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第一部
彼らの事情4
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兄の愛は歪だ。
カミルもそうかもしれない。
リアがこの屋敷にきたときから、兄もカミルもリアに夢中だった。
元々、屋敷に飾られている肖像画をみるのが、兄弟は幼い頃からとても好きだった。
美しい少女が描かれた絵。それは父の妹だった。
月の女神と称されるほどの美貌。
初めてリアと対面したとき呆然とした。
絵の中から抜け出してきたような、少女。
会った瞬間に、兄弟は心を奪われてしまった。
凛とした美しさで、性格は思いやり深く、優しい。
想いは日々大きくなっていった。
けれど兄が、リアと結婚する確固たる意志をもっていた。
父にかけ合い、許しも得てしまった。
その矢先、リアとジークハルトとの婚約が決まり、兄は荒れに荒れた。
カミルもだ。
皇太子妃になどになってしまえば、会えなくなる。
兄とリアの結婚も嫌だが、まだマシだ。
ずっと公爵家の屋敷でリアは暮らし、一緒にいられる時間がもてる。
それで、カミルは兄に命じられた通り、婚約が流れるよう動いた。
メラニーがジークハルトを奪えるかどうか、正直、非常に疑問ではあった。
ふわふわした外見に反し、野心家で、したたかなメラニー。
兄の目論見通り、成功し、驚いた。
カミルは、リアにはできれば兄とではなく、自分と結婚してほしいと思っている。
(兄上がいる限り、無理なんだよね……)
カミルは溜息がでるのを止められなかった。
※※※※※
リアは近頃、ジークハルトと全く顔を合わせていない。
九歳で婚約してから、これだけ会わない日が続くのは、昔、彼が屋敷を訪れてすぐ帰ったとき以来だろうか。
彼からは多忙で会えないと、連絡が入っている。
しかし、メラニーといるところは、度々目撃されていた。
友人や、兄と弟からそういったことを、やんわり知らされた。
(……前世でも確かそうだったわ)
ジークハルトとしばらく会わないまま、舞踏会の日を迎えた気がする。
噂はとても大きく広がっていた。
リアとイザークは深い関係だと。リアは皇太子に近づく女性をいじめていると。ジークハルトはリアとの婚約を破棄し、メラニーと婚約すると。
イザークとのことや、誰かをいじめているなど、事実無根だ。が、婚約破棄は、実際にされる。
(…………)
噂を否定するのも億劫だし、もう悪役でいいと思っている。
メラニーはリアと違い、ジークハルトを拒むことなどしないだろう。
考えないと決めたのに、リアはぐるぐると想像してしまって、押さえつけられたように胸が苦しくなった。
(わかっていたじゃない、こうなるって)
ジークハルトがパウルと似すぎているために、リアは複雑な感情をいだいていた。
それで前世でも距離をとっていた。
そんなリアの態度に嫌気がさし、ジークハルトはメラニーに惹かれ、彼女を選んだのだろうか。
前世の舞踏会で、ジークハルトは随分、青白い顔をしていた。
彼の体調を心配したのを覚えている。
お茶会の日は……。
リアは記憶を辿り、その日彼と顔を合わせていなかったことにようやく気付いた。
(……私、あの日、前世でもジークハルト様と会っていないわ……)
前世では、メラニーに離宮の部屋に呼び出され、彼女と紅茶を飲みながら話している間に、リアはなぜか眠り込んでしまって、目が覚めたときは夕刻だった。
お茶会は終わってしまっていた。
疲れてリアが眠ったので、長椅子に横たえ席を外した、と前世でメラニーは言っていた。
(眠り込むほど私、疲れていたの?)
