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(2)イケメン滅びろ
しおりを挟む(リュシーのバカ!バカバカバカバカ!バカヤローーーッ!)
タリアが怒りに任せて自棄気味に走っていると、突然目の前に現れた老婆が花籠を目の前に差し出した。
「そこの綺麗なお嬢さん、花はいらんかね?」
そういえば、リュシーはタリアのことを綺麗だと褒めたことすらなかった。
「頂くわ」
声をかけてきたおばあさんに銀貨を1枚渡し、代わりに赤い花を受け取った。
あんなことがなければ今頃は、この赤い花をお互いに贈りあって笑っていたはずだ──そう思うとチリッと心の奥底が痛んだ。
「本当にバッカみたい」
でも、花に罪はない。部屋にでも飾ろう。
この赤い花は、尖った花弁が星のように並んでいることから星花とも呼ばれる。
白、ピンク、赤などの色があり、白は『結ばれた二人』、ピンクは『私を好きになって』、赤は『運命の恋人』などの意味の花言葉を持つ。
いつから始まった習慣かは分からないが、年頃の男女は建国祭の間中この星花を身につけていることが多い。
白は既婚者。
赤は恋人あり。
ピンクは恋人募集中の印だ。
タリアは例年、リュシーと共に赤い星花を身につけていた。
つい癖で赤い花を買ってしまった自分を鼻で嗤う。
「本当にバカね……」
愛し合ってると思ってた。
けれど、タリアの愛とリュシーの愛の重さは釣り合っていなかったのだろう。
(あんなんじゃ足りない。もっと痛い目に合わせてやればよかったわ!)
タリアは星花の茎から丁寧にトゲを取り去ると、長いその茎をバキバキボキボキと折っていた。
──ドンッ!
「あっ! ごめんなさい!」
前を見ずに歩いていたら誰かにぶつかってしまった。
ふと視線をあげると、それはあまり見慣れない騎士団の紺の制服だった。
そういえば建国祭は人出が多いから、治安維持のために騎士団が総出で巡回してるって誰かが言ってたっけ。
しかも、目の前の騎士はかなりイケメンだった。
制帽を目深に被ってはいるが、頭一つ低いタリアからははっきりと見えた。
黒のまつ毛が縁取る赤い眼が驚きにみはられている。
そして感じるのは恋の予感──などではなくて。
(けっ! イケメン騎士様はさぞおモテになるんでしょうね!)
なんと、やさぐれていた。
「大丈夫ですか?」
(大丈夫なわけないじゃない! こちとら振られたばっかだっての!)
振られたのか振ったのかよく分からない状況だったが、昨日のあの状況は振られたに等しいと思う。
そういえばリュシーもそれなりにイケメンだった。どこぞの貴族のお嬢さんを誑し込むのに困らないくらいには。
目の前の騎士が悪いわけではない。悪いわけではないが──。
(男なんてみんな一緒よ! イケメンなんてクソ喰らえだ!)
「あの……?」
なおも言葉を返さないタリアに戸惑ったように声をかけるイケメン騎士。
「……あら、ごめんなさい! 帽子が歪んでしまったみたいですわね」
「えっ……あっ!」
戸惑う騎士にタリアはすっと手を伸ばして、彼の制帽を手直しする。
「失礼しました、オホホホホホ……!」
高笑いをしながら、ポカンとした騎士を置き去りにして去ってやった。
口を半開きにした姿も様になるとは、イケメン恐るべし。
そして、タリアの手に握られていたはずの星花は姿を消していた。
(おほほ! 赤い星花を帽子に差してやったわ! 誰にも声をかけられずに落ち込めばいいのよ! イケメンなんて滅びろ!)
赤い星花は恋人ありの印──身につけていれば、十中八九声を掛けられないだろう。
建国祭で、白や赤い花をつけた者に異性が声をかけるのはマナー違反だからだ。なりふり構わない強メンタルの持ち主なら分からないが。
あのイケメン度合いならば普段からモテモテだろうし、今日くらい声を掛けられなくても大したダメージではないだろう。
(こちとら再起不能だっての!)
もちろん、ただの八つ当たりであった。
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