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第一部
兄弟の心配1
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「リア、おまえに幸せになってもらいたい」
「私も、お兄様に幸せになってもらいたいと思っておりますわ」
とてもモテる兄は、どういった相手を選ぶのだろうと、妹として気になっている。将来、自分の義姉となる。けれど、その頃には、きっとリアは帝国を出ているが。
「お兄様は、どういったかたがお好みですの」
「おまえだよ」
「え?」
「私の好みはリアだ」
オスカーはそう言って、リアの額に口づけた。青みがかった髪の下で、美しい双眸が煌めく。
リアはじっと兄に視線を返した。
オスカーはリアの髪を指で梳く。
「私が好きなのはね、おまえだ」
「お兄様……」
(これほど美しい容貌で、さらりと甘い言葉を吐くのだもの。女性に人気なのも当然ね)
リアはひどく感心してしまった。
「お兄様、流石ですわ……!」
「……何がだい?」
リアはぐっと拳を握った。
「その調子で、世のご令嬢をメロメロになさるのね……女性が失神してしまうのもわからなくはありませんわ!」
オスカーに声をかけられて、感極まって失神した女性も実際に今までいたのである。
「けれど、いつか刺されるのではないかと私、心配でもありますわ。どうぞお気を付けください」
リアは以前から思っていたことを口にした。
オスカーは人気がありすぎるから、女性間で刃傷沙汰になり、兄がそれに巻き込まれてしまうのではと、本気で危惧していた。
「私は、皆にこんなことを言っているのではないんだよ、リア?」
妹に対しても雰囲気を出してしまうのだから、推して知るべしである。
「おまえは何か、誤解をしているよ?」
「そんなことはありませんわ! 私、お兄様のこと、よく存じています。八歳のときから、兄妹なんですもの!」
リアがきりっと言えば、オスカーは物憂く両腕を組んだ。
「ふうん。本当に、私のことをおまえはよく知っているかい?」
「もちろんですわ」
「そうだろうか?」
「そうですわ」
「ならいいんだけれど……」
オスカーは腕を解いて、リアの手を取った。
「だがもっとリアに私のことを知ってもらいたいんだよ。それに、おまえのことを私はもっと知りたい」
兄はしっかりしてみえて、その実、寂しがり屋なのではないかと感じていたが、やはりそうなのかもしれない。
「兄妹の絆は強いでしょう?」
「では今日何があったか、話してはくれないかい?」
リアは兄から手をそっと引き抜いた。
「本当に何もないのですわ。もし心配なことがあれば、最初にお兄様に相談します」
そう言い、リアは部屋を後にした。
前世のことは話せない。
自室へと戻り、一人になると、今後のことをぐるぐると考えてしまう。リアは窓辺に寄り、心を落ち着かせるため美しい庭を眺めた。
(お茶でも飲みましょう)
部屋を出ようとしたとき、扉を叩く音がした。
兄だろうか。
扉を開ければ、弟のカミルの姿があった。
「カミル」
「姉上」
カミルは可憐な笑顔をみせる。
「ぼく、タルトを作ったんだ。一緒に食べない?」
カミルは料理が得意で、お菓子をよく作る。
ワゴンに甘い香りの漂うフルーツのタルトレットと、紅茶のセットが載っていた。
「ありがとう、嬉しいわ。丁度、お茶にしようと思っていたの」
「よかった」
リアはカミルを室内に通し、一緒にテーブルについた。
カミルお手製のタルトレットは、サクッと生地が口内で崩れ、苺やベリーは甘酸っぱく、生クリームととてもよく合い、美味しかった。
「本当にカミルは料理上手ね」
カミルはにこにこと笑う。
「ふふ。姉上は、甘いものが好きだから。ぼく、お菓子作りの腕を磨いているんだ」
「私も、お兄様に幸せになってもらいたいと思っておりますわ」
とてもモテる兄は、どういった相手を選ぶのだろうと、妹として気になっている。将来、自分の義姉となる。けれど、その頃には、きっとリアは帝国を出ているが。
「お兄様は、どういったかたがお好みですの」
「おまえだよ」
「え?」
「私の好みはリアだ」
オスカーはそう言って、リアの額に口づけた。青みがかった髪の下で、美しい双眸が煌めく。
リアはじっと兄に視線を返した。
オスカーはリアの髪を指で梳く。
「私が好きなのはね、おまえだ」
「お兄様……」
(これほど美しい容貌で、さらりと甘い言葉を吐くのだもの。女性に人気なのも当然ね)
リアはひどく感心してしまった。
「お兄様、流石ですわ……!」
「……何がだい?」
リアはぐっと拳を握った。
「その調子で、世のご令嬢をメロメロになさるのね……女性が失神してしまうのもわからなくはありませんわ!」
オスカーに声をかけられて、感極まって失神した女性も実際に今までいたのである。
「けれど、いつか刺されるのではないかと私、心配でもありますわ。どうぞお気を付けください」
リアは以前から思っていたことを口にした。
オスカーは人気がありすぎるから、女性間で刃傷沙汰になり、兄がそれに巻き込まれてしまうのではと、本気で危惧していた。
「私は、皆にこんなことを言っているのではないんだよ、リア?」
妹に対しても雰囲気を出してしまうのだから、推して知るべしである。
「おまえは何か、誤解をしているよ?」
「そんなことはありませんわ! 私、お兄様のこと、よく存じています。八歳のときから、兄妹なんですもの!」
リアがきりっと言えば、オスカーは物憂く両腕を組んだ。
「ふうん。本当に、私のことをおまえはよく知っているかい?」
「もちろんですわ」
「そうだろうか?」
「そうですわ」
「ならいいんだけれど……」
オスカーは腕を解いて、リアの手を取った。
「だがもっとリアに私のことを知ってもらいたいんだよ。それに、おまえのことを私はもっと知りたい」
兄はしっかりしてみえて、その実、寂しがり屋なのではないかと感じていたが、やはりそうなのかもしれない。
「兄妹の絆は強いでしょう?」
「では今日何があったか、話してはくれないかい?」
リアは兄から手をそっと引き抜いた。
「本当に何もないのですわ。もし心配なことがあれば、最初にお兄様に相談します」
そう言い、リアは部屋を後にした。
前世のことは話せない。
自室へと戻り、一人になると、今後のことをぐるぐると考えてしまう。リアは窓辺に寄り、心を落ち着かせるため美しい庭を眺めた。
(お茶でも飲みましょう)
部屋を出ようとしたとき、扉を叩く音がした。
兄だろうか。
扉を開ければ、弟のカミルの姿があった。
「カミル」
「姉上」
カミルは可憐な笑顔をみせる。
「ぼく、タルトを作ったんだ。一緒に食べない?」
カミルは料理が得意で、お菓子をよく作る。
ワゴンに甘い香りの漂うフルーツのタルトレットと、紅茶のセットが載っていた。
「ありがとう、嬉しいわ。丁度、お茶にしようと思っていたの」
「よかった」
リアはカミルを室内に通し、一緒にテーブルについた。
カミルお手製のタルトレットは、サクッと生地が口内で崩れ、苺やベリーは甘酸っぱく、生クリームととてもよく合い、美味しかった。
「本当にカミルは料理上手ね」
カミルはにこにこと笑う。
「ふふ。姉上は、甘いものが好きだから。ぼく、お菓子作りの腕を磨いているんだ」
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