羽がその根拠だ。
「どこかで事故にあって死んでしまったのではないか」
「大きな事件に巻き込まれて逃げている」
「仕事が嫌になって逃げ出したのではないか」
庶務課では諸説囁かれているが、どれもタリアにはしっくり来なかった。
街の人間は皆、認識票を身につけている。
例え野垂れ死んだとしても、どこの誰かは判明するはずだし、真っ先に役場に連絡が入るだろう。
巻き込まれて姿を隠さなければならないほど大きな事件も、起きてはいないはずだ。
仕事が嫌で逃げ出すことも多分しないだろう。
何故ならば、彼は仕事のほとんどの時間を寝て過ごしていたのだから。
そんな仕事が今更嫌になるわけもないだろうし、それでもクビにはならないのだから他にこれ以上好条件の仕事があるとも思えない。
とすると、考えられるのは誘拐にあったとか、部屋で人知れず倒れているとか──色々不吉なことがが頭をよぎる。
しかし、友人でさえない今、彼の連絡先を勝手に庶務課に聞くのは躊躇われる。職権乱用と思われても仕方がないし、彼との関係を根掘り葉掘り聞かれるだろう。
まぁ、例のマウント女が公衆の面前で騒いだせいで、男爵家のパーティーに一緒に参加することは周知されてしまっているので、今更な気もするが。
気になっているのは、彼が別れ際に「じゃあパーティーで」と断言していたことだ。
あの時既に彼は、パーティーの日まで帰れないことを承知していたのではないだろうか。
疑問は膨らむばかりだった。
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