64 / 100
第一部
交わした約束2
しおりを挟む
「あの……。実は私、旅行にいこうと思っていたのですわ。それで、ヴェルナーに帝都を出るまで、案内を頼んでいたのです。道に迷ったら困りますから。でも皇宮にいることになりましたし、旅行することはありません。なのでその約束は忘れてほしいと伝えたかったのです」
流石に、一緒に国外へ出ようとしていたとまでは話せない。
人買いについても、メラニーの罪が重くなってしまうかもしれない。
今生で被害に遭ったわけではないし、言う必要はない。
「彼に伝えたかったのはそれだけですわ」
ヴェルナーと話をしたかったが、ジークハルトにいらぬ誤解を受けそうなので、諦めた。
ヴェルナーに迷惑はかけたくない。
謝罪と、現在置かれている状況、旅に出られないことは一応伝えられた。
「そうか。なら行くぞ」
「殿下」
リアを連れて退室しようとするジークハルトに、ヴェルナーが言いつのった。
「一度握手をしていただけないでしょうか? 殿下にこうしてお会いできるのは、これが最後かもしれませんので」
ジークハルトは無言でヴェルナーの前に手を差し出し、彼と握手をした。
「ありがとうございます、殿下」
ヴェルナーは深く頭を下げる。だが足を縺れさせ、机の角に頭を強打した。
しかも、足を挫いたようで、その場に蹲った。額からは血が出ていた。
「う……」
リアは唖然とした。
器用で運動神経の良い彼がそういったドジをするのは珍しい。
初めてみた気がする。
(ヴェルナー……どうしちゃったの……)
「殿下にお目にかかり、しかも握手をしていただき舞い上がってしまいました……。頭を強く打ってしまいました」
屈みこんでいるヴェルナーを、ジークハルトはいささか呆れたように見下ろす。
「……仕方ない。宮廷医師を呼ぼう」
ジークハルトが扉を開けて廊下に出、リアはヴェルナーの横にしゃがんだ。
「ヴェルナー、大丈夫?」
驚きすぎて、心配するのが遅れた。
大丈夫だろうか。
すると彼はぱちりと目を開けた。
「大丈夫に決まってんだろーが」
「え?」
彼はさっと身を起こす。
「君と話したくて、わざと転んだんだ。こうでもしないと、あの皇太子が君に張り付いて、離れねー」
彼はいつもの口調で、ニヒルに笑んだ。
なんともないようで、リアはほっとした。
「よかったわ」
「よくねぇよ」
彼は溜息をついた。
「おれはこれから体調を崩すことにするよ。で、皇宮に滞在する。オレは君を救うって約束した。約束を破るのは性に合わねぇからな」
「え?」
ヴェルナーはリアの肩に手を置く。
「あの皇太子には気を付けろ。彼はマジ危険だ」
「危険って……」
(どういうこと?)
ヴェルナーはポケットから何かを取り出し、口に放り込む。リアは目を瞬く。
「それは?」
彼はにやっと笑った。
「一時的に具合が悪くなる薬さ」
「医師を連れてきたぞ」
ジークハルトが医師を呼んで、戻ってきた。
ヴェルナーは額の傷の手当てを受けている間に意識を失い、奥の部屋に運ばれた。
彼は皇宮で治療を受けることになった。
◇◇◇◇◇
リアはジークハルトに部屋へ送られたあと、室内をうろうろとした。
(気を付けろって……危険って、どういうこと?)
