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第一部
美しい竜
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異質なものを魔力で囲うことに集中させる。
ジークハルトはうっすらと瞼を持ち上げた。
「リア……」
「……ジークハルト様」
「……君の魔力か?」
リアは首肯する。
「あなたの中の精霊王を魔力で囲いこんでいます」
ジークハルトは目を閉じ、分離した存在を、移動させていく。
それがストーンへと全て移った瞬間、箱に入れ、かたん、と蓋を閉めた。
魔法陣が空間に浮かび上がり、箱に吸い込まれ跡形なく、一瞬で消えた。
「──封じこめに成功しました」
ヴェルナーが冷や汗を拭って言う。
「ここに来るまでの扉も、その箱も、皇家直系の人間がいなければ反応もしないし、開閉できない仕様なのだと思います。下手に動かすより、ここにこのまま置いていたほうが危険はないでしょう。誰にも触れることはできないのですから」
しかしリアは不安に思った。
またジークハルトの中に入ってしまえばと心配だ。
「封じたストーンごと、私の魔物なら消滅させることができるかもしれません。国内には入ってこられないので、国外に一度出なければなりませんが、ここからなら、時間はかかりませんわ」
◇◇◇◇◇
それで四人は村から離れ、国外を目指した。
帝国領を出れば、リアはすぐ魔物を呼んだ。
「ヴァン!」
すると今まで幾ら呼んでも現れなかった魔物が上空を旋回し、リアの前に姿をみせた。
四本の足に、背には大きな翼をもつ、銀の竜。
翼の動きと共に、緑豊かな平原に風が起きる。
「ヴァン、来てくれてありがとう!」
「リアが呼べば来るよ」
「あれから大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。あの男に国外に弾き飛ばされてしまったけどね」
ヴァンはそう言って、ジークハルトを睨む。
元気そうだ。
リアは安心した。
「んん? あれれ? リアの前世の旅の友もいる?」
ヴァンはヴェルナーを見て、目をくるりと動かした。
三人は、何もない空間で話をしているリアに呆気にとられている。
イザークがリアに尋ねた。
「リア……そこに何かいるわけ?」
「ええ、私の魔物が」
ヴェルナーが感嘆したように呟く。
「すげぇ巨大な力は感じるけどな」
「ヴァン、姿を皆に見せてくれるかしら」
「いいよ」
リアの目にも、少し透明がかっていたヴァンの姿が鮮やかになり、はっきりと輪郭をもった。
三人は喉を鳴らした。
「──とても美しい魔物だな……。美しいほど、位が高い。非常に高位だ」
ジークハルトがヴァンを凝視して言う。魔物は高位なものほど、美しいのだ。
ヴァンを褒められて、リアは嬉しかった。
リアはヴァンに会ったら、最初に謝ろうと思っていた。
「あなたに前世で頼んだこと、私、本当にひどいことだったと深く反省したわ。ごめんなさい」
「うん、そうだよ! 本当に君はひどいひとだよ。一緒に冒険しようとも言ったのにね!」
「ごめんね、それもできそうにないわ」
ヴァンはしゅんとして項垂れた。
「ひどい……!」
リアはヴァンを撫でて、時間をかけて宥めた。
機嫌が治ったヴァンに話す。
「あのね、あなたにお願いがあるの」
「なあに?」
ジークハルトが、四角い箱をヴァンの前に差し出して言った。
「この中にあるストーンに、精霊王を封じた。それを消滅させてほしいんだ」
「ヴァン、お願い」
しかしヴァンは、困ったようにぷるんと首を横に振った。
「できない。精霊王を消滅させることは、この世界の誰にもできないよ」
ジークハルトはうっすらと瞼を持ち上げた。
「リア……」
「……ジークハルト様」
「……君の魔力か?」
リアは首肯する。
「あなたの中の精霊王を魔力で囲いこんでいます」
ジークハルトは目を閉じ、分離した存在を、移動させていく。
それがストーンへと全て移った瞬間、箱に入れ、かたん、と蓋を閉めた。
魔法陣が空間に浮かび上がり、箱に吸い込まれ跡形なく、一瞬で消えた。
「──封じこめに成功しました」
ヴェルナーが冷や汗を拭って言う。
「ここに来るまでの扉も、その箱も、皇家直系の人間がいなければ反応もしないし、開閉できない仕様なのだと思います。下手に動かすより、ここにこのまま置いていたほうが危険はないでしょう。誰にも触れることはできないのですから」
しかしリアは不安に思った。
またジークハルトの中に入ってしまえばと心配だ。
「封じたストーンごと、私の魔物なら消滅させることができるかもしれません。国内には入ってこられないので、国外に一度出なければなりませんが、ここからなら、時間はかかりませんわ」
◇◇◇◇◇
それで四人は村から離れ、国外を目指した。
帝国領を出れば、リアはすぐ魔物を呼んだ。
「ヴァン!」
すると今まで幾ら呼んでも現れなかった魔物が上空を旋回し、リアの前に姿をみせた。
四本の足に、背には大きな翼をもつ、銀の竜。
翼の動きと共に、緑豊かな平原に風が起きる。
「ヴァン、来てくれてありがとう!」
「リアが呼べば来るよ」
「あれから大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。あの男に国外に弾き飛ばされてしまったけどね」
ヴァンはそう言って、ジークハルトを睨む。
元気そうだ。
リアは安心した。
「んん? あれれ? リアの前世の旅の友もいる?」
ヴァンはヴェルナーを見て、目をくるりと動かした。
三人は、何もない空間で話をしているリアに呆気にとられている。
イザークがリアに尋ねた。
「リア……そこに何かいるわけ?」
「ええ、私の魔物が」
ヴェルナーが感嘆したように呟く。
「すげぇ巨大な力は感じるけどな」
「ヴァン、姿を皆に見せてくれるかしら」
「いいよ」
リアの目にも、少し透明がかっていたヴァンの姿が鮮やかになり、はっきりと輪郭をもった。
三人は喉を鳴らした。
「──とても美しい魔物だな……。美しいほど、位が高い。非常に高位だ」
ジークハルトがヴァンを凝視して言う。魔物は高位なものほど、美しいのだ。
ヴァンを褒められて、リアは嬉しかった。
リアはヴァンに会ったら、最初に謝ろうと思っていた。
「あなたに前世で頼んだこと、私、本当にひどいことだったと深く反省したわ。ごめんなさい」
「うん、そうだよ! 本当に君はひどいひとだよ。一緒に冒険しようとも言ったのにね!」
「ごめんね、それもできそうにないわ」
ヴァンはしゅんとして項垂れた。
「ひどい……!」
リアはヴァンを撫でて、時間をかけて宥めた。
機嫌が治ったヴァンに話す。
「あのね、あなたにお願いがあるの」
「なあに?」
ジークハルトが、四角い箱をヴァンの前に差し出して言った。
「この中にあるストーンに、精霊王を封じた。それを消滅させてほしいんだ」
「ヴァン、お願い」
しかしヴァンは、困ったようにぷるんと首を横に振った。
「できない。精霊王を消滅させることは、この世界の誰にもできないよ」
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