【完結】幼なじみのクズ男から乗り換えます!

真辺わ人

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(3)下心が90%(マデリーン談)

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「タリア、大丈夫?」

「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ」

 マデリーンは、大丈夫じゃないだろなんてツッコミを飲み込んだ。
 いつもは茶化して突っ込むけど、今日はシャレにならない予感がする。

 ──今日は早めに仕事切り上げてご飯でも誘おうかしら。この分だと仕事にならないだろうし。

 朝からずっと心ここに在らずなタリアは、何かあっただろうことが丸分かりだ。
 建国祭の前日はむしろ浮かれモードだったはずなのに。たった三日間で何が起きたのだろうか?

 それに──と、マデリーンはチラとタリアの手元に目をやる。
 彼女は右手に包帯を巻いていた。
 これも三日前にはなかった変化だ。

 この放心状態と包帯の関係が気になる──実は思い切りリュシーを殴ったため、手を痛めてしまった(ケンカ初心者にはありがちだと町医者に笑われた)のだが、その事実をマデリーンが知ったら卒倒していたに違いない。

「あぁあ、もうっ! あんたは資料室で整理でもしててちょうだい!」

 マデリーンは、タリアをグイグイと部屋の中から押し出した。

 ぼんやりしているタリアからは、いつもの覇気が感じられない。
 普段なら、タリアを振り向かせたい男の誘いを真っ向から切り捨てるタイプなのに。
 今日に限ってはどこから見ても隙だらけで、さっきから男どもの視線がうざい。
 奴らはどうせ「今ならイケそうだ!」などと思っているに違いない。

 ──男の90%は下心でできているんだからね!(マデリーン比)。

「タリア、荷物重そうだから僕が半分持つよ」

「あ、大丈夫よ。これくらい持てるから」

「いいから貸しなよ」

 ほら、言わんこっちゃない!

「スチュアート! あなたは所長に言われた会議の書類終わったの?」

「えっ……いや……」

 タリアに声をかけた男は、マデリーンの勢いに気圧されてすごすごと自分の席へ戻っていった。

「今のうちに早く行きなさい。今のあんた、すごーく危ないから、昼休憩まで帰ってくるんじゃないわよ」

「あ……うん、ありがとうマデリーン」

「全く世話が焼けるんだから」

 今度こそタリアが無事に資料室へ向ったのを見て、マデリーンも自分の席へ戻る。

 あのまま放っておいたら、とんでもない男に引っかかったりしそうだ。そうなったら笑えない。

「あら?」

 確か、タリアには婚約者がいたはずじゃなかっだろうか。
 口約束だとは言ってたけれど、結婚を約束した相手がいると──そこまで考えたマデリーンは、何かに気づいたようにハッと口元を押さえた。

 とにかく、聞き出すのは後だ──マデリーンは次々浮かんでくる妄想を振り払い、また書類作業に集中することにした。



◇◇◇



 半ば強制的に資料室に追いやられたタリアは、まだぼーっとしていた。

「はぁぁぁ──……」

 やはり今日は、休みを貰うべきだったかもしれない。

 タリアは公務員用の宿舎暮らしだから、一人で部屋にいるよりは気が紛れるだろうと思ったのだ。
 しかし、思ったより精神的にダメージを受けていたようで、全く仕事に集中できなかった。

(有給が溜まってるはずだから、消化がてら午後休にしようかな……)

 さすがにもう泣けてはこないが、タリアの中から何か大きなものが抜けてしまっていた。

 そのことが、タリアのやる気をごっそり削いでいるのは確かだった。

 昨日はとにかく頭が怒りでいっぱいで、あんなクズ男とは金輪際もう喋りたくないと思っていたのだが──。

「もう少し落ち着いて話せばよかったかも……一昨日の事だって、話まで聞こえてなかったもの。世間話をしていただけなのかも。
 もしかしたらリュシーは本当に私だけを愛していて、縁談を断ってくれるつもりかもしれないし……。
 あの時は女の人とキスしてるように見えたけど、やっぱりキスじゃなくて目のゴミを取ってあげていただけとか……あぁああ」

 それが危険な思考だとは分かっている。

 でも、一人だとずっと悶々としてしまうのだ。

 だから、ものすごく誰かに相談したい。

 相談したいが、タリアは一年前に今の職場に採用されたばかりで、プライベートをあけすけに相談できるような友だちがほとんどいない。

 しかもリュシーと付き合ってる間は、自分以外の人間と会うことに彼があまりいい顔をしなかったから、友だち付き合いも次第に消滅してしまった。

 今はこれといった友だちも思い浮かばない。

 職場でそれなりに話すマデリーンにも、自分の恥をさらけ出すのはさすがに躊躇われる。

「あぁあ……どうしたらいいの? リュシーの言ったように待つべきなのかしら、それともやっぱり終わりにした方がいいのっ?!」

 ──クスッ。

「──っ?!」

 タリアはひゅっと空気を飲んで声の方を振り返った。

 
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