ヴェルナーに会いに行きたいが、部屋に鍵がかけられている為、出られない。
窓を開けてみるも、格子が嵌められている。
流石に、一緒に国外へ出ようとしていたとまでは話せない。
人買いについても、メラニーの罪が重くなってしまうかもしれない。
今生で被害に遭ったわけではないし、言う必要はない。
「彼に伝えたかったのはそれだけですわ」
ヴェルナーと話をしたかったが、ジークハルトにいらぬ誤解を受けそうなので、諦めた。
ヴェルナーに迷惑はかけたくない。
謝罪と、現在置かれている状況、旅に出られないことは一応伝えられた。
「そうか。なら行くぞ」
「殿下」
リアを連れて退室しようとするジークハルトに、ヴェルナーが言いつのった。
「一度握手をしていただけないでしょうか? 殿下にこうしてお会いできるのは、これが最後かもしれませんので」
ジークハルトは無言でヴェルナーの前に手を差し出し、彼と握手をした。
「ありがとうございます、殿下」
ヴェルナーは深く頭を下げる。だが足を縺れさせ、机の角に頭を強打した。
しかも、足を挫いたようで、その場に蹲った。額からは血が出ていた。
「う……」
リアは唖然とした。
器用で運動神経の良い彼がそういったドジをするのは珍しい。
初めてみた気がする。
(ヴェルナー……どうしちゃったの……)
「殿下にお目にかかり、しかも握手をしていただき舞い上がってしまいました……。頭を強く打ってしまいました」
屈みこんでいるヴェルナーを、ジークハルトはいささか呆れたように見下ろす。
「……仕方ない。宮廷医師を呼ぼう」
ジークハルトが扉を開けて廊下に出、リアはヴェルナーの横にしゃがんだ。
「ヴェルナー、大丈夫?」
驚きすぎて、心配するのが遅れた。
大丈夫だろうか。
すると彼はぱちりと目を開けた。
「大丈夫に決まってんだろーが」
「え?」
彼はさっと身を起こす。
「君と話したくて、わざと転んだんだ。こうでもしないと、あの皇太子が君に張り付いて、離れねー」
彼はいつもの口調で、ニヒルに笑んだ。
なんともないようで、リアはほっとした。
「よかったわ」
「よくねぇよ」
彼は溜息をついた。
「おれはこれから体調を崩すことにするよ。で、皇宮に滞在する。オレは君を救うって約束した。約束を破るのは性に合わねぇからな」
「え?」
ヴェルナーはリアの肩に手を置く。
「あの皇太子には気を付けろ。彼はマジ危険だ」
「危険って……」
(どういうこと?)
ヴェルナーはポケットから何かを取り出し、口に放り込む。リアは目を瞬く。
「それは?」
彼はにやっと笑った。
「一時的に具合が悪くなる薬さ」
「医師を連れてきたぞ」
ジークハルトが医師を呼んで、戻ってきた。
ヴェルナーは額の傷の手当てを受けている間に意識を失い、奥の部屋に運ばれた。
彼は皇宮で治療を受けることになった。
◇◇◇◇◇
リアはジークハルトに部屋へ送られたあと、室内をうろうろとした。
(気を付けろって……危険って、どういうこと?)
ヴェルナーに会いに行きたいが、部屋に鍵がかけられている為、出られない。
窓を開けてみるも、格子が嵌められている。
42
お気に入りに追加
1,467
あなたにおすすめの小説
麗しの勘違い令嬢と不器用で猛獣のような騎士団長様の純愛物語?!
miyoko
恋愛
この国の宰相であるお父様とパーティー会場に向かう馬車の中、突然前世の記憶を思い出したロザリー。この国一番の美少女と言われる令嬢であるロザリーは前世では平凡すぎるOLだった。顔も普通、体系はややぽっちゃり、背もそこそこ、運動は苦手、勉強も得意ではないだからと言って馬鹿でもない。目立たないため存在を消す必要のないOL。そんな私が唯一楽しみにしていたのが筋肉を愛でること。ボディビルほどじゃなくてもいいの。工事現場のお兄様の砂袋を軽々と運ぶ腕を見て、にやにやしながら頭の中では私もひょいっと持ち上げて欲しいわと思っているような女の子。せっかく、美少女に生まれ変わっても、この世界では筋肉質の男性がそもそも少ない。唯一ドストライクの理想の方がいるにはいるけど…カルロス様は女嫌いだというし、絶対に筋肉質の理想の婚約相手を見つけるわよ。
※設定ゆるく、誤字脱字多いと思います。気に入っていただけたら、ポチっと投票してくださると嬉しいですm(_ _)m
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない
亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ
社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。
エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも……
「エマ、可愛い」
いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。
紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」
と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。
攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
私の運命は高嶺の花【完結】
小夜時雨
恋愛
運命とは滅多に会えない、だからこそ愛おしい。
私の運命の人は、王子様でした。しかも知ったのは、隣国の次期女王様と婚約した、という喜ばしい国としての瞬間。いくら愛と運命の女神様を国教とするアネモネス国でも、一般庶民の私が王子様と運命を紡ぐなどできるだろうか。私の胸は苦しみに悶える。ああ、これぞ初恋の痛みか。
さて、どうなるこうなる?
※悲恋あります。
三度目の正直で多分ハッピーエンドです。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる