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第一部

変わった少女

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(変な娘だ)

 ヴェルナーはリアを見送ったあと、秘密通路を使って戻った。

 ――今から約五年前、二十歳のとき、リア・アーレンスと出会った。
 
 そのとき彼女は十歳だった。
 プラチナブロンドの綺麗な髪に、紫色の瞳をした、まだ幼い娘だったが、冷ややかといえるほど凛とした美貌をもっていた。
 
 殴られている少年に彼女は近づき、囲んでいる男達を追い払った。
『風』の魔力を使って。
 とぼけていたが、この目は誤魔化せない。
 
 リアは、とにかく変わっている。
 家まで送っていったが、彼女はヴェルナーの店の周辺をうろつきはじめた。
 危ない奴らが徘徊している場所だ。
 そこに十歳の少女、しかも大貴族の令嬢が一人で出歩くのだ。
 
 ヴェルナーは愕然とした。
 店の場所を話すのではなかったと悔いた。
 どうみても、彼女はヴェルナーに会おうとし、来ている。
 長くはいないのだが、合間を縫って、たびたびやってくる。
 
 彼女は術者だ。大丈夫だろうと思うが、彼女を狙う悪党が術具をもっていれば、危険である。
 リアの姿を見つけたら、ずっと追い払っていたのだが、きりがない。とうとう根負けし、保護することにした。

「入れ」
 
 店の中に促がすと、彼女はぱっと顔を輝かせた。

「はい!」

 薄汚れた賭博場に入り、何が嬉しいのだ。破滅願望でももっているのか。
 ヴェルナーは、その少女を薄気味悪く思った。

(おれが悪党だったら、大変なことになってんぞ)

 自分は全く善人ではないし、悪人側ではあるだろうが。
 
 服装は地味で、まだ子供だが、稀にみる美少女だ。
 攫われれば、高値で売りとばされて、変態に買われる未来がたやすく想像できた。
 
 控え室の椅子に座らせ、ヴェルナーは彼女に尋ねた。

「なぜおれの周りをうろつくんだ。おれのストーカーかよ」

 すると彼女はもごもごと口ごもった。

「仲良くなりたくて……」

 彼女ははっと何かに気付いたようだ。

「でもこれって確かにストーカー……?」
「ああ、そうさ」

 十歳の少女からストーカーに遭うとは思わなかった。
 女に不自由はしていないが、様々な人間と過ごしてきた中で、ストーカー化する女がいないわけでもなかった。それは身分問わずだ。なるものはなる。貴族のほうが性質が悪かったりする。

「そうなりたくなかったら、おれの周りを、この危険な場所をうろうろするのは、金輪際やめると約束しな」
「約束できませんわ!」

 彼女はきりっと答えた。

「お嬢さんな……」 

 髪をかきあげ、ヴェルナーは溜息を吐き出した。少女はじいっとヴェルナーを見る。
 ヴェルナーは眉を顰めた。

「何?」

 少女は大人っぽい笑みを浮かべる。

「私が知っているあなたより少し若いので、不思議な感じがするのです」
「なんだそれ」

 少女はこほんと咳払いをし、物憂く告げる。

「ええと。この間もお話ししましたが、私、予知夢を見たのですわ」
「……予知夢、ね」
「はい。私とヴェルナーさんは、将来共に旅に出るでしょう!」

 危ない子供だ。それとも貴族の子供の間で、こういう遊びが流行っているのか?
 ヴェルナーは彼女を危険人物に認定した。
 
 
 
 ――しかし、リアは変わっているが、しっかりした子ではあった。
 彼女は、遊びや冗談で言っているわけではないようだった。
 何かを隠してはいるが、ほぼ事実を語っている。
 
 実際、彼女がいう時期に南国の王族が、亡くなった。
 大雨が続く日々も当てた。 
 橋が崩れる事故も、リアが事前に知らせなければ、大惨事となっていただろう。
 他にも色々的中させていて、彼女は今までに、多くの人間を救ってきた。
 
 リアは予知夢を見ることについて、ヴェルナー以外には内緒にしている。
 公爵家に迷惑をかけることになるかもしれないからだ。
 彼女は隠密に動いており、ヴェルナーはそんな彼女に協力していた。
 
 基本的には自分の周りのことしかわからないらしいが。
 リアとは今、年齢を超えた不思議な関係となっていた。
 家族ではない。ましてや色恋の相手でもない。
 
 どう表せばよいのかわからないが、強いていうなら友人か。
 彼女は自分たちを『仲間』と表現している。
 
 彼女は『風』術者。
 秘めている力が強く、ヴェルナーにとって非常に興味深い対象でもある。

(あの魔力、一体何なんだろうな)
 
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