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オスカーの秘密
ジークハルトの嫉妬(後編)
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起こそうと思った。けれど、こんな状態で彼が目覚めてしまえば──。
(気まずすぎる)
それでなくとも先日から、気恥ずかしい状況だというのに。
彼の寝息がし、リアの耳が朱に色づく。
どうすればいいかわからず、固まっていたが彼の手が緩んだときを見計らってそっと離れた。
起こさないように気を付けつつ、ジークハルトを背もたれに寄り掛からせる。
途端、ジークハルトが瞼を持ち上げた。
「……? リア」
あどけなさを感じるジークハルトの寝起き。リアはどきりとし、頬が染まる。
「どうした」
「な、何でもありませんわ」
なぜだか後ろめたさのようなものを覚える。寝起きのジークハルトは可愛かった。
彼は金色の髪をかきあげる。
「オレは眠っていたのか……」
「お疲れなのでしょう」
彼はふと眉を動かした。
「オレは何か言ったり、したりしたか」
「いえ……」
さっき何か言っていた気がするけれど……聞き取れなかった。抱きしめるように手を握りしめられたが、彼は覚えていないし……なかったことにしよう。リアはそう決めた。
「そうか」
ジークハルトの表情が安堵したように和らぐ。
「お部屋で休まれたほうがよろしいですわ」
「いや、大丈夫だ」
彼は自身の眉間に指を置く。
「……しかしこのままいると理性がもたないな……」
「?」
彼は長椅子から身を起こし、溜息をつく。
「オレは執務に戻る」
その言葉にリアはほっとする。頷いて立ち上がった。
「では私は帰ります」
そしてリアは彼と建物から出て、外回廊を歩いた。通り抜ける風が、火照った頬を冷やしてくれる。
別れ際、ジークハルトはリアに向き合って言った。
「次の夜会では共に花火を見よう、リア」
「……はい」
花火が上がる日は……前世でも今生でも──感情が大きく動いた。
前世は婚約破棄され。今生はそのことを思い出し。
(…………)
心の奥が痛みに疼く。
彼との時間の終わりは迫っていた。
※※※※※
彼女に何もしていなかったようだ。
ジークハルトは執務室に入って大きく息を吐き出した。
(良かった)
いつもリアを気にかけているジークハルトだが、先日のことがあってから更に彼女のことを考えるようになってしまった。
どうにかなりそうで、執務に打ち込んだ。
『星』術者のためか近頃、頭痛や眩暈がよく起きていたが、それに加え日々の執務によって疲労が蓄積していた。
それでリアといたのに眠ってしまった……。
(オレは何をしているんだ……)
自分自身に激しく苛立つ。
あのままいれば、リアに何かしてしまいそうだったから。仕方なく彼女と離れるよりなく。
先程の夢──誰かはわからなかったものの、誰かがリアの傍にいたので、それに嫉妬したジークハルトは、その人物からリアを奪い取って抱きしめた。
目覚めたとき、夢でのリアの感触が掌に残っている気もした。
(本当にオレはどうかしている……)
次に彼女と会うときは、気を付けなくては。二人きりで花火を見るのだから。
花火──。
以前、リアは花火を見て泣いたことがあった。
きれいで、それで泣いたのだと彼女は話していたが。
哀しげで、ジークハルトはそのときひどく慌て、心配した。
自分はリアを泣きそうな表情にさせてしまう。この間も、先程も。
大切にしたかった。リアを誰よりも。
リアの笑顔が好きだ。彼女を哀しませたり、傷つけたりなどしたくない……。
花火が上がる次の夜会では笑顔をみたい。
リアを笑顔にさせたい。ジークハルトはそう思った。
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