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第一部

朝まで二人きり2

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「ジークハルト様……」

 冷や汗が滲むと、彼は吐息を零した。

「明日話そうと思っていたが、今、話しておく。自白剤を飲ませたメラニー・クルムが洗いざらい吐いた」
「え……」

 リアははっとする。

「メラニー様が……」
「ああ。彼女は、君の弟に頼まれ、オレに近づいたらしい」
「カミルに頼まれて……!?」

(どういうことなの、それ……!?)

「オレに近づき、婚約が流れるよう動いてほしいと、カミルに言われたらしい。彼女は彼に恋をしていた。自身の野心もあり彼に従ったようだ。噂を流したり、君を突き落とそうとしたり、誘拐を企んだのは彼女の独断だが。君の兄弟がオレ達の結婚を壊そうとしていたのは事実だ」

 リアは喉の奥が詰まる。

「君から極刑に処すのはやめてほしいとの要望があったので、彼女の記憶を消し、侯爵家に引き渡した。侯爵は娘を所領の屋敷に置き、帝都には生涯足を踏み入れさせないと、約束をした。告発した友人は、今後見守り支えたいと、彼女と共に行くと話していた。彼女を愛しているらしい」

 リアはジークハルトの話を呆然と聞いていた。

「カミルはどうして、彼女にそんなことを……」

 どうしても信じられない。
 ジークハルトは、苦々しげに唇を歪めた。

「彼は君のことが好きだからだろう」

(好きだから?)

「それでカミルは、オレ達の邪魔をするよう彼女を唆したんだ」

 リアはかぶりを振る。理解できなかった。

「カミルがそんなことをするなんて……信じられませんわ」

 ジークハルトは眉を顰め、嘲るように続けた。

「弟だけではない。君の兄もだ。そもそも弟に命じたのは兄のオスカーだ」

(お兄様が……)

「どうして……」
「弟と同じ理由だ。君のことが好きだったから、だ」
「私も、兄とカミルのことが好きです。好きだからこそ、そんなことをするなんて信じられません……」
 
 ジークハルトの瞳に濃い影が差した。

「オレは彼らの気持ちがわからないこともない。好きだから、結婚してほしくなかったのだろう」

 リアにはわからなかった。
 だが、ジークハルトが、でたらめを言っているようにもみえなかった。
 本当のことを話しているのだ。

「……兄と弟が関わっていたというのは事実なのですね」
「ああ。直接的にではないし、君に危害を加える気は一切なかっただろうがな」

 リアは動揺する心を懸命に宥め、頭を下げた。

「……申し訳ありませんでした。ご迷惑をおかけして……どうかお許しください」
「君が謝る必要はない」

 リアは顔をあげ、おそるおそる訊いた。

「兄と弟は何らかの処罰を受けるのですか」

 彼は首を左右に振る。

「いや、彼らが海外で学ぶ間に、頭を冷やすことを願っている」

 リアは胸を撫で下ろした。

 ジークハルトは低く押し殺した声で呟いた。

「数十年は帝国に戻す気はないが。もし前のようなことがあれば──そのときは容赦なく、あの男らを抹殺する」
「……え」

 今、彼はなんと言ったのだろうか。声が低すぎて聞こえなかった。
 ジークハルトはリアの頬に触れる。

「それより、リア」

 彼は指でリアの頬をなぞった。

「今後、無暗に夜、同じ部屋で休みたいなどと言うんじゃない。誘っていると思うぞ」

 リアは頬に朱が集い、俯くようにして頷いた。

「申し訳ありません」
「君は寝台で休め。オレが長椅子で眠る」

 皇太子である彼を、それこそ長椅子で休ませるわけにはいかない。

「ジークハルト様、寝台をお使いください。長椅子は私が」
「ではこうしよう」

 彼は髪をさらりと揺らせた。

「寝台を二人で使う。寝台の幅はあるし、二人でも眠れる」
「二人で? それは……」
「オレと眠るのは嫌か? ではオレは長椅子で──」

 リアは目を伏せた。

「……わかりました。ここで二人で眠りましょう」

 一人では広すぎるくらい幅があるから、確かに二人でも充分眠れる。
 しかし、問題はそういうことではない。
 子供の頃から、前世も含め、今まで寝台で異性と一緒に眠ったことなどない。
 
(緊張する……)
 
 自業自得だが、おかしなことになってしまった。
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