上 下
98 / 100
イザークの初恋

もう一人の幼馴染

しおりを挟む
 イザークの初恋相手はリアである。
 リアは同じ村で育った一歳下の幼馴染。
 妹のようだが、時に姉のようにしっかりした少女だ。
 
 帝国の西のはずれにある寂れた田舎で暮らし、物心つく前から共にいた。
 近所に他に子供がおらず、草原と海が広がる村で、いつもふたり遊んでいた。
 
 きっと大きくなっても一緒にいるだろう。
 イザークは、将来リアと結婚すると子供ながらに考えていた。
 仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしていたから。
 
 ──しかしある日、村にもう一人子供がやってきた。
 塔がそびえる敷地に引っ越してきたのだ。
 
 いつもより遠出し、リアと遊んでいると塔の窓から外を眺めているその少年を見つけた。
 走っていたリアは立ち止まって、塔を仰いだ。

「この間引っ越してきたひとね?」
「そうだな。──行ってみる?」
「うん」

 気になって、二人で塔の傍に近寄ってみた。

「こんにちは」 
 
 少年に声をかけると、彼は塔からじっとこちらを見ながら返事をした。

「こんにちは」

 リアは明るく名乗る。

「私、リアっていうの!」

 リアの隣でイザークも名を告げた。

「俺はイザーク」

 リアは興味津々で少年に訊く。

「あなたの名前は?」

 少年は金の髪をさらさら揺らせて、答えた。

「パウル」

 少年──パウルもこちらに関心をもっているようだったので、イザークは誘ってみた。

「外に出てきて、一緒に遊ばないか?」
「うん、遊ぼう!」

 リアが続いて言う。
 しかしパウルは表情を曇らせ、かぶりを振った。

「僕はここから出てはいけないから」

(出てはいけない……)

 どうしてだろう。
 彼に話を聞いてみれば、親戚と暮らしており、どうやら許可なく勝手に外に出られないらしい。
 厳しい家だ。
 のどかな田舎で、危険などないのに。

(まあ、崖とかは近寄ると危ないけど)

 それからも、イザークとリアは塔まで行き、パウルの親戚に見つからないように彼と話すようになった。
 


◇◇◇◇◇



「リア、イザーク」
 
 ある日草原で声がし、後ろを振り返ればパウルが立っていた。

「パウル!」
 
 リアは目をぱちくりとした。

「出てきたの?」
「怒られないか?」
 
 今までは塔の窓越しに会話していた。
 家のひとに彼が注意されるんじゃないかと、リアもイザークも心配した。
 パウルは小さく肩を竦める。

「気付かれると怒られるかも。見つからないように、抜け道を使った。僕も君達と遊びたくて」
 
 リアは眉尻を下げた。

「たいへんなのね……」
 
 パウルは家を出るにも一苦労である。

「見つからないようにしなきゃな」

 イザークが言い、パウルは頷いた。

「うん」
「でもこうして会えて嬉しいわ! 一緒に遊ぼ!」

 パウルは嬉しそうに笑顔になった。
 その後、彼は塔から抜け出して、三人で遊ぶようになった。
 パウルはどこか謎めいていたが性格は良く、同い年なこともあってすぐに仲良くなった。

 

 三人で会うようになり、あるとき気づいた。
 リアがパウルに恋をしたことに。
 嫌でもわかってしまった。ずっとリアを見てきたから。
 パウルを前にそわそわとし、頬が染まったりする。
 
 パウルのほうもリアに恋をしていた。
 好きになったのは、リアよりパウルが先。
 
 でもパウルよりもずっと前に、リアを好きになったのは自分だ。
 出会ったのも先である。
 
 正直、大切なものをとられたように感じた。
 けれどパウルも大事で大好きな友達となっていた。余計に入り組んだ気持ちになった。



 パウルが亡くなったのは、本当に突然だった。
 病で体調を崩して、あっという間に亡くなってしまったのだ。
 
 喪失感で、恋敵がいなくなったというより、友を失った痛みで胸がひりついた。
 つい数日前、三人で過ごしたばかりだったのに──。
 イザークとリアは悲嘆に暮れた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

麗しの勘違い令嬢と不器用で猛獣のような騎士団長様の純愛物語?!

miyoko
恋愛
この国の宰相であるお父様とパーティー会場に向かう馬車の中、突然前世の記憶を思い出したロザリー。この国一番の美少女と言われる令嬢であるロザリーは前世では平凡すぎるOLだった。顔も普通、体系はややぽっちゃり、背もそこそこ、運動は苦手、勉強も得意ではないだからと言って馬鹿でもない。目立たないため存在を消す必要のないOL。そんな私が唯一楽しみにしていたのが筋肉を愛でること。ボディビルほどじゃなくてもいいの。工事現場のお兄様の砂袋を軽々と運ぶ腕を見て、にやにやしながら頭の中では私もひょいっと持ち上げて欲しいわと思っているような女の子。せっかく、美少女に生まれ変わっても、この世界では筋肉質の男性がそもそも少ない。唯一ドストライクの理想の方がいるにはいるけど…カルロス様は女嫌いだというし、絶対に筋肉質の理想の婚約相手を見つけるわよ。 ※設定ゆるく、誤字脱字多いと思います。気に入っていただけたら、ポチっと投票してくださると嬉しいですm(_ _)m

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨
恋愛
運命とは滅多に会えない、だからこそ愛おしい。 私の運命の人は、王子様でした。しかも知ったのは、隣国の次期女王様と婚約した、という喜ばしい国としての瞬間。いくら愛と運命の女神様を国教とするアネモネス国でも、一般庶民の私が王子様と運命を紡ぐなどできるだろうか。私の胸は苦しみに悶える。ああ、これぞ初恋の痛みか。 さて、どうなるこうなる? ※悲恋あります。 三度目の正直で多分ハッピーエンドです。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...