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第一部
過去の真実
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「──何?」
皇帝の瞳に尖った光が浮かぶ。
「それはどういった意味だ?」
探るような眼差しに、ジークハルトはまっすぐ向き合う。
「オレは双子として、この世に生を受けたのではありませんか?」
皇帝の顔が強張った。
「双子の片方の皇太子が亡くなったため、急遽、オレがここに呼ばれた。──違いますか?」
皇帝は胡乱な目で問いかける。
「何をもってそんなことを?」
ジークハルトは奥歯を噛み、拳を握りしめる。
「オレは幼少時の記憶が朧げです。皇宮で過ごした記憶はありますが、実感は薄い。オレの今の記憶は操作されたものなのではないのですか? 本来の記憶を消し、皇太子の記憶をオレに植え付けた。占星術師を兼ねた宮廷医師なら、そうすることが可能です」
皇帝は沈黙した。それからしばらくして観念したように、太い息をついた。
「……ああ。おまえはジークハルトではない。本物のジークハルトは病で、八歳で亡くなった。おまえはその双子の弟だ」
ジークハルトもリアも、身に驚愕が走り抜けた。
(やはり……双子……)
「一度、疑問を抱けば、植え付けた記憶は綻び、本来の記憶が戻りはじめる……。おまえが気づいたのなら、隠してみても仕方ない……」
皇帝は苦々しげに机の上で両手を組み合わせ、目を伏せた。
「──皇家において、双子は災いの種だ。
弟のおまえは監視をつけて、帝都から離した。
しかしジークハルトが病で亡くなり、おまえを呼び寄せることになった。私は子孫を残せない身体となっていたからだ。
跡を継ぐ者はおまえしかいなかった。
双子であることは秘密だったため、ジークハルトが亡くなったことは隠した。おまえの以前の記憶を消し、あらたな記憶を植え付けて、ジークハルトとして生きてもらうことにしたのだ。
皇妃は、亡くなったジークハルトを溺愛していたため、同じ顔だが違う人間のおまえを避けるようになった。おまえを見ると、亡くなった息子を思い出すと。
おまえも実の息子であるのに変わりはないのだが」
そういえば、ジークハルトは母親から冷たくされ、愛情を向けられなかったと以前話していた。
兄皇子は母親から愛されたのだろうが、弟の彼自身が経験したのは拒絶だった。
「なぜ、わざわざ記憶を植え付けたのです。皇太子として置くにしても、最初にオレに事情を話し──」
「皇家において、双子は存在してはならぬ! 過去の歴史をみても、争乱が起き、不吉なのだ」
皇帝はそう言い切った。
「おまえにはジークハルトとして、生きてもらわなければならなかった。周囲におかしく思われないよう、ジークハルトの記憶、思考を、おまえに植え付けるしかなかった」
ジークハルトは喘ぐように言葉を発す。
「ではやはりオレは……その前は、リアの暮らしていた村にいたのですね……?」
「おまえを隔離していた村に、まさか彼女がいるとは思ってもみなかった……」
彼女というのは、たぶんリアの母のことだろう。
皇帝の双眸に後悔の色が濃く滲んでいた。
そこに愛情が見え隠れする。
「元の記憶が全て戻るのも、時間の問題だ。だが、おまえには今後もジークハルト・ギールッツとして生きてもらわなければならない。それをしかと肝に銘じろ」
──話は終わり、執務室から出、庭園を歩きながらジークハルトは、リアを見つめた。
「オレは君と幼い頃に知り合っていたのだな……」
「ええ……」
リアは動揺し、ちゃんと彼を見ることができない。
「それが君の初恋の相手か……?」
「……そうですわ」
「そうか……」
初恋の相手だったパウルが、婚約者のジークハルト自身だったのだ──……。
皇帝の瞳に尖った光が浮かぶ。
「それはどういった意味だ?」
探るような眼差しに、ジークハルトはまっすぐ向き合う。
「オレは双子として、この世に生を受けたのではありませんか?」
皇帝の顔が強張った。
「双子の片方の皇太子が亡くなったため、急遽、オレがここに呼ばれた。──違いますか?」
皇帝は胡乱な目で問いかける。
「何をもってそんなことを?」
ジークハルトは奥歯を噛み、拳を握りしめる。
「オレは幼少時の記憶が朧げです。皇宮で過ごした記憶はありますが、実感は薄い。オレの今の記憶は操作されたものなのではないのですか? 本来の記憶を消し、皇太子の記憶をオレに植え付けた。占星術師を兼ねた宮廷医師なら、そうすることが可能です」
皇帝は沈黙した。それからしばらくして観念したように、太い息をついた。
「……ああ。おまえはジークハルトではない。本物のジークハルトは病で、八歳で亡くなった。おまえはその双子の弟だ」
ジークハルトもリアも、身に驚愕が走り抜けた。
(やはり……双子……)
「一度、疑問を抱けば、植え付けた記憶は綻び、本来の記憶が戻りはじめる……。おまえが気づいたのなら、隠してみても仕方ない……」
皇帝は苦々しげに机の上で両手を組み合わせ、目を伏せた。
「──皇家において、双子は災いの種だ。
弟のおまえは監視をつけて、帝都から離した。
しかしジークハルトが病で亡くなり、おまえを呼び寄せることになった。私は子孫を残せない身体となっていたからだ。
跡を継ぐ者はおまえしかいなかった。
双子であることは秘密だったため、ジークハルトが亡くなったことは隠した。おまえの以前の記憶を消し、あらたな記憶を植え付けて、ジークハルトとして生きてもらうことにしたのだ。
皇妃は、亡くなったジークハルトを溺愛していたため、同じ顔だが違う人間のおまえを避けるようになった。おまえを見ると、亡くなった息子を思い出すと。
おまえも実の息子であるのに変わりはないのだが」
そういえば、ジークハルトは母親から冷たくされ、愛情を向けられなかったと以前話していた。
兄皇子は母親から愛されたのだろうが、弟の彼自身が経験したのは拒絶だった。
「なぜ、わざわざ記憶を植え付けたのです。皇太子として置くにしても、最初にオレに事情を話し──」
「皇家において、双子は存在してはならぬ! 過去の歴史をみても、争乱が起き、不吉なのだ」
皇帝はそう言い切った。
「おまえにはジークハルトとして、生きてもらわなければならなかった。周囲におかしく思われないよう、ジークハルトの記憶、思考を、おまえに植え付けるしかなかった」
ジークハルトは喘ぐように言葉を発す。
「ではやはりオレは……その前は、リアの暮らしていた村にいたのですね……?」
「おまえを隔離していた村に、まさか彼女がいるとは思ってもみなかった……」
彼女というのは、たぶんリアの母のことだろう。
皇帝の双眸に後悔の色が濃く滲んでいた。
そこに愛情が見え隠れする。
「元の記憶が全て戻るのも、時間の問題だ。だが、おまえには今後もジークハルト・ギールッツとして生きてもらわなければならない。それをしかと肝に銘じろ」
──話は終わり、執務室から出、庭園を歩きながらジークハルトは、リアを見つめた。
「オレは君と幼い頃に知り合っていたのだな……」
「ええ……」
リアは動揺し、ちゃんと彼を見ることができない。
「それが君の初恋の相手か……?」
「……そうですわ」
「そうか……」
初恋の相手だったパウルが、婚約者のジークハルト自身だったのだ──……。
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