89 / 100
第一部
番外編 繋いだ手(後編)
しおりを挟む
「これくらいなんともないわ」
リアが立ち上がろうとすると、パウルはそれを制した。
「駄目だよ、リア。僕の背に乗って。家まで送るから」
「え?」
ただ膝を擦りむいただけだ。
「私、歩けるわ、パウル」
「いけないよ。ほら」
リアは戸惑ったけれど、パウルに促がされ、その肩に手をのせた。
彼はリアを背中に担ぎ、歩き出す。
リアは彼に後ろからしがみつく形で、頬に熱が上がった。
「ごめんなさい……パウル」
「僕こそ、ごめんね。一緒にいて、君に怪我をさせてしまった……」
別にパウルが悪い訳ではないのに、彼は謝る。
(心配をかけちゃった……)
リアは彼に申し訳なく思った。
パウルは心配性だ。それに過保護である。
彼のぬくもりは、あたたかくて。とても安心感を覚える。
父に感じるものと似ているけれど、全く違う感情を抱く。
パウルといると、リアはとてもどきどきする。
そのときはじめて、リアはパウルに恋をしていると自覚したのだ。
(……私……パウルのことが、一番好き)
◇◇◇◇◇
「どうした、リア?」
隣のジークハルトが、リアの顔を覗き込む。
リアは口元が綻んだ。
「昔のことを思い出して」
リアは今、ジークハルトと二人で旅行をしている。
ヴァンと会うために帝都を出、故郷の村を先に訪れた。
「あなたに背負われ、家まで送ってもらったときのこと」
ジークハルトは懐かしそうに、ふっと眼差しを和らげる。
「そういえば、あったな。そんなこと。海を見た帰り、二人で駆けて、君が怪我をして。オレは慌てたよ」
リアは微笑んだ。
「ええ」
その日、初恋にリアは気づいた。
(本当に懐かしい)
一緒によく遊んだ草原で、あの日のようにジークハルトと、空を眺めている。
精霊王の件で来たときは、ジークハルトの記憶はまだ戻っていなかった。
それに加えて、緊急事態でもあった。
それで今回、再度立ち寄り、ゆっくり過ごすことにしたのだ。
初恋相手の婚約者と共にいられることを、リアは心の底から幸せに思う。
こんな今を、少し前までは考えられなかった……。
夢でもみているのではないかと、感じるほどだ。
(そうだ)
リアは立ち上がり、彼にかけっこをしようと言った。
「かけっこを?」
ジークハルトは面食らったように、目を瞬く。
リアは、ええ、と頷いた。
「昔のように。手は抜かず、どうか真剣勝負で!」
彼は唇に笑みを漂わせる。
「わかった。いいよ」
それで二人は丘の木に向かって駆けだした。
※※※※※
「……昔も勝てなかったけれど、今もやっぱり勝てなかった」
リアは残念そうに溜息を吐き出す。
そんな彼女にジークハルトは苦笑した。
「かけっこでは、ね」
リアの頬にかかる髪を指で払い、頭を撫でる。
手加減すると怒られそうなので、手を抜かず走ったが、リアは驚くくらい足が早かった。
「オレもイザークも一生敵わないよ、リアには」
「どうして?」
大好きな相手には、絶対敵わないからだ。
リアが想う以上に、昔から彼女を想っている。
ジークハルトはリアに作り方を教えてもらって、花の冠を作った。
それをリアの頭に載せると、彼女はこぼれんばかりの笑顔をみせた。
可憐なリアは、まるで花の精である。
ジークハルトはリアを眩しい思いで見つめた。
草原で彼女と横になって話をしていたが、いつの間にか、幼い頃のように二人とも眠りにおちていた。
目を覚ましたとき、隣にリアがいて、ジークハルトは安堵する。
彼女と手を繋いだまま眠っていた。
「リア……」
切なく、彼女を眺める。
彼女は子供のころ、父親のような相手と結婚したいと言っていたが、自分は──。
(どう考えても真逆だ……)
ジークハルトとして出会った当初から。
威圧感のある気性の荒い、冷たい人間にはならない、とパウルであったとき決意したのに。
記憶を植え付けられたなど、言い訳にしかならない。
リアを傷つけてしまって、悔恨の念に堪えない。
こうして共にいられる幸運に、ジークハルトは感謝した。
昔、リアに求婚したときのように、彼女の手にそっと口づける。
この手を、離しはしない。
今まで、辛い思いをさせた分、誰よりも幸せにする。
「愛している」
ジークハルトは彼女と手を繋いだまま、再度眠りにつく。
次に瞳を開けたときも、リアがいるように。
幸せなこの時間が、夢ではないようにと願いながら──。
リアが立ち上がろうとすると、パウルはそれを制した。
「駄目だよ、リア。僕の背に乗って。家まで送るから」
「え?」
ただ膝を擦りむいただけだ。
「私、歩けるわ、パウル」
「いけないよ。ほら」
リアは戸惑ったけれど、パウルに促がされ、その肩に手をのせた。
彼はリアを背中に担ぎ、歩き出す。
リアは彼に後ろからしがみつく形で、頬に熱が上がった。
「ごめんなさい……パウル」
「僕こそ、ごめんね。一緒にいて、君に怪我をさせてしまった……」
別にパウルが悪い訳ではないのに、彼は謝る。
(心配をかけちゃった……)
リアは彼に申し訳なく思った。
パウルは心配性だ。それに過保護である。
彼のぬくもりは、あたたかくて。とても安心感を覚える。
父に感じるものと似ているけれど、全く違う感情を抱く。
パウルといると、リアはとてもどきどきする。
そのときはじめて、リアはパウルに恋をしていると自覚したのだ。
(……私……パウルのことが、一番好き)
◇◇◇◇◇
「どうした、リア?」
隣のジークハルトが、リアの顔を覗き込む。
リアは口元が綻んだ。
「昔のことを思い出して」
リアは今、ジークハルトと二人で旅行をしている。
ヴァンと会うために帝都を出、故郷の村を先に訪れた。
「あなたに背負われ、家まで送ってもらったときのこと」
ジークハルトは懐かしそうに、ふっと眼差しを和らげる。
「そういえば、あったな。そんなこと。海を見た帰り、二人で駆けて、君が怪我をして。オレは慌てたよ」
リアは微笑んだ。
「ええ」
その日、初恋にリアは気づいた。
(本当に懐かしい)
一緒によく遊んだ草原で、あの日のようにジークハルトと、空を眺めている。
精霊王の件で来たときは、ジークハルトの記憶はまだ戻っていなかった。
それに加えて、緊急事態でもあった。
それで今回、再度立ち寄り、ゆっくり過ごすことにしたのだ。
初恋相手の婚約者と共にいられることを、リアは心の底から幸せに思う。
こんな今を、少し前までは考えられなかった……。
夢でもみているのではないかと、感じるほどだ。
(そうだ)
リアは立ち上がり、彼にかけっこをしようと言った。
「かけっこを?」
ジークハルトは面食らったように、目を瞬く。
リアは、ええ、と頷いた。
「昔のように。手は抜かず、どうか真剣勝負で!」
彼は唇に笑みを漂わせる。
「わかった。いいよ」
それで二人は丘の木に向かって駆けだした。
※※※※※
「……昔も勝てなかったけれど、今もやっぱり勝てなかった」
リアは残念そうに溜息を吐き出す。
そんな彼女にジークハルトは苦笑した。
「かけっこでは、ね」
リアの頬にかかる髪を指で払い、頭を撫でる。
手加減すると怒られそうなので、手を抜かず走ったが、リアは驚くくらい足が早かった。
「オレもイザークも一生敵わないよ、リアには」
「どうして?」
大好きな相手には、絶対敵わないからだ。
リアが想う以上に、昔から彼女を想っている。
ジークハルトはリアに作り方を教えてもらって、花の冠を作った。
それをリアの頭に載せると、彼女はこぼれんばかりの笑顔をみせた。
可憐なリアは、まるで花の精である。
ジークハルトはリアを眩しい思いで見つめた。
草原で彼女と横になって話をしていたが、いつの間にか、幼い頃のように二人とも眠りにおちていた。
目を覚ましたとき、隣にリアがいて、ジークハルトは安堵する。
彼女と手を繋いだまま眠っていた。
「リア……」
切なく、彼女を眺める。
彼女は子供のころ、父親のような相手と結婚したいと言っていたが、自分は──。
(どう考えても真逆だ……)
ジークハルトとして出会った当初から。
威圧感のある気性の荒い、冷たい人間にはならない、とパウルであったとき決意したのに。
記憶を植え付けられたなど、言い訳にしかならない。
リアを傷つけてしまって、悔恨の念に堪えない。
こうして共にいられる幸運に、ジークハルトは感謝した。
昔、リアに求婚したときのように、彼女の手にそっと口づける。
この手を、離しはしない。
今まで、辛い思いをさせた分、誰よりも幸せにする。
「愛している」
ジークハルトは彼女と手を繋いだまま、再度眠りにつく。
次に瞳を開けたときも、リアがいるように。
幸せなこの時間が、夢ではないようにと願いながら──。
25
お気に入りに追加
1,467
あなたにおすすめの小説
麗しの勘違い令嬢と不器用で猛獣のような騎士団長様の純愛物語?!
miyoko
恋愛
この国の宰相であるお父様とパーティー会場に向かう馬車の中、突然前世の記憶を思い出したロザリー。この国一番の美少女と言われる令嬢であるロザリーは前世では平凡すぎるOLだった。顔も普通、体系はややぽっちゃり、背もそこそこ、運動は苦手、勉強も得意ではないだからと言って馬鹿でもない。目立たないため存在を消す必要のないOL。そんな私が唯一楽しみにしていたのが筋肉を愛でること。ボディビルほどじゃなくてもいいの。工事現場のお兄様の砂袋を軽々と運ぶ腕を見て、にやにやしながら頭の中では私もひょいっと持ち上げて欲しいわと思っているような女の子。せっかく、美少女に生まれ変わっても、この世界では筋肉質の男性がそもそも少ない。唯一ドストライクの理想の方がいるにはいるけど…カルロス様は女嫌いだというし、絶対に筋肉質の理想の婚約相手を見つけるわよ。
※設定ゆるく、誤字脱字多いと思います。気に入っていただけたら、ポチっと投票してくださると嬉しいですm(_ _)m
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない
亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ
社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。
エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも……
「エマ、可愛い」
いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。
紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」
と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。
攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
【完結】貴族社会に飽き飽きした悪役令嬢はモブを目指すが思わぬ事態に遭遇してしまう
hikari
恋愛
クララは王太子と婚約していた。しかし、王太子はヴァネッサというクララのクラスメイトと浮気をしていた。敢え無く婚約は破棄となる。
クララはある日夢を見た。そして、転生者である事や自分が前世プレーしていた乙女ゲーム『今宵は誰と睦まじく』の悪役令嬢に転生していた事を知る。さらに、ヒロインは王太子を奪ったヴァネッサであった。
クララは前世、アラフォー独身社畜だった。前世で結婚できなかったから、今世ではしあわせになると決めた。
所詮、王太子とは政略結婚。貴族社会に嫌気が差し、平民のトールと一緒になろうとしたが、トールは実は原作とは違ったキャラだった。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる