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第一部
何者?
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「通りがかりの者ですわ。子供を殴るのは許せないけれど、人の物を盗むのもいけないことです」
少年はぎりっと唇を噛みしめる。
「……盗まないと、生きていけないんだ」
「あなたは殺されていたかもしれませんわ。もっと違う生き方を――」
「この生き方しかない」
少年は吐き捨て、リアが止めるのを聞かず、駆けだした。
繁華街にはスリや物乞いなどが、多くいる。
この現状、なんとかできないだろうか。
彼の背を見ながら、両腕を組んで考え込んでいると、後方で声がした。
「えらく肝の据わったお嬢さんだな」
(この声――!)
リアはばっと後ろを振り返る。
「ヴェルナー……!」
黒づくめの服に、同色の帽子を被った長身の青年。
日に焼けた肌に、鋭い瞳、通った鼻、官能的な唇。
眼帯をしているので、淡いグリーンの右目しか見えていないが、彼はオッドアイ。
かなりの美青年である。
――ヴェルナー・ ヘーネス。
「え……お嬢さん、なんでおれの名を知ってんの?」
前世で、旅を一緒にしていた仲間だったから。
彼に会いにきたのだけど、まさか本当に会えるとは。
ラッキーだが、前世云々を話して信じてもらえるだろうか。
リアは唇を引き結ぶ。
彼は特殊な能力の持ち主であるが、信じてもらえない可能性が大きい。
どうしようかしらと思いながら、彼を見ていたが、昔出会った頃より六歳ほど若いヴェルナーは、まだ頬のあたりに少年らしさを残していた。
(なんだか不思議な感じ)
ふふっと思わず口元が綻んでしまう。
他の人は、今の姿も知っていたのだが、ヴェルナーは、この年頃でまだ出会っていなかった。
今生が初めてである。
「なあ。なんで知ってんだ?」
「当たりました? そういう名前っぽいと思っただけなのですわ」
「…………。ばっちり当たったが」
「ええっ、私、すごいかも!」
手で口を覆って、驚いてみせる。しかし演技などできないリアのわざとらしさに、ヴェルナーは目を据わらせた。
「今の疾風、君が起こしたんだろう?」
「疾風?」
リアはぱちぱちと瞬いた。
「そういえば、風が吹いたような……? でも私では――」
「おれに隠しても無駄だ。お嬢さん。君、術者だ」
やはり、今生でも彼は能力を保持しているようである。
他の人も皆、前世と同じで、起きる出来事も同じだから、きっとそうだと思っていたのだ。
――ヴェルナーは術者の魂を見る能力を持つ。
前世、彼は高級賭博場の経営者かつ、魔術探偵でもあった。
危険な思想の術者を見つければ、帝国に報告する組織に属しているのだ。
なぜ、そういった組織に属することになったか等、詳しい話は彼がしたがらなかったので、前世リアも詮索しなかった。
互いに過去を捨て、冒険者として生きたのだ。
仲間であり、色恋は皆無である。
「さっきの子は、おれの知ってる子だ。助けに入ろうとしたら、君がやってきて、男を追い払った。あの子を助けてくれたこと、礼を言う。ありがとう」
リアは小さくかぶりを振る。
「私は何もしていませんわ」
「お嬢さん、『風』の術者だろう」
彼はリアを見ていた目をふっと細めた。
「……しかし、変わった魔力だな」
彼にここで『闇』の術者であることを知られても困る。リアはおかしな思想などは持っていないが、『闇』術者が危険だと判断されないとも限らない。
リアは少々慌てた。
「ヴェルナー・ヘーネスさん」
「……姓も雰囲気でわかったと?」
「……はい」
ああ、焦って墓穴を掘っている。
「……君、何者だ?」
少年はぎりっと唇を噛みしめる。
「……盗まないと、生きていけないんだ」
「あなたは殺されていたかもしれませんわ。もっと違う生き方を――」
「この生き方しかない」
少年は吐き捨て、リアが止めるのを聞かず、駆けだした。
繁華街にはスリや物乞いなどが、多くいる。
この現状、なんとかできないだろうか。
彼の背を見ながら、両腕を組んで考え込んでいると、後方で声がした。
「えらく肝の据わったお嬢さんだな」
(この声――!)
リアはばっと後ろを振り返る。
「ヴェルナー……!」
黒づくめの服に、同色の帽子を被った長身の青年。
日に焼けた肌に、鋭い瞳、通った鼻、官能的な唇。
眼帯をしているので、淡いグリーンの右目しか見えていないが、彼はオッドアイ。
かなりの美青年である。
――ヴェルナー・ ヘーネス。
「え……お嬢さん、なんでおれの名を知ってんの?」
前世で、旅を一緒にしていた仲間だったから。
彼に会いにきたのだけど、まさか本当に会えるとは。
ラッキーだが、前世云々を話して信じてもらえるだろうか。
リアは唇を引き結ぶ。
彼は特殊な能力の持ち主であるが、信じてもらえない可能性が大きい。
どうしようかしらと思いながら、彼を見ていたが、昔出会った頃より六歳ほど若いヴェルナーは、まだ頬のあたりに少年らしさを残していた。
(なんだか不思議な感じ)
ふふっと思わず口元が綻んでしまう。
他の人は、今の姿も知っていたのだが、ヴェルナーは、この年頃でまだ出会っていなかった。
今生が初めてである。
「なあ。なんで知ってんだ?」
「当たりました? そういう名前っぽいと思っただけなのですわ」
「…………。ばっちり当たったが」
「ええっ、私、すごいかも!」
手で口を覆って、驚いてみせる。しかし演技などできないリアのわざとらしさに、ヴェルナーは目を据わらせた。
「今の疾風、君が起こしたんだろう?」
「疾風?」
リアはぱちぱちと瞬いた。
「そういえば、風が吹いたような……? でも私では――」
「おれに隠しても無駄だ。お嬢さん。君、術者だ」
やはり、今生でも彼は能力を保持しているようである。
他の人も皆、前世と同じで、起きる出来事も同じだから、きっとそうだと思っていたのだ。
――ヴェルナーは術者の魂を見る能力を持つ。
前世、彼は高級賭博場の経営者かつ、魔術探偵でもあった。
危険な思想の術者を見つければ、帝国に報告する組織に属しているのだ。
なぜ、そういった組織に属することになったか等、詳しい話は彼がしたがらなかったので、前世リアも詮索しなかった。
互いに過去を捨て、冒険者として生きたのだ。
仲間であり、色恋は皆無である。
「さっきの子は、おれの知ってる子だ。助けに入ろうとしたら、君がやってきて、男を追い払った。あの子を助けてくれたこと、礼を言う。ありがとう」
リアは小さくかぶりを振る。
「私は何もしていませんわ」
「お嬢さん、『風』の術者だろう」
彼はリアを見ていた目をふっと細めた。
「……しかし、変わった魔力だな」
彼にここで『闇』の術者であることを知られても困る。リアはおかしな思想などは持っていないが、『闇』術者が危険だと判断されないとも限らない。
リアは少々慌てた。
「ヴェルナー・ヘーネスさん」
「……姓も雰囲気でわかったと?」
「……はい」
ああ、焦って墓穴を掘っている。
「……君、何者だ?」
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