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第一部
止められない
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リアの表情から、婚約破棄について耳にしているようだったから、それを否定した。混乱していたこともあり、脅すような言葉を吐いた。
世界中の人間を殺しても、リアを殺すことなどできない。
リアは呆然として控え室に入っていった。
ジークハルトはそこでメラニーに捕まった。
今回もメラニーが噂を広めた張本人に違いなかった。
今すぐ投獄したいくらいだったが、メラニーの断罪は後だ、それどころではない。
極悪人オスカーが控え室に入室するのがみえたのだ。
リアと婚約破棄しないとメラニーに告げ、控え室に急いで向かった。
室内に入ればリアの隣にオスカーが座っており、かっと頭に血が上るのと同時に、寒気を覚えた。
妹に歪んだ愛をもつこの男のいる場所に、これ以上、一秒たりとも彼女を置いてはおけない。
あの屋敷にリアを戻しはしない。
オスカーは四度のうち二度、リアを監禁し、一度目は殺している。
ジークハルトは控え室から彼女を出し、自室へと連れていった。
彼女にはここで暮らしてもらう。
悲劇に向かわないよう、リアを奪った男達を彼女から離すことも決めた。
オスカー、カミル、イザーク、ローレンツ。
ローレンツは国境付近に赴任させる。彼の祖母が暮らしているとかで、それは彼自身の以前からの希望であったので、即座に叶えてやったまでだ。
リアの兄弟は彼らの父である公爵に留学を勧め、イザークも同様に国外にやった。
(しかし……オレがリアにしていることは、オスカーのした監禁と変わらないのでは?)
頭の片隅でそう思うが、止められない。
リアの契約している魔物に偶然触れ、彼女が『闇』術者として覚醒していることを知った。
皇宮に留め置く理由を彼女には、そのためだと説明している。『闇』術者だからだと。
前世のことを話しても、彼女は信じられないだろう。
もう決して、リアを失いたくはない。
※※※※※
リアはジークハルトの部屋で彼と共に朝食を摂った。
仕切りの扉は、早朝、侍女によって開けられた。
昨晩のことがあり、なんともいえない空気が流れている。
「……ジークハルト様」
彼はこちらにふっと視線を向ける。
リアは勇気を振り絞って言葉にした。
「あの……しばらく、ジークハルト様のお部屋で過ごさせてはもらえないでしょうか?」
彼は片眉を上げる。
「オレの部屋で?」
「そうですわ。……続き部屋も広いのですが、こちらは更にゆったりとしていますし、同じ部屋にずっといるのも気が滅入りますから、気分を変えたくて」
ヴェルナーに会って詳しく話を聞かなくては。それには、廊下に出られるこちらの部屋のほうが脱出しやすいのである。
彼は一拍沈黙し、頷いた。
「わかった」
リアはほっとした。
「ありがとうございます」
「しかし、オレがいないときは念のため外に衛兵をつける」
(え……。衛兵……?)
◇◇◇◇◇
食事後、ジークハルトは執務室に向かった。
リアは一人部屋に残り、しばらくしてからそっと、廊下に繋がる扉を開けてみた。
「いかがなさいましたか?」
(…………)
そこには衛兵がいた。
左右に一人ずつ、計二人。
「……いえ、なんでも」
(本当にいた……)
「……ええと、どうぞ適宜、ご休憩をおとりくださいませ」
「休憩はまだ先です。その際は交代の衛兵がまいります。ご心配なく。リア様のことは必ずお守りいたしますので」
(──ただ監視されているだけな気が……)
「……皇宮内に不審者は現れないと思うのですけれど。ジークハルト様もそうおっしゃっていましたし。守っていただく必要は……」
「確かに不審者が現れることはないでしょう。ですが殿下が戻られるまで控えています。殿下からの命ですので、背くわけにはまいりません」
「……そうですの……」
リアは落胆しつつも、笑顔で礼を言って、ゆっくり扉を閉めた。
(駄目だわ。衛兵はジークハルト様が戻るまで、下がる気配がない……!)
