3 / 29
(3)下心が90%(マデリーン談)
しおりを挟む「タリア、大丈夫?」
「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ」
マデリーンは、大丈夫じゃないだろなんてツッコミを飲み込んだ。
いつもは茶化して突っ込むけど、今日はシャレにならない予感がする。
──今日は早めに仕事切り上げてご飯でも誘おうかしら。この分だと仕事にならないだろうし。
朝からずっと心ここに在らずなタリアは、何かあっただろうことが丸分かりだ。
建国祭の前日はむしろ浮かれモードだったはずなのに。たった三日間で何が起きたのだろうか?
それに──と、マデリーンはチラとタリアの手元に目をやる。
彼女は右手に包帯を巻いていた。
これも三日前にはなかった変化だ。
この放心状態と包帯の関係が気になる──実は思い切りリュシーを殴ったため、手を痛めてしまった(ケンカ初心者にはありがちだと町医者に笑われた)のだが、その事実をマデリーンが知ったら卒倒していたに違いない。
「あぁあ、もうっ! あんたは資料室で整理でもしててちょうだい!」
マデリーンは、タリアをグイグイと部屋の中から押し出した。
ぼんやりしているタリアからは、いつもの覇気が感じられない。
普段なら、タリアを振り向かせたい男の誘いを真っ向から切り捨てるタイプなのに。
今日に限ってはどこから見ても隙だらけで、さっきから男どもの視線がうざい。
奴らはどうせ「今ならイケそうだ!」などと思っているに違いない。
──男の90%は下心でできているんだからね!(マデリーン比)。
「タリア、荷物重そうだから僕が半分持つよ」
「あ、大丈夫よ。これくらい持てるから」
「いいから貸しなよ」
ほら、言わんこっちゃない!
「スチュアート! あなたは所長に言われた会議の書類終わったの?」
「えっ……いや……」
タリアに声をかけた男は、マデリーンの勢いに気圧されてすごすごと自分の席へ戻っていった。
「今のうちに早く行きなさい。今のあんた、すごーく危ないから、昼休憩まで帰ってくるんじゃないわよ」
「あ……うん、ありがとうマデリーン」
「全く世話が焼けるんだから」
今度こそタリアが無事に資料室へ向ったのを見て、マデリーンも自分の席へ戻る。
あのまま放っておいたら、とんでもない男に引っかかったりしそうだ。そうなったら笑えない。
「あら?」
確か、タリアには婚約者がいたはずじゃなかっだろうか。
口約束だとは言ってたけれど、結婚を約束した相手がいると──そこまで考えたマデリーンは、何かに気づいたようにハッと口元を押さえた。
とにかく、聞き出すのは後だ──マデリーンは次々浮かんでくる妄想を振り払い、また書類作業に集中することにした。
◇◇◇
半ば強制的に資料室に追いやられたタリアは、まだぼーっとしていた。
「はぁぁぁ──……」
やはり今日は、休みを貰うべきだったかもしれない。
タリアは公務員用の宿舎暮らしだから、一人で部屋にいるよりは気が紛れるだろうと思ったのだ。
しかし、思ったより精神的にダメージを受けていたようで、全く仕事に集中できなかった。
(有給が溜まってるはずだから、消化がてら午後休にしようかな……)
さすがにもう泣けてはこないが、タリアの中から何か大きなものが抜けてしまっていた。
そのことが、タリアのやる気をごっそり削いでいるのは確かだった。
昨日はとにかく頭が怒りでいっぱいで、あんなクズ男とは金輪際もう喋りたくないと思っていたのだが──。
「もう少し落ち着いて話せばよかったかも……一昨日の事だって、話まで聞こえてなかったもの。世間話をしていただけなのかも。
もしかしたらリュシーは本当に私だけを愛していて、縁談を断ってくれるつもりかもしれないし……。
あの時は女の人とキスしてるように見えたけど、やっぱりキスじゃなくて目のゴミを取ってあげていただけとか……あぁああ」
それが危険な思考だとは分かっている。
でも、一人だとずっと悶々としてしまうのだ。
だから、ものすごく誰かに相談したい。
相談したいが、タリアは一年前に今の職場に採用されたばかりで、プライベートをあけすけに相談できるような友だちがほとんどいない。
しかもリュシーと付き合ってる間は、自分以外の人間と会うことに彼があまりいい顔をしなかったから、友だち付き合いも次第に消滅してしまった。
今はこれといった友だちも思い浮かばない。
職場でそれなりに話すマデリーンにも、自分の恥をさらけ出すのはさすがに躊躇われる。
「あぁあ……どうしたらいいの? リュシーの言ったように待つべきなのかしら、それともやっぱり終わりにした方がいいのっ?!」
──クスッ。
「──っ?!」
タリアはひゅっと空気を飲んで声の方を振り返った。
20
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約者様は大変お素敵でございます
ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。
あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。
それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた──
設定はゆるゆるご都合主義です。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる