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オスカーの秘密

未来の花嫁

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 その肖像画は、一階奥の部屋に飾ってあった。
 少女時代の叔母を描いた絵。
 オスカーはそれを見るのが好きだった。
 
 陶器のような肌に、プラチナブロンドの髪、紫色の瞳。
 菫色のドレスを着ていて透明感があり凛としている。

(会ってみたかったな)
 
 叔母は月の女神と称されるほどの美貌で、現皇帝の元婚約者だった。
 自分が生まれる前に、残念ながら叔母は屋敷を出てしまい、今はいない。
 
 家令の息子と逃げたらしい。
 この屋敷に代々仕えている家系の者。執事をしていた男だ。
 父曰く、執事が叔母をそそのかしたようだ。
 今も捜索中だが、見つかっていない。
 
 肖像画を見るたび、心が惹きこまれる。
 真面目で勤勉だったという執事が、連れ去ることを決意したのも、オスカーはわからなくもなかった。
 こんな少女が傍にいれば、くるってしまいそうなものだ。
 
 オスカーは時間が空けば、その部屋に足を運んだ。
 そしてある日、ひとつのことに気づいた。
 
 壁の一部分に触れれば、可動式の棚が動き、奥には地下室への隠れ扉が存在していることに。
 鍵がかかっていたが、針金で開けることができた。
 好奇心から階段を下りた。
 
 地下は通気口があって、ひっそりとし、薄暗くて広かった。
 何も置かれていなかったが、必要なものを持ち込めば、生活できそうだ。
 
 屋敷の誰も地下室のことを知らなかった。
 そこはオスカーの秘密の場所となった。



◇◇◇◇◇



 ある晴れた日、オスカーと弟のカミルは父に告げられた。

「妹の娘を引き取ることにした」
 
 父の妹──ということは、あの肖像画の少女である。

「叔母上が屋敷に来るのですか!?」

 オスカーは興奮した。
 実物に会える。
 歓喜したが、父は悄然とかぶりを振った。

「いや。妹は亡くなった。来るのは妹の娘だけだ。父親が他界し、姪は天涯孤独なのだ」
 
 オスカーは落ち込み、喪失感に包まれた。
 叔母は亡くなってしまったのか……。
 ずっと父はひとを使って捜していたし、いつか会いたい、会えると思っていた。
 なのに。
 
 カミルもショックを受けている。
 弟もあの絵を気に入っている。
 
「大切な妹の忘れ形見。リアという名だ。引き取って、養女とすることに決めた。オスカー、カミル、おまえたちの妹となる。仲良くするのだぞ」
 
 叔母の娘。
 オスカーはすぐに頷いた。

「わかりました」

(少しでも面影があればいいな)
 
 だが叔母の血を引いていても、別個の違う人間だ。
 興味を抱いたが、そのときそれほど期待していたわけではなかった。
 
 
 
 いとこは数日後、屋敷にやってきた。
 父に呼ばれ、居間に入ったオスカーとカミルは瞠目した。

「え……!?」
 
 肖像画とそっくりな少女が、そこにいた。

「おまえ達に、話しただろう。新しい家族となるリアだ」

 予想だにしていなかった。
 まさか、これほどまでに叔母と瓜二つとは……。

「……彼女が私の妹になる少女……」
 
 オスカーはこくりと喉を鳴らす。
 リアを見つめながら、引き寄せられるように傍に寄った。
 少女は緊張していた。
 オスカーも驚きすぎて緊張を覚えた。

「はじめまして、リア……! これからよろしく」
 
 可愛い少女に手を差し出す。

「お兄様、これからよろしくお願いします。リアです」

 恥ずかしそうにリアはオスカーと握手をした。
 小さくて柔らかな手だった。
 今まで生きてきたなかで、これほどどきどきしたのははじめてだ。

「お兄様、とリアに呼ばれるの、すごく嬉しい……」

(絵の中から飛び出してきたみたいだ……!)

 心惹かれていた少女が、実際に目の前に現れた!
 人生にこんな幸運があるとは。
 鼓動が早まり、オスカーは高揚した。
 
(この少女の兄となる)
 
 リアを大切にするのだ、一生。
 結婚すると、即、決意した。
 出会いに感激していれば、カミルがリアの手を両手で握った。

「ぼく、姉上と早く打ち解けてすっごく仲良くなりたい! 敬語もよそよそしくするのもやめてね」
 
 弟の眼差しは熱い。オスカーは眉をひそめた。
 弟もリアに好意を抱いたのだと、すぐわかった。
 カミルの手を離させる。

(私のものに触れるんじゃない)

「いつまで握っているんだ、カミル。リアが困っている。リア、私を本当の兄だと思って接してくれるかい。私も実の兄として接するから」

 今は兄として。
 将来は伴侶として──。

「はい」
 
 リアは頷いた。
 その日から、オスカーの未来の花嫁は、妹になった。
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