世界中の人間を殺しても、リアを殺すことなどできない。
リアは呆然として控え室に入っていった。
ジークハルトはそこでメラニーに捕まった。
今回もメラニーが噂を広めた張本人に違いなかった。
今すぐ投獄したいくらいだったが、メラニーの断罪は後だ、それどころではない。
極悪人オスカーが控え室に入室するのがみえたのだ。
リアと婚約破棄しないとメラニーに告げ、控え室に急いで向かった。
室内に入ればリアの隣にオスカーが座っており、かっと頭に血が上るのと同時に、寒気を覚えた。
妹に歪んだ愛をもつこの男のいる場所に、これ以上、一秒たりとも彼女を置いてはおけない。
あの屋敷にリアを戻しはしない。
オスカーは四度のうち二度、リアを監禁し、一度目は殺している。
ジークハルトは控え室から彼女を出し、自室へと連れていった。
彼女にはここで暮らしてもらう。
悲劇に向かわないよう、リアを奪った男達を彼女から離すことも決めた。
オスカー、カミル、イザーク、ローレンツ。
ローレンツは国境付近に赴任させる。彼の祖母が暮らしているとかで、それは彼自身の以前からの希望であったので、即座に叶えてやったまでだ。
リアの兄弟は彼らの父である公爵に留学を勧め、イザークも同様に国外にやった。
(しかし……オレがリアにしていることは、オスカーのした監禁と変わらないのでは?)
頭の片隅でそう思うが、止められない。
リアの契約している魔物に偶然触れ、彼女が『闇』術者として覚醒していることを知った。
皇宮に留め置く理由を彼女には、そのためだと説明している。『闇』術者だからだと。
前世のことを話しても、彼女は信じられないだろう。
もう決して、リアを失いたくはない。
※※※※※
リアはジークハルトの部屋で彼と共に朝食を摂った。
仕切りの扉は、早朝、侍女によって開けられた。
昨晩のことがあり、なんともいえない空気が流れている。
「……ジークハルト様」
彼はこちらにふっと視線を向ける。
リアは勇気を振り絞って言葉にした。
「あの……しばらく、ジークハルト様のお部屋で過ごさせてはもらえないでしょうか?」
彼は片眉を上げる。
「オレの部屋で?」
「そうですわ。……続き部屋も広いのですが、こちらは更にゆったりとしていますし、同じ部屋にずっといるのも気が滅入りますから、気分を変えたくて」
ヴェルナーに会って詳しく話を聞かなくては。それには、廊下に出られるこちらの部屋のほうが脱出しやすいのである。
彼は一拍沈黙し、頷いた。
「わかった」
リアはほっとした。
「ありがとうございます」
「しかし、オレがいないときは念のため外に衛兵をつける」
(え……。衛兵……?)
◇◇◇◇◇
食事後、ジークハルトは執務室に向かった。
リアは一人部屋に残り、しばらくしてからそっと、廊下に繋がる扉を開けてみた。
「いかがなさいましたか?」
(…………)
そこには衛兵がいた。
左右に一人ずつ、計二人。
「……いえ、なんでも」
(本当にいた……)
「……ええと、どうぞ適宜、ご休憩をおとりくださいませ」
「休憩はまだ先です。その際は交代の衛兵がまいります。ご心配なく。リア様のことは必ずお守りいたしますので」
(──ただ監視されているだけな気が……)
「……皇宮内に不審者は現れないと思うのですけれど。ジークハルト様もそうおっしゃっていましたし。守っていただく必要は……」
「確かに不審者が現れることはないでしょう。ですが殿下が戻られるまで控えています。殿下からの命ですので、背くわけにはまいりません」
「……そうですの……」
リアは落胆しつつも、笑顔で礼を言って、ゆっくり扉を閉めた。
(駄目だわ。衛兵はジークハルト様が戻るまで、下がる気配がない……!)
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