実際眠っていたので、そうなのだろう。
今生ではメラニーから、あのあと連絡がきた。
兄のイザークに、慌てていたからちゃんと説明ができなかった、ドレスを取りに行く途中、ジークハルトと遭遇して少し話をし遅くなった、ドレスを持って部屋に戻ればリアはすでに帰ったあとだった、申し訳なかったと。
(そろそろ旅支度をしましょう……)
旅は楽しかった。
リアは必要なものを街で購入した。
室内を整理し、持っていくものと置いていくものを分け、旅立ちの準備をすすめた。
カミルもそうかもしれない。
リアがこの屋敷にきたときから、兄もカミルもリアに夢中だった。
元々、屋敷に飾られている肖像画をみるのが、兄弟は幼い頃からとても好きだった。
美しい少女が描かれた絵。それは父の妹だった。
月の女神と称されるほどの美貌。
初めてリアと対面したとき呆然とした。
絵の中から抜け出してきたような、少女。
会った瞬間に、兄弟は心を奪われてしまった。
凛とした美しさで、性格は思いやり深く、優しい。
想いは日々大きくなっていった。
けれど兄が、リアと結婚する確固たる意志をもっていた。
父にかけ合い、許しも得てしまった。
その矢先、リアとジークハルトとの婚約が決まり、兄は荒れに荒れた。
カミルもだ。
皇太子妃になどになってしまえば、会えなくなる。
兄とリアの結婚も嫌だが、まだマシだ。
ずっと公爵家の屋敷でリアは暮らし、一緒にいられる時間がもてる。
それで、カミルは兄に命じられた通り、婚約が流れるよう動いた。
メラニーがジークハルトを奪えるかどうか、正直、非常に疑問ではあった。
ふわふわした外見に反し、野心家で、したたかなメラニー。
兄の目論見通り、成功し、驚いた。
カミルは、リアにはできれば兄とではなく、自分と結婚してほしいと思っている。
(兄上がいる限り、無理なんだよね……)
カミルは溜息がでるのを止められなかった。
※※※※※
リアは近頃、ジークハルトと全く顔を合わせていない。
九歳で婚約してから、これだけ会わない日が続くのは、昔、彼が屋敷を訪れてすぐ帰ったとき以来だろうか。
彼からは多忙で会えないと、連絡が入っている。
しかし、メラニーといるところは、度々目撃されていた。
友人や、兄と弟からそういったことを、やんわり知らされた。
(……前世でも確かそうだったわ)
ジークハルトとしばらく会わないまま、舞踏会の日を迎えた気がする。
噂はとても大きく広がっていた。
リアとイザークは深い関係だと。リアは皇太子に近づく女性をいじめていると。ジークハルトはリアとの婚約を破棄し、メラニーと婚約すると。
イザークとのことや、誰かをいじめているなど、事実無根だ。が、婚約破棄は、実際にされる。
(…………)
噂を否定するのも億劫だし、もう悪役でいいと思っている。
メラニーはリアと違い、ジークハルトを拒むことなどしないだろう。
考えないと決めたのに、リアはぐるぐると想像してしまって、押さえつけられたように胸が苦しくなった。
(わかっていたじゃない、こうなるって)
ジークハルトがパウルと似すぎているために、リアは複雑な感情をいだいていた。
それで前世でも距離をとっていた。
そんなリアの態度に嫌気がさし、ジークハルトはメラニーに惹かれ、彼女を選んだのだろうか。
前世の舞踏会で、ジークハルトは随分、青白い顔をしていた。
彼の体調を心配したのを覚えている。
お茶会の日は……。
リアは記憶を辿り、その日彼と顔を合わせていなかったことにようやく気付いた。
(……私、あの日、前世でもジークハルト様と会っていないわ……)
前世では、メラニーに離宮の部屋に呼び出され、彼女と紅茶を飲みながら話している間に、リアはなぜか眠り込んでしまって、目が覚めたときは夕刻だった。
お茶会は終わってしまっていた。
疲れてリアが眠ったので、長椅子に横たえ席を外した、と前世でメラニーは言っていた。
(眠り込むほど私、疲れていたの?)
実際眠っていたので、そうなのだろう。
今生ではメラニーから、あのあと連絡がきた。
兄のイザークに、慌てていたからちゃんと説明ができなかった、ドレスを取りに行く途中、ジークハルトと遭遇して少し話をし遅くなった、ドレスを持って部屋に戻ればリアはすでに帰ったあとだった、申し訳なかったと。
(そろそろ旅支度をしましょう……)
旅は楽しかった。
リアは必要なものを街で購入した。
室内を整理し、持っていくものと置いていくものを分け、旅立ちの準備をすすめた。
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