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第一部
はじまりの場所へ2
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イザークはジークハルトに向き直り、礼をする。
次にヴェルナーが入室して、初対面の彼らをリアはそれぞれ紹介したあと本題に入った。
「イザークに大事な話があって」
「何?」
「パウルは亡くなっていなかったの」
「え……」
ジークハルトがパウルだったと告げると、イザークは呆然とし、くしゃっと髪をかきあげた。
「確かに……殿下は、パウルにそっくりだったが……」
すべてのことを話せば、彼は最初、信じられないといったように絶句したが、徐々に顔つきは真剣なものとなっていった。
「……正直驚きすぎて、すぐには理解できない。……けど、でたらめを言っているわけじゃないっていうのはわかる」
「イザークはあの当時から、何か変わったことはない? 私達はそれぞれ、異変があったの」
彼は首を左右に振る。
「いや、俺は何もないけど。あのとき体調が少し悪くなっただけでさ」
「彼は、『光』魔力の『明』寄りだ。外部からの影響を受けにくい。魂は綺麗だし、問題はない」
ヴェルナーの言葉に、リアとジークハルトはほっとした。
「え……?」
イザークはぽかんとする。
「ヴェルナーは術者のオーラが見えるのよ」
「そういや今、魔術探偵って紹介受けたな……」
イザークは納得したように息をつき、両腕を組む。
「じゃ、村に行き、あのときのストーンに精霊王を封じれば、いいってこと?」
「ええ。そうよ」
「わかった、俺も行く」
ヴェルナーの怪我はすでに快復していたので、リアは彼ら三人と、生まれ育った村へと向かった。
◇◇◇◇◇
数年ぶりに訪れた村は、外界から隔離されたように、のどかだった。
昔よく遊んだ草原には陽の光が輝き、色とりどりの花が咲いて、蝶が舞っている。
「懐かしいな」
「本当に」
イザークもリアも顔を綻ばせた。
(昔、パウルとイザークとここでよく遊んだわ)
風景画になりそうなくらい美しい。リアは感慨深く、切なさが胸にこみあげた。
ジークハルトは目を細めて、辺りを眺めていた。
リアの両親と、イザークの母の墓参りをし、以前パウルが暮らしていた場所まで赴いた。
四人は馬から降りる。
「今は誰も住んでねーようだな」
そう呟いてヴェルナーは口角を上げる。
「好都合だ」
閉ざされていた門の鍵を、ヴェルナーは手際よく壊した。
敷地内に入れば、最初に、まっすぐに伸びた塔へと目がいった。
パウルが暮らしていた塔。
ジークハルトは沈黙し、眉を寄せている。
彼はまだ幼少時の記憶を取り戻していなかった。
敷地の奥にある、独特の雰囲気を放っている建物へと近づく。
傍には地下への階段が、あの日のまま存在していた。
イザークがランタンを手に、先頭に立って階段を降りた。
リアはこくんと息を呑みこむ。
皆、緊張していた。
下まで降りて、通路をしばらく歩くと、幼い頃にみた扉がある。魔法陣が描かれていた。
恐ろしさと懐かしさを同時に感じる。
「魔法で鍵がかけられていて」
リアが言うと、ジークハルトは扉に手を置いた。
魔力を解放する。
その場が光り、扉の模様は色を帯び、ゆっくりと開いた。
前は、三人で扉に触れたけれど、今回はジークハルト一人だ。
室内に入った途端、ジークハルトは頭を押さえ、呻いた。
「…………っ!」
「ジークハルト様……!?」
「……少し頭痛がしただけだ。心配ない」
彼の顔色は良くない。
リアは気にかかったが、ジークハルトは毅然と前を見据えた。
次にヴェルナーが入室して、初対面の彼らをリアはそれぞれ紹介したあと本題に入った。
「イザークに大事な話があって」
「何?」
「パウルは亡くなっていなかったの」
「え……」
ジークハルトがパウルだったと告げると、イザークは呆然とし、くしゃっと髪をかきあげた。
「確かに……殿下は、パウルにそっくりだったが……」
すべてのことを話せば、彼は最初、信じられないといったように絶句したが、徐々に顔つきは真剣なものとなっていった。
「……正直驚きすぎて、すぐには理解できない。……けど、でたらめを言っているわけじゃないっていうのはわかる」
「イザークはあの当時から、何か変わったことはない? 私達はそれぞれ、異変があったの」
彼は首を左右に振る。
「いや、俺は何もないけど。あのとき体調が少し悪くなっただけでさ」
「彼は、『光』魔力の『明』寄りだ。外部からの影響を受けにくい。魂は綺麗だし、問題はない」
ヴェルナーの言葉に、リアとジークハルトはほっとした。
「え……?」
イザークはぽかんとする。
「ヴェルナーは術者のオーラが見えるのよ」
「そういや今、魔術探偵って紹介受けたな……」
イザークは納得したように息をつき、両腕を組む。
「じゃ、村に行き、あのときのストーンに精霊王を封じれば、いいってこと?」
「ええ。そうよ」
「わかった、俺も行く」
ヴェルナーの怪我はすでに快復していたので、リアは彼ら三人と、生まれ育った村へと向かった。
◇◇◇◇◇
数年ぶりに訪れた村は、外界から隔離されたように、のどかだった。
昔よく遊んだ草原には陽の光が輝き、色とりどりの花が咲いて、蝶が舞っている。
「懐かしいな」
「本当に」
イザークもリアも顔を綻ばせた。
(昔、パウルとイザークとここでよく遊んだわ)
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ジークハルトは目を細めて、辺りを眺めていた。
リアの両親と、イザークの母の墓参りをし、以前パウルが暮らしていた場所まで赴いた。
四人は馬から降りる。
「今は誰も住んでねーようだな」
そう呟いてヴェルナーは口角を上げる。
「好都合だ」
閉ざされていた門の鍵を、ヴェルナーは手際よく壊した。
敷地内に入れば、最初に、まっすぐに伸びた塔へと目がいった。
パウルが暮らしていた塔。
ジークハルトは沈黙し、眉を寄せている。
彼はまだ幼少時の記憶を取り戻していなかった。
敷地の奥にある、独特の雰囲気を放っている建物へと近づく。
傍には地下への階段が、あの日のまま存在していた。
イザークがランタンを手に、先頭に立って階段を降りた。
リアはこくんと息を呑みこむ。
皆、緊張していた。
下まで降りて、通路をしばらく歩くと、幼い頃にみた扉がある。魔法陣が描かれていた。
恐ろしさと懐かしさを同時に感じる。
「魔法で鍵がかけられていて」
リアが言うと、ジークハルトは扉に手を置いた。
魔力を解放する。
その場が光り、扉の模様は色を帯び、ゆっくりと開いた。
前は、三人で扉に触れたけれど、今回はジークハルト一人だ。
室内に入った途端、ジークハルトは頭を押さえ、呻いた。
「…………っ!」
「ジークハルト様……!?」
「……少し頭痛がしただけだ。心配ない」
彼の顔色は良くない。
リアは気にかかったが、ジークハルトは毅然と前を見据えた。
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