【完結】幼なじみのクズ男から乗り換えます!

真辺わ人

文字の大きさ
上 下
2 / 29

(2)イケメン滅びろ

しおりを挟む



(リュシーのバカ!バカバカバカバカ!バカヤローーーッ!)

 タリアが怒りに任せて自棄気味に走っていると、突然目の前に現れた老婆が花籠を目の前に差し出した。

「そこの綺麗なお嬢さん、花はいらんかね?」

 そういえば、リュシーはタリアのことを綺麗だと褒めたことすらなかった。

「頂くわ」

 声をかけてきたおばあさんに銀貨を1枚渡し、代わりに赤い花を受け取った。

 あんなことがなければ今頃は、この赤い花をお互いに贈りあって笑っていたはずだ──そう思うとチリッと心の奥底が痛んだ。

「本当にバッカみたい」

 でも、花に罪はない。部屋にでも飾ろう。

 この赤い花は、尖った花弁が星のように並んでいることから星花とも呼ばれる。

 白、ピンク、赤などの色があり、白は『結ばれた二人』、ピンクは『私を好きになって』、赤は『運命の恋人』などの意味の花言葉を持つ。

 いつから始まった習慣かは分からないが、年頃の男女は建国祭の間中この星花を身につけていることが多い。

 白は既婚者。
 赤は恋人あり。
 ピンクは恋人募集中の印だ。

 タリアは例年、リュシーと共に赤い星花を身につけていた。
 つい癖で赤い花を買ってしまった自分を鼻で嗤う。

「本当にバカね……」

 愛し合ってると思ってた。

 けれど、タリアの愛とリュシーの愛の重さは釣り合っていなかったのだろう。

(あんなんじゃ足りない。もっと痛い目に合わせてやればよかったわ!)

 タリアは星花の茎から丁寧にトゲを取り去ると、長いその茎をバキバキボキボキと折っていた。

 ──ドンッ!

「あっ! ごめんなさい!」

 前を見ずに歩いていたら誰かにぶつかってしまった。

 ふと視線をあげると、それはあまり見慣れない騎士団の紺の制服だった。
 そういえば建国祭は人出が多いから、治安維持のために騎士団が総出で巡回してるって誰かが言ってたっけ。

 しかも、目の前の騎士はかなりイケメンだった。
 制帽を目深に被ってはいるが、頭一つ低いタリアからははっきりと見えた。
 黒のまつ毛が縁取る赤い眼が驚きにみはられている。

 そして感じるのは恋の予感──などではなくて。

(けっ! イケメン騎士様はさぞおモテになるんでしょうね!)

 なんと、やさぐれていた。

「大丈夫ですか?」

(大丈夫なわけないじゃない! こちとら振られたばっかだっての!)

 振られたのか振ったのかよく分からない状況だったが、昨日のあの状況は振られたに等しいと思う。

 そういえばリュシーもそれなりにイケメンだった。どこぞの貴族のお嬢さんを誑し込むのに困らないくらいには。

 目の前の騎士が悪いわけではない。悪いわけではないが──。

(男なんてみんな一緒よ! イケメンなんてクソ喰らえだ!)

「あの……?」

 なおも言葉を返さないタリアに戸惑ったように声をかけるイケメン騎士。

「……あら、ごめんなさい! 帽子が歪んでしまったみたいですわね」

「えっ……あっ!」

 戸惑う騎士にタリアはすっと手を伸ばして、彼の制帽を手直しする。

「失礼しました、オホホホホホ……!」

 高笑いをしながら、ポカンとした騎士を置き去りにして去ってやった。
 口を半開きにした姿も様になるとは、イケメン恐るべし。

 そして、タリアの手に握られていたはずの星花は姿を消していた。

(おほほ! 赤い星花を帽子に差してやったわ! 誰にも声をかけられずに落ち込めばいいのよ! イケメンなんて滅びろ!)

 赤い星花は恋人ありの印──身につけていれば、十中八九声を掛けられないだろう。

 建国祭で、白や赤い花をつけた者に異性が声をかけるのはマナー違反だからだ。なりふり構わない強メンタルの持ち主なら分からないが。

 あのイケメン度合いならば普段からモテモテだろうし、今日くらい声を掛けられなくても大したダメージではないだろう。

(こちとら再起不能だっての!)

 もちろん、ただの八つ当たりであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】お父様、こんな男を婚約者として紹介するなんて、恨みますわよ?物理的に…

BBやっこ
恋愛
貴族令嬢の婚約ちは、家同士の繋がりを強化する事。 幸せを勝ち取ってみせる! そんな気合いと反比例に、碌な男を紹介してくれない父親に 薔薇の花びらのような…を贈ろうか。 キレた。

処理